過去拍手小話です。
2008年6月〜12月分。

6月 サスいの 雨
6月 シカテマ 雨
6月 ナルヒナ 雨
6月 鬼鮫とイタチ 雨
7月 スレナルヒナ 七夕
7月 スレシカテマ(スレナルヒナ) 七夕
8月 スレナルヒナシカテマ 手を握る
9月 大分未来設定でサスいの
9月 スレサスヒナ お祭り
10月 大分未来設定でサスいの(9月拍手と同設定) サスケver
10月 大分未来設定でサスいの(9月拍手と同設定) いのver
10月 カンクロウとテマリ お化粧
11月 ナルヒナ 願い
6月
 サスいの 雨



「雨ねー」
「…」
「これはー帰るのが大変そうよねー」
「……」
「女の子が傘もささないでこんな雨の中帰ったら凍えちゃうわよねー」
「………」
「勿論、サスケ君は送ってくれるのよねー?」

 にっこりと笑った悪戯な表情に今日もまた引き回される
6月
 シカテマ 雨



「テマリ」
「ん、なんだ」
「雨が降ってるぞ」
「………本当か?」
「んなめんどくせー嘘ついてどうするよ」
「…木の葉は湿っぽい。今日は特にだ。それは、雨が降るからか」
「さぁな。それで、傘とか持ってきてねーのかよ」
「…砂漠で、雨が降ることは稀でな」
「……めんどくせー」

 それでも傘を貸そうかと思うのは彼女に濡れては欲しくないから
6月
 ナルヒナ 雨



「うわっっ、ヒナタ、降って来たってばよ!!!」
「えっ…あ、きゃ…っ、な、ナルト君っ…!?」
「早く雨宿りだってばよー!」

 走り出した少年に握られた手を真っ赤になって少女は握り返した

6月
 鬼鮫とイタチ 雨



「雨ですねぇ〜」
「……」
「じめじめしてて気持ち悪いですよねぇ、イタチさん」
「………!?」
「ってなんでそんな変な顔するんですか? え、ちょ、なんでそんなお前自分の姿鏡で見てみろよみたいな顔なんですか!? なんか目が、目が冷たいですよっ!?」
「…………………………………………」

 鮫さんは雨が苦手だなんて鼬さんは信じない
7月
 スレナルヒナ 七夕



「願い事、書いた?」
「書いた書いた。もうばっちり」

 笑い合って、お互い右腕を目の前に突きつける。
 指先にぶらり、下がる細長い紙。
 七夕というイベントに欠かせないのは願い事。

"日向ぶっ壊す"
"抜け忍になるぜ"

 願い事? を見せ付けあって、2人、笑う。
 どこか毒々しい、禍々しい、満開の笑顔。

「これを一番高い笹の一番高い場所にくくりつければ完璧」
「だね。ナルト君、どこが一番高いと思う?」
「あーやっぱ火影岩の上じゃね?」

 がん、がん、と笹を片手に持って。
 ひょいと走り始める2人の暗部。
 なんとも怪しげなその光景。けれど誰も突っ込まない。
 空中を舞う2人に誰も気付かないから。

 たどり着いた先で、笑う2人。

「かんっぺき!」
「完璧だね」

 火影岩に突き刺した2本の刀。
 そこに括りつけられた笹が2本。
 願い事、2つ。

 笑いあう2人はその出来栄えに互いの手を鳴らす事で褒め称えた。
7月
 スレシカテマ(スレナルヒナ) 七夕


「おい」
「んだよ」
「顔岩の上」

 端的な言葉に、シカマルは自分の部屋の窓から顔を出す。

「………何やってんだあいつら」
「七夕ってやつだろう」
「あんなところでするなよめんどくせー。っつか、ご丁寧に結界まで張ってやがる」
「張らないとまずいような願い事なんだろ」
「日向つぶすとか、蛇殺すとか、木の葉抜けてやるとか、そんなんだろ、どーせ」
「願い事というか、それは年内目標だな」
「たく、めんどくせーヤツら」

