『賭けの対象 -アスマ-』








 俺は、自分で言うのも何だが結構な面倒くさがりだ。自分のしてーこと以外はしないし、面白くねーことには絶対のらねぇ。そーいう俺とか、カカシのヤツのことを、アイツは分かりきってるんだろう。…ああ、ガイのヤツは馬鹿だから結構何でもすっけどな。アイツぐらいだ。俺たち4人の中でそんなに捻くれもせずに育ちやがったのは。結構苦労している筈なんだけどよ。
 まぁ、そんな俺が紅のヤツの賭けに乗ったのは、賭けの賞品が欲しいだけじゃねぇ。確かに面白そうだと思ったからだ。

 アスマは白煙を辺りに撒き散らしながら、適当にぶらつく。
 師匠に育てられ、幼くして暗部に所属し、戦争を、九尾の襲撃を乗り越え、ようやく訪れた平和な時間。平和は尊く、けれど人を腐らせた。次第に上層部は人の命よりも貴金属や名声に重きを置くようになってきたのを知っている。火影が必死に支えてはいる平和だが、それが崩れるとしたら内部からというのがアスマの見解だ。
 特に九尾を封じ込めし子供に対する処置は目に余る。

 紅、カカシ、アスマ、ガイの4人は九尾襲来の事件の折から、裏の顔を消した。暗部最強と呼ばれた部隊を解散し、火影のみにその意向を伝えた。元々知られていなかった暗部最強の忍達の正体は闇に葬られ、ただの上忍中忍として生きはじめた。
 それは中々に楽で、暇な毎日だったが、それはそれで満足していた。
 そこにちょっとした刺激があれば言うことはないだろう。

 別に子供なんてどれでもいいとは思うが、気が合わないのだけは嫌だな。そう思って、アスマは小さく頷いた。





 面倒くせーけど、多分、自分が生きるためには強くなることが必要なんだろう。シカマルはそう結論付けた。先ほど殴られたばかりの体はずきずきと傷むし、歩くたびに血がぽたぽたと落ちる。

 自分は異端なのだ。

 大人の出来なかったことが出来てしまったから。至極当たり前のように、本当に自然に、シカマルは暗号を解いただけだった。簡単なパズルにたくさんの人間が必死になって考え込んでいたから、その答えを解き示しただけ。それは普通の子供には絶対に出来ないことで。自分がしてはいけなかったことに違いないのだ。

 異端の者は排除される。それが人間社会の掟だ。

 だから、あの金色の子供は世界から弾かれている。…あれは、自分の姿だ。異端である自分の姿。乱暴に扱われ、気を失うまで殴られ足蹴にされ、罵られ、それでも生きている。
 そうして生きるために、自分は強くならなくてはいけないのだと。






「強くなるか?」
「………はぁ?」

 将棋盤から顔を上げて、思いっきり顔をしかめた。いきなり何を言い出すのだ、この対戦相手は。そんなあからさまなしかめっ面に、アスマは唇の端を持ち上げる。

「ってーか、なれ」
「いや、何言ってんだよ。っつか、めんどくせー」
「お前子供ん癖に生意気だよな。まぁ聞けや」

 どっかりと、アスマはシカマルの頭を抱え込む。

「お前、頭いーだろ。その悟りきった顔みてっとな、結構腹立つんだわ。力がねー癖に悟りきってるガキってのは嫌われるっちゅーのが相場だ。実際お前友達すくねーしな」
「……………あんた、喧嘩売りにきたのかよ」
「ああ?ちげーって。お前、強くなりたいんだろ?俺が強くしてやるって言ってんだよ」

 しかめっ面そのままに、シカマルは鋭く瞳を尖らせる。何を言おうとしているのか分からない。何故、それを知っているのか。

「1人でする修行には限界があることくれーわかんだろ」

 目の前の男は一体何を言っているのか、何を知っているのか…どこまで分かっているのか、シカマルには分からなかった。分からない、が、1人での修行には限界がある。それは事実だった。

「あんた…強いのかよ」

 警戒するように搾り出した言葉に、虚をつかれたようにアスマは目を丸くして、笑った。

「強いさ。少なくても木の葉では最強の方だな」
「…嘘くせー」
「お前なぁ…。クソ生意気なヤツ」

 アスマの言葉に、ほんの少し照れくさそうにシカマルは頭をかいた。

「ま、ししょーサマ、よろしく頼みますわ」

 全くもって頼んでるんだかなんなんだか分からない態度に呆れかえるよりも、その『ししょーサマ』という響きに心奪われた。
 それはまるで、幼い自分の声の用で。

「全く…嫌になるほどそっくりだぜ」

 小さく呻いて、アスマはシカマルの頭をぐしゃぐしゃにこね回した。
 全く本当に、嫌になるほど自分に似ているものだ。
 だからこそ選んだ。誰でもいいって言えば誰でもよかったが、まぁ気の合う人間の方がいいに決まってる。





 ―――さぁ作りましょう。
 ―――最強の子供たちを。
2006年6月4日
アスマは何をしたいのか分からない系の人にしたいな、と、ふと思い立ちました。
でも結構普通に何がしたいのか分かる人になりました。
この師弟、一番淡白…。