『新たな名前』
「テンテン…?」
「そうだ」
「…ねぇ、ちょっと待ってよ。それ、本当に私の名前にするつもり…?」
「もちろん。不満か?」
悪びれもせずに聞いてきた男に、絶句した。付き合いはまだ短いが、この顔は本気だと、なんとなく分かる。
男に拾われ数ヶ月。男との生活はまず言葉を教わることから始まった。それから常識、一般教養を学ぶこと。その合間合間に修行という名の肉体いじめが入る。
言葉は流暢に話せるようになったし、読み書きも不自由なく行えるようになった。大体の世間の常識も分かったし、人として生きるすべを知ったように思う。
名前がないことを除いては。
いや、確かに名前をもらうことも契約には含まれてはいたが、自分にとってはそっちよりも人らしく生きることがポイントであったし、大体において名無しと呼ばれていた自分にとって、名前と言うものはそこまで重要でなかったから、殆んど忘れ去っていたに等しかった。
だが、突然男…名をガイというのだと最近知ったのだが…ガイは言い出した。お前に名前をやろう、と。もうその名を言った時の誇らしげなガイの顔と言ったら………。
「………」
それで、なぜに"テンテン"なのだ。
これまで自分が世間知らずの孤児で、人間としての生活すら送っていなかったのは分かりきっているが、いやしかし、それでも分かる。
"テンテン"って、人の名前じゃないだろう?
っていうかパンダとかそういう動物の名前じゃないのかこれは?
これはあれか?要するに最近伸びてきた髪が邪魔で、上の方で2つに団子にしているのがパンダに見えると言いたいのか?
もしや遠まわしな嫌がらせ?いやいや、この男は結構単純で純粋な人間だ。そんな器用なことは出来まい。
と、なると…。
「何で、パンダなの?」
「は?パンダ?何がだ?」
「…いやいやいや違う間違えた。ええっと、何でテンテンなの?」
「これが最高にいい名前だからだ」
「…………」
どこが?
この男は私が人間だということを忘れているんじゃなかろうか?人らしく生きるためにこの男の手を取ったのは間違いだっただろうか?
思わず悩み込む自分を放って、ガイは語る。
「いや、苦労したんだぞ。画数を計算して、姓名判断を頼んで、血液型からも名前を判断してな、手相も交えてな、占い師やらそういう道の人間にありとあらゆる方法で判断してもらった最高な名前なんだ!」
「……………………」
この馬鹿はもう…。
ううう、そこまで言われると拒否できないじゃない。
ああでも"テンテン"…。テンテンテンテンテンテン………。
絶対人の名前じゃないし!!!
ほんっとーに占いに出たの!?正しいの!?
…今度調べよう。
「っていうか、もしかしてそんなことしてたから今なわけ?」
男に拾われ早2ヶ月。名前のことなんて一言も言わなかった。だからこそ自分は忘れ去っていたわけだが…。
すると、ガイはかすかに照れたかのように笑って。
「いや、本当はもっと早く名前を付けてやりたかったんだけどな。名前を付けるのなんて初めてなもんだから、色んなツテを頼って相談したんだ。そうこうしてるうちに時間がたってしまった」
悪かったな。と、さわやかな笑顔で謝られて、もう、絶句してしまった。
ああ、もう自分の負けだ。
「……分かった。テンテンね。名前、ありがとう」
笑顔は、少し硬かったかもしれないけど。でも、嬉しい、のには違いない。
ああ、でもこの男が子供でも作ることになったら、その子供の名前がものすごく心配だ。まともな奥さんだといいんだけど。
すごく無用な心配だとは思うけど、私は心配せざるを得なかった。
かなうことならば、この馬鹿な師匠がまともで素敵な奥さんを見つけられますように。
2006年7月9日
本当は4師弟のやり取り全部書こうと思っていたのですが、最初に書き始めたこの師弟が思ったより幅を取ったので断念。
見事に愛情から出た迷惑。
テンテンも嬉しいんだけど微妙です。
本当に自分の名前がいい名前なのか占い関連を調べるうちに、占いに詳しくなって趣味にまでなっていくのです(笑)
テンテンの名前が本当にいいかっつったら全然知らないので調べないでくださいね?uu
…もうガイが完全な別人というか、スレだから仕方ないけど、別人だ…。
テンテンがはじめて表のガイを見たときにはショックのあまりぶっ倒れること確定。