 ため息と共に、顔を部屋の中へ。
 戻した目の前に、面白そうに輝く女の顔。

「……………………んだよ、テマリ」
「お前は、願い事してないのか?」
「…してねー」

 願い事するより、行動した方がよっぽど早い。
 面倒くさがりのシカマルにとっては、それが難しかったりするが、それはそれ。

「そうか、つまらない」
「…あんたは、したのかよ」
「今、した」
「はぁっ?」
「"奈良シカマルが今年中に洒落た指輪をくれますように"」

 にやり、笑う女に、シカマルは絶句する。

「………年内目標かよ」
「今すぐくれるような甲斐性を持っているとは思えなかったからな」
「……………………」

 図星をつかれて、シカマルは大きな大きなため息をついた。

「俺の願い事」
「なんだ」
「"あんたから少しは素直な言葉が出ますように"」

 苦笑とため息と苦渋と色々混じった願い事。
 ふむ、と女は少し考えて。
 真顔でシカマルに向き直って。
 なんとなく、シカマルが身を引いたところでにんまり笑って。

「なら抱きしめてキスをくれ」

 ある意味とてつもなく素直で、シカマルにとっては非常にやりにくい要求をした。
8月
 スレナルヒナシカテマ 手を握る



「手を繋ごう、ヒナタ」
「…何、言ってるの?」
「だから、手を繋ごうって」
「………暑さで頭が湧いた?」

 ひどい言いようにも動じず、ナルトは強引にヒナタと手を繋ぐ。
 会話はひどく密やかで誰にも気付かれないようなもので、けれど唐突に手を繋いだ2人には、さすがに周囲も目をむいた。

「なっ、ナルト…お前っ」
「うん。何だってばよ?」
「ひゅーやるじゃないのナルト!」
「あんた達いつの間にそんな関係に」
「ヒナタ…大丈夫か?」
「…あ、えっ、うっ、うん…」

 真っ赤になって棒のように硬直する少女と、悪びれない全くもっていつもどおりの少年に視線が集中する中、テマリはふと自分の右手を見つめる。
 大きな扇子を扱うため、幾つもの豆ができて、つぶれて、硬くなった、そんなお世辞にも綺麗とはいえない手だ。

 ふと、その上にさしてサイズの変わらない手が被さる。
 顔を上げると、年下の少年の顔が目に入った。

「……何」
「…別に。なんとなく」

 心なし、顔が赤い。
 それにつられてかどうか、体温がジワリと上昇して、落ち着かなくなった。
9月
 大分未来設定でサスいの



「そこの不法侵入者ー、何してるのかしらー?」

 いのの呼びかけに、木の陰からこそりと闇が動いて、男が現れる。
 黒い髪に、黒い瞳。大分昔に木の葉で下忍だった男。
 抜け忍と呼ばれ、何度も追っ手をかけられ、そのたびに生き延びてきた男だ。決してこんなところに居ていいような人物ではない。

 …のだけども。

 いのの扱いはとてつもなく、軽い。

「…呼び出しておいてその言い草か」

 全くもって不満そうな言葉に、いのは笑う。
 そう、今や木の葉のブラックリストに載るS級犯罪者を、わざわざ呼び出した張本人はいのだったりする。

「…それで、超重要機密事項とは?」
「あーそれ? それ、嘘」

 あっけからんと言い放ったいのに、サスケはぽかんとまぬけ面をさらして、それから頭を抱えた。大げさなため息も一つ。
 今現在のサスケは名前を変えて情報屋何ぞしているので、様々な情報を集めている。いのは木の葉における強力なパイプラインだが、こうして無駄に呼び出されることも、実は初めてではない。

「帰る」
「ちょっとー女の子の誘いを断るわけー?」
「何の誘いだ。そもそも女の子って言える年かよ」
「うるさいわねー。いいじゃない。心はいつでも乙女よー」
「アホか。言ってろ。俺は帰る」
「まぁ、いいからいいから。どーせ帰ったって寂しい男の1人暮らしの癖に」
「………」

