「約束…いや、契約をしたい」
『契約』
「私はお前を拒まない。拒絶しない。むしろ、必要なんだ。私のために、私の愛する者の為に。だから…今は少し眠っていて欲しい」


 それが、1人と1匹の始まり。










 始まりはどこにあるのか。
 ただ、木の葉との戦乱の折にはすでに、その計画は存在した。
 そして、風の国の大名が変わったのがきっかけだった。
 新たな大名は愚直なまでに和平を望み、その際の軍備縮小によって砂隠れの里は弱体化をたどっていった。

 それに危機感を覚えた砂隠れの上層部は、計画を実行に移した。
 人を、人とも思わぬ所業。
 尾獣、というのがいる。

 1尾から9尾まで。
 その名の通り尾を持つ獣。
 大いなる力を持ち、絶大なチャクラを誇るとされる獣だ。
 それは尾を持つ獣、として多くから恐れられ、嫌悪されてきた存在。

 それ、を、人の身体に移し、操る。
 その為に失敗を繰り返す。
 その為に全てを犠牲にする。


 そうして。
 その時は、きた。


 チャクラを持つ獣はこの9匹だけではない。
 他にも数多くのチャクラを持つ獣が存在している。
 ただそれは、人には知られていないと言うだけで…。
 だが、獣は知っている。
 自分達の上下関係を。永遠に敬うべき尊い存在がいることを。



 ―――麒麟。



 9尾の上に立つ、最強の、神に最も近き獣の王。
 人の知ることのない尊い獣。 



 それ、を、砂は見つけた。
 深い深い地底のそこで、ゆるゆると眠るチャクラを持つ獣。


 見つけて、しまった。
 それが、全ての始まり。








「…矢張りなんの変化も見られません。実験は失敗のようです」
「…そうか」
「今の術式だけでは無理のようです」
「分かった。…守確は見送ろう。確かもう一匹居たな」
「は、では、カンクロウ様にはあの獣で」
「低級な獣だが、成功させるには丁度良いだろう」

 その声を、音を、彼女は聞いていた。いや、彼女だけではない。もう一匹。

『あれが親か』
『………そう。風影だ』
『そうか』

 不思議な会話だった。
 声も出さず、ただ、頭の中でだけ鳴り響く言葉と言葉。
 表面上の彼女は、瞳を固く閉じ、拘束具に身を繋がれた小さな子供であろう。身動きの一つもとれないよう、両手両足をしっかりと固定してあり、まるで死んだかの様に動かない。まぶたの一つ震える事もない。
 けれど、彼女は確かに自分の父親である風影と、それを取り巻く男達の姿を見ていたし、その会話も聞いていた。
 実験中光景。
 パパンは風影としての責務と親としての情の狭間にいます。
 失敗で良かった、と思いながらも、次を止める事が出来ない自分の無力さを噛み締め中。
 そんな父親に複雑な想いを抱くテマリ。