『下忍と最強のバカップル達』








 その日、ルーキー9と呼ばれるメンバーは全員そこに居た。
 合同任務でもなく、ただ単純に気の合う仲間同士で遊びに行こう、という運びになっていたからだ。
 それ、だけでは収まらなかったが。




「…ナルト?」
「…シカマル?」

 呼べば、2人は血飛沫を軽快に上げながら、気軽に手を振ってくる。

「ほい、シカにパス」
「いらねーけど、ありがとよ」

 なんて妙に爽やかな笑顔で2人は血を浴びる。
 その強さ。
 現れては消えて現れては消えて、そんな状況なのに彼らには軽口を叩く余裕があって、
けれどもそれを相手する黒ずくめの男達は次々に命を失っていく。

 彼らとて暗部のはずなのに。
 彼らとて他国の奥深くまで進入してこれるほどの実力者のはずなのに。
 たった2人の子供に、まるで紙切れのようにあしらわれているのだ。

「ナル君後ろ!!!」

 子供達にとって、全く見えない次元での戦いに、ただの1人、少女はナルトの危機に叫ぶ。
 サスケの写輪眼でも全く追いつかない速度なのに、少女の目には見えているのだ。
 それも、白眼を使用していないにも関わらず。

「ヒナタ。アリガト!」

 奇妙に嬉しそうにナルトは後ろの忍を切り捨てて、こんな時にも関わらずヒナタの目の前に現れて、にっこりと、ひどく艶やかな笑みを浮かべた。
 その綺麗な笑みに、ヒナタは顔を赤らめて俯く。
 その様子が、あまりにも可愛らしくて、ナルトが場所もわきまえずに少女に抱きついた。


「な、ナル君…!?」


 ヒナタの困惑の声を掻き消すように、様々な感情の入り混じったよく分からない叫び声が下忍のメンバーから上がった。


 いのとサクラからはただただ驚愕の叫び声。
 チョウジからは感心したような短い驚きの声。
 キバとサスケからはそりゃあもう普段のイメージをぶち壊すような凶悪な怒りの叫び声。
 シノは驚きの声を思わず上げた後、今にもナルトに殴りかからんとしているキバとサスケを押さえつける。

 彼らは完璧に今の立場を忘れている。
 今現在、こんなやり取りの外側では、シカマルと忍との戦いが続いているのだ。





 だが、シノの努力に関わらず、結局ナルトは殴られる。




 それも、盛大に、かなり全力で。
 それを為したのは誰も想像だに出来なかった人物。

 誰か?


 誰かって。




「「「「「ヒナタっっ!!!???」」」」」




 そう。確かに、凶悪なチャクラを立ち上らせ、ナルトを派手に吹っ飛ばしたのはヒナタだった。
 ひどく荒く息をついている。
 その頃にはもうシカマルと敵との戦闘は終わっていて。
 シカマルは心底呆れたように息をついた。

「ヒナ。やりすぎ」

 なんとも静かなシカマルの声。
 下忍らはまるで幽霊でも見たような顔でヒナタを見る。

 だって。



 何故。



 どうして。




「「なんでヒナタが2人もいるのよぉーーーーーーーーー!!!!!!!」」





 下忍全員の思いをのせた、いのとサクラの抜群に息の合った叫び声。


 ナルトを吹き飛ばしたヒナタ、くるりと2人を見て、



「うるさい。黙れ。死ね」



 ひどく凶悪なオーラをそのままに言った。
 いのにサクラは言うに及ばず、全下忍がぴしりと固まる。

「だ、駄目だよ、ヒナ…そんな事言っちゃ…それに、ナル君が…」
「いいの!そんな事よりヒナタ!?大丈夫っ?怪我してない?」

 心配そうにヒナ…でいいのか?はヒナタに問いかける。
 その真剣な様子が分かったのか、ヒナタは柔らかく微笑んだ。

「うん。ナル君とシカ君が助けてくれたから」
「そうそう。俺ってば頑張ったんだからちょっとくらいいいじゃん。ヒナの馬鹿」

 いつ復活したのか、先程吹っ飛ばされたナルト、けれども身体には傷一つ付いていない。

「うるさい。ナル」

 見向きもしないで答えた少女に、ナルトは唇を尖らせた。
 シカマルがその様子に苦笑して、ヒナを抱き寄せた。

「シカ?」
「ヒナのそういうところがすっげー好き。って思って」

 嬉しそうに顔を緩めるシカマルに、ヒナは柔らかな笑みを浮かべる。
 そうすると、ヒナタとヒナは全く同じ。

「そーゆーシカの素直なところが好きよ」

 なんのてらいもなく言い合う2人に、ヒナタが頬を真っ赤に染めて、ナルトが不満そうに口を開く。

「っつか俺も素直じゃん」
「口に出せないくせに手が出るやつは素直じゃなくてただの馬鹿。っていうか変態」
「ナルの場合は互いの意思確認がなっていないのでただのセクハラ」