 反論できずに、サスケはもう一度大きなため息をついた。
 確かに、今から帰っても家には誰も居ないし、そもそも今日中にたどり着ける可能性自体が低い。
 足を止めたサスケの腕を掴んで、いのはご機嫌で木の葉へと向かう。最早サスケの抵抗はない。
 ブラックリストに載っている上に知り合いが多い木の葉だが、サスケの様相は大分様変わりしているので気づく者は居ないだろう。昔の仲間の中で今のサスケを知っているのはいのだけだし、まさかこんなにも堂々と木の葉にいるとは思うまい。それでも一応の対策として、術で髪と目の色を変えておく。

「………で?」
「今日、何の日か分かるー?」
「………」
「木の葉最大のー、花火大会っ」
「………はぁ?」

 だからどうした、と言わんばかりのサスケに、いのはむふふと笑う。

「木の葉の花火師の集大成! 今年は同盟国の重鎮も招かれてほんっとうーに盛大に行うのよー!」
「……お前、そんなことのために俺を呼んだのか…」
「いいじゃない。どーせ暇でしょー? それにー、里抜け以来、でしょ? 花火なんてー」
「………」

 暇という言葉は納得いかないが、確かに、花火なんて何年もお目にかかっていない気がする。そう思えば、興味をそそられないことも、ない。
 それに、いのは本当に楽しそうにしているから、前々から今日を待っていたのだというのがよく分かった。余程大きな大会なのだろう。
 ふと、いのは足を止めて、サスケを見上げる。
 淡い、水色の瞳に惹きこまれる。

「私がサスケ君と見たかったのよー」

 そう、いのは華やかに笑って。
 サスケは降参のため息を、静かについた。
9月
 スレサスヒナ お祭り



「サスケ君、デートしよう」

 あんまりにも珍しいお誘いに、何にも考えないでのってしまったことが今思えばいけなかったのだろう。
 げっそりと、疲れ果てながらそう思う。
 サスケの手の中には、祭りといえば頭に浮かびそうなあらゆるものがあった。
 綿菓子、りんごあめ、焼きそば、はしまき、お好み焼き、たこ焼き、チーズボール、ロングウィンナー、串団子、焼き鳥、ヨーヨー、金魚、冷やしパイン、カキ氷、ラムネ、ソフトクリーム、イカ焼き…最早持ちきれる量じゃないので、変化と影分身で人数を増やして持っている状況。これら全て、自分の財布の中身が変わったものであるが、自分のものではない。

「えいっ」
「はい大当たり〜」

 出店のおじさんの声と共に、ぱたぱたと足音がして、こんな状況に陥らせた少女が帰ってきた。

「見て、サスケ君、ぬいぐるみ貰っちゃった!」

 疲れ果てたサスケとは対照的に、輝かしい笑顔でぬいぐるみを差し出す少女。どこぞの旧家で大事に大事に育てられたお嬢様。その姿は単なる演技でしかないのだが、今の少女は正真正銘素である。
 落ちこぼれとか役立たずとか散々言われている癖して、ぶっちゃけサスケどころか暗部レベルの力を持つ少女だったりするのだが、そのことはサスケしか知らない。
 優しいとか、大人しいとか、人見知りとか、そんな代名詞ばっかり引っ付けてる癖に、人を散々引っ掻き回すわ、恐ろしい修行をつけるわ、人の命をなんとも思ってないわの恐ろしい少女なのだが、そのこともサスケしか知らない。

 実は恋人同士と呼ばれるようなそんな関係であるのだが、これまた本人たちしか知らない。

 よって、2人で祭りに来ていることは誰も知らなくて、2人もまたばれないように変化している。

 …それを良い事に、少女は最早狩人と化していた。

「あっ、ソフトクリーム溶けちゃう!」

 そう言ってサスケの手から奪う。
 そう、サスケが手に持つ全ては、まさしく彼女の買ったものであった。
 その癖何故かお金はサスケ持ちというなんとも理不尽な状況。

 いわく

「サスケ君、暗部に所属してるからお給料沢山貰ってるでしょ? だから勿論奢ってくれるよね?」

 いわく

「私ね、今まで祭りなんて全然行かせてもらえなかったの、でもこないだ晴れて正統後継者の座を外れてね、もうどこにでも行っていいみたいな扱いでね、だから、こんなに大きな祭り初めてなの」

 いわく

「ずっと憧れてたの。好きな人と一緒にお祭りで歩くの」

 ………騙された………!

