『また』









 べっとりとついた血糊はそのままに、女はクスリと笑って見せた。
 互いの体についた血の後が今頃その存在を主張する。肌を触れ合わせば、カサリ、と血の塊が音を為した。身に着けた衣服はべっとりと赤を吸い、もう2度と使い物にはならないだろう。
 男が女の頬に手を伸ばし、緩やかに口付ける。
 荒々しい行動からは無縁のような、あまりに優しく、静かな動作。
 触れ合わせるだけの邂逅が終われば、耳元で小さくささやく。

「また、会える?」
「望めば会えよう。望まなければ潰えよう」

 女もまた静かに、あまりに優しい響きで、そっけない言葉を返した。
 この女らしい、と会って1日もたたずにして思う。
 くすり、と男は笑う。

「じゃあ、望むよ。俺は」
「では私も望もうか、うずまきナルトよ」

 愛の言葉のように、優しく、愛しく、紡がれる言葉。
 抱き合った男の背が、女の腕の下でピクリと跳ね上がる。
 分かりやすい反応に、くつくつと女が笑った。

「………バレテマシタカ?」
「当たり前だろう? 九尾のチャクラを抱く金色の子供よ」

 はぁー、と、梓鳳たるうずまきナルトの大きなため息。
 意趣返し、とでも言うようにナルトもまた菫叉たる女の耳元で囁いた。

「………どうしてテマリサンはそう性格が悪いんでしょーね」

 くすくすと女は笑う。肯定の、意。

「父親譲りだろ。それで、いつ気付いた?」
「………さっき」
「さっき、ね。」

 くっくっく、と堪えきれないように女が声を上げて笑って、乱れた着衣を整えた。
 本来17歳のはずの少女は、大体20そこらの女で。
 本来14歳のはずの少年は、20前後の男。
 なんて可笑しな状態なのだろうか?

「互いに中忍試験ではうまく化かしたものだな」
「確かに。でもテマリ、本体じゃなかっただろ?」
「まぁな。それはお前もだろ?」
「ああ。音を潰しに行ってたしなー」
「こちらも大蛇を潰していたのでな」

 互いの言葉に、くつくつと笑う。どうにも笑いが止まらない。
 何が楽しいのか、何が面白いのか、ただ、笑う。

「また会えるだろうよ」
「それもそうだな」

 砂と木の葉の交流は結構頻繁だ。
 これまでにもテマリは何回も木の葉と合同任務を行っているし、ナルトもそう。次の中忍試験もまだ先だ。テマリもナルトも未だ下忍。嫌でも会うことになるだろう。
 もう一度、口付けを交わし、2人は体を離した。
 止まらない笑いを口元に刻みながら、更に2人は遠ざかる。

「じゃあな」
「ああ」

 あんまりに素っ気無い別れの言葉で、2人は別れた。
 口元には、堪えきれない笑み。
 予想していなかった出会いは、あまりにも刺激的で、面白かった。
 2人は振り返らない。
 あっという間に距離は離れ、それぞれの岐路へとついた。


 ―――また、会う日を望みながら。
2007年7月14日