 コンマ一秒で同時に返ってきた答えに、ナルトは「うっ!」と言葉を詰まらせる。
 言い訳のしようがないのだ。



「あの…だから…なんでヒナタが2人…?」

 ぽかん、としたままの下忍のうち、勇気あるサクラのその問いに、ヒナタとヒナはそろって首を傾げた。
 どこまでも同じタイミング。
 返答も一字一句違わず、全くの同時。




「「だって双子だから」」




 はい?
 と、首を傾げたのは、下忍全員であっただろう。

「えっと…なんで…?」
「「双子だから」」

 いや、問題はそこではないのだ。
 双子だったなら双子だったでいい。
 いやいや、いいわけでもないのだが…とにかく、問題は何故ヒナの存在は知られていないのか、ということだ。
 そもそもナルトとシカマルが異常に強い理由だって分かっていない。

 と、言うか、聞くタイミングを完璧に失ってしまっている。
 彼らの混乱を手に取るように分かっていながら、シカマルは笑うだけ。
 同じく分かっていながらシカといちゃこいているだけのヒナ。
 なんとも似たもの同士のカップルだ。

「あ。そうだ。ばらしたら殺すから」

 突然、今日はいい天気だ、という様な爽やかな陽気を纏って言い切ったナルトに、下忍の表情が固まったまま青ざめていく。

「あ、あの。殺すって違うから…記憶を消すだけだから。安心して」

 にっこりと、ヒナタはそう言ったのだが、それも結構残酷な事だと気付いていないのだろうか?

「まぁ。なんっつの。隠すなら理由があるってこった」
「っていうか、ナルは記憶消すだけかもしれないけど、私は違うかもね」

 ヒナは、ヒナタと同じ笑い方で、にっこりと下忍らに釘を刺す。
 黒い。
 明らかに背後のオーラがどす黒い。
 そこだけがヒナとヒナタの差だ。



 そして、下忍たちの取った行動は…。









「ナルト君…はい、お弁当」
「お。サンキューヒナタ!」

 顔を赤く染めながらも、嬉しそうに包みを差し出すヒナタに、ナルトは心底嬉しそうに目を輝かせて弁当を受け取る。
 その、少女と少年の様子に、下忍らはげっそりとした顔を合わせた。
 幾つか言葉を交わしながら、途中ナルトが感極まったようにヒナタに抱きつき、どこからか下忍らに察知できないところからヒナの突込みが入るのも、もはや見慣れた光景だ。

 揃いも揃って、上から下まで傷だらけ泥だらけの彼らは、憔悴しきった表情で顔を合わせる。
 勘弁してください、と。
 そもそもその弁当はナルトにだけ振舞われるものであって、自分達はまたも飯抜きに違いないのであろう。

 ヒナタとヒナ、それにナルトとシカマルの事をばらさないと誓った彼らは、こうしてナルトに遊ばれるようにして修行をつけられる。
 確かに強くなれるのは嬉しいが、こうして2人のいちゃつきっぷりを毎回毎回見せられるのはどうかと思う。

 ………もっとも、彼らなんかより、密着していないほうが珍しいバカップルも存在するわけだが。




 その、バカップルである2人は、下忍らの様子と、ナルト達の様子を見て楽しげに笑う。

「…で、シカ」
「あー?」
「狙われてること分かってて遊びに行ったでしょう」
「……バレタ?」
「…やっぱり」

 はぁ、と息をつく少女の横顔を、シカマルは覗き込んだ。

「怒った?」
「当たり前。あの時どれだけ焦ったと思っているの?」
「やっぱり?でも、ま。下忍らをこっち側に取り込んでおくいい機会だろ」
「全く。…でもそういうところも好きよ」
「惚れ直した?」
「勿論」

 くすくすと笑いながらシカマルと啄ばむような軽いキスを交わし、背中からシカマルが包み込むようにヒナタを抱きしめた。



 彼らは今日も今日とて仲良しのようです。
2005年6月3日