 そう確信したのは祭りが始まってすぐのことだった。少女の関心事は、確実にサスケではなく、数々の出店であり、その出展物だ。
 ヒナタはかなりの実力者であるが、暗部には所属していない。その力を火影も知らないからだ。よって、下忍時の給料しか持っていない。下忍の給料なんてはっきり言って大した物じゃなくて…。

 まぁ、確かに思う存分祭りを楽しむなら不十分なのだろう。
 はしゃぎにはしゃぎまくる少女は殆んどサスケなんぞ見ておらず、きょろきょろと視線を巡らせては走り回っている。
 全くもって年相応で可愛らしいのだが、さすがに疲れた。

「ヒナタ…いい加減に休まないか?」
「えっ?」

 振り返りざまの、泣きそうに歪んだ悲しそうな、しょんぼりとした、顔。

「っっ。………いや、いい」
「うん! あ、あれ何かな!?」

 …………………………………………負けたっっ!
 握りこぶしを握って、そうさめざめとサスケは涙ぐむのだった。
10月
 大分未来設定でサスいの(9月拍手と同設定) サスケver



「………お前まさか」
「ばれちゃったー?」

 全く悪びれなく笑う女に、サスケは肺活量限界までため息をついた。
 仕事と呼び出されて私用。いのという女を相手にするなら日常茶飯事とも言えることだった。木の葉くんだりまでのこのこやってきた自分が情けない。大体なんで毎回毎回言われるがままに来てしまうのか我ながら分からない。

「…それで、今度は一体何の用だ」

 サスケの言葉に、いのは珍しく躊躇うように言葉をつぐんで、そっとサスケを見上げる。
 その常にない動作に戸惑い、落ち着かなくなった。

「………会いたかったから、じゃダメかしらー?」
「………」

 確実に、裏がある。
 絶対裏がある。
 じゃなきゃこんなしおらしいことをこの女が言うはずない。

「……………それで、何が目的だ」

 じとり、と睨みつけて、牽制する。

「目的がないと、いけないかしらー?」
「………」

 目が合う。
 再びの沈黙。
 沈黙。
 ただ、ひたすらの沈黙。
 非常に居心地の悪い沈黙。

 ………悪い事をした気分になるのは何でだ。

「……………ま、いいわー」
「……なんだよ」
「べっつにー? それよりー、早く行きましょー?」
「行くって、どこに」
「ナルトのー誕生日プレゼント買いにー」
「はぁ!? なんで俺が…」
「いいからいいから」

 いつもの笑顔でぐいぐいと背中を押すいのに、何故か安堵してしまい、そのことに、驚いた。

 だから。

 ―――呼ばないと来る勇気なんてない癖にー。

 そんな囁き声を聞き逃した。
10月
 大分未来設定でサスいの(9月拍手と同設定) いのver



「………お前まさか」
「ばれちゃったー?」

 サスケのあからさまに警戒した、それでいて諦めのついた声に、いのは思いっきり笑って答える。
 全くいつもいつも懲りずにやってきてくれるものだ。

「…それで、今度は一体何の用だ」

 私用だ。思いっきり。
 それを相手も分かってる。

「………会いたかったから、じゃダメかしらー?」
「………」

 予想通りの沈黙。
 あきらかに疑う目。ちっとも言葉通りに受け取ってはくれない。もっとも、そこまで望んではいないけど。
 いないのだけれど。
 …ここまで予想通りだと腹が立つ。

 会いたくて何が悪い。
 会いたくなければ月に何度も呼び出すなんてことしない。こっちだって忙しい上忍やっているのだ。そんなに時間が沢山あるはずがない。
 でも、ほんのたまにぽつりと空くスケジュールの穴を狙って、こうして会うようにしているのだ。会いたいからだ。
 大体サスケだって本当に嫌なら絶対に来ないだろう。それくらい分かっている。
 分かっていないのはサスケくらいだ。

