〜プロローグ〜
「ガラス、あれが砂隠れだ」
男は、そう言って一方を示した。
砂漠の中にひっそりと息づく小さな里。
緑の少ない砂色の家家。
「父さんの…故郷?」
幼い少女は、自分よりも何倍も大きい男の手を握りしめながら、こっくりと首を傾ける。こつんと男の腕にもたれかかった。
「そうだ」
赤い髪を砂を含む風に揺らしながら、男は頷く。その赤の瞳に望郷の念はなく、事実を確認するのみ。
鴉の濡れ羽色をした髪を持つ少女は、男とよく似た鋭い赤の目でそれを見る。
ともに、非常に容姿の整った者達だった。
「今日はここに泊まるの?」
「ああ。昔馴染みのところにな」
「分かった」
幼い少女は、その可愛らしく整った人形のような造作に、小さく笑みを浮かべ、男、父親の腕に甘えるようにすりより、そのまま歩き出す。
男もそれに従った。
ゆっくりと、歩き出す。
ふわりと、2つの姿を砂が覆い隠し、そうして消えた。