「……………それで、何が目的だ」
「目的がないと、いけないかしらー?」
「………」

 目が合う。
 再びの沈黙。
 沈黙。
 ただ、ひたすらの沈黙。
 非常に居心地の悪い沈黙。

 ………明らかにたじろぎ、落ち着きをなくしている男に、いのはようやっと溜飲を下げることにした。

「……………ま、いいわー」
「……なんだよ」
「べっつにー? それよりー、早く行きましょー?」
「行くって、どこに」
「ナルトのー誕生日プレゼント買いにー」
「はぁ!? なんで俺が…」
「いいからいいから」

 無理矢理木の葉に向けて歩き出して、その背に向けて囁く。

「呼ばないと来る勇気なんてない癖にー」

 本当は懐かしい木の葉に来たくて仕方がないくせに、絶対に表に出さない。しぶしぶ来てやったポーズ作って、本気でそう思ってる。
 だから、もうしばらくそれに付き合おう。

 せめて、なんで呼び出されるたびに、きっちり時間通りにやって来てしまうのか気付くまでは。
10月
 カンクロウとテマリ お化粧



 じ…っと鏡を見る。
 右を向く。左を向く。
 もう一度正面向いて確認。

「テマリ、何してるじゃん」
「………っっ!!!!!!!!!!!!」
「って、何だよ。まだ全然準備終わってないじゃんか!」
「うっ、うるさい!! すぐに行くから待ってろ!!!」
「へいへい」

 テマリの怒鳴り声に大人しく踵を返したカンクロウは、思い出したかのように振り返る。

「別にあいつは格好なんて気にしないじゃんよ」
「っっ!!!! 別にっ、私はっっ」
「あ、埃ついてるじゃん」
「何!? ど、どこだ?」

 にやり、と笑ったカンクロウの意図に気が付き、思いっきり腕を振りぬいた。手に持っていた口紅が飛ぶ。勿体無いと思ったのも束の間。それはしっかりカンクロウの手に受け止められていた。

「今のテマリは隙だらけじゃーん」

 大爆笑と共にカンクロウは逃げるようにして去っていった。
 怒りと共にそれを見送って、ため息。
 もう一度鏡を見て、ちょっと離れてからもう一回確認。

「…行くか」

 そう笑って、テマリはカンクロウの後を追った。
11月
 ナルヒナ 願い


「ナルト君、は」

 唐突に少女は口火を切った。
 ぽつん、と落とされた言葉はナルトの中に落ちて、静かに波紋を広げる。
 聞いているのに、聞いていない。
 明らかにそれと分かる口調だったから、ナルトはただ言葉を待った。
 少しだけの沈黙をはさむ。

「………いつまで、木の葉に居るの?」

 問いの答えは、脳裏に一瞬で浮かび、けれども口にするのは少し躊躇った。そもそも、どうしてばれているんだろう。
 この少女に対して、"木の葉を抜ける"なんて、一度も言ったことはないのに。
 疑問に思いながらも、言葉を選びながら告げる。

「下忍に、なったら。…下忍になれば、国外に行く事も出来るだろうから」

 そうなったら、隙を見て逃げるだけ。
 チャンスを逃さないだけ。

「そっか」
「うん」

 寂しい、そう声に滲ませながら少女は言う。
 表情は全然変わらないのに、声だけがとても素直。

「ヒナタ」

 呼んで、視線を合わせる。
 手を繋ぐ。

 ふわりと温かな手の平。ヒナタは優しく笑う。
 少しだけ寂しそうな笑顔なのに、ナルトに言葉は重ねない。
 ナルトも言葉は重ねなかった。

 ただ笑ってみせる。
 今ヒナタといるこの時は幸せなんだって、そう言うみたいに。

 望んでいる。
 この優しい笑顔が消えてしまいませんように。

 願っている。
 いつか、少女が家よりも自分を選んでくれますように。

 そんな、とても難しくて、叶いっこない願いを求めている。
 その時になってみなければ分からない事。
 分からないから無理矢理求めたりなんてしないし、彼女の笑顔が好きだから無茶な要求もしない。
 ナルトに出来るのはただ想うことだけ。

「ヒナタ」
「うん」

 呼べば答えてくれる。
 そんなことがただ幸せだから、ヒナタだけはどんな状況でも幸せに笑ってくれますように、ともう一度ナルトは笑った。

 ―――押し付けないけど、最後まで一緒にいられますように。