「お年玉、くれ」 なんとも無愛想かつ可愛げがないクソガキにそんなことを言われた。 『お正月を迎えよう』 可愛くない。 全く持って可愛くない。 まぁそれでも、出会った頃に比べれば大分マシで大分子供っぽいと思う。感情の宿ることのなかったガラス玉の瞳は、期待を込めて闇月の姿を映し出す。 火影にこのクソガキを押し付けられて既に半年以上も経っているからか、最近ではこういう風に変な要求も増えた。 大半は…やれ飯が不味いだの、成長期の子供になんちゅうもの食わすだの、お菓子が食いたいだの、栄養バランス考えやがれだの、なんともまぁ腹立たしい内容だったりして、最終的には栄養バランスをチャート化した3食揃った献立表まで押し付けてきやがった。んなもん作れるかって話だ。 確かに………初めて料理を作った時のソレは果たして料理と呼んで良いのか、といった代物だったのだが。 …………。 …ああ、でもまぁきっちりみっちり修行でしごいた合間にそれだけのことをやってのける根性とかは、褒めてやっても良い。 というか何でお年玉。 「っていうか、あんたお金なんて必要ないだろ」 そう、必要なんてない筈だ。 ここ最近奈良シカマルはこの屋敷から一歩も出ていない。 というか出していない。 このガキんちょを育て上げるのが、闇月が他の任務と平行して行わなければならないC級任務。 こんな面倒な任務はさっさと済ませてしまうべきものだから、とにかく強く育て上げようと思ってひたすらしごいている。 途中で死んだら死んだで構わないと思っていたのだが、存外に頑丈でしぶとい。 「正月だろ、今日」 言われ、納得。 だが、納得いかない。 家から一歩も出ないガキんちょにお金なんて必要ないし、そもそも自分だって大したお金は持っていない。持っている筈のそれは火影に管理を任せているし、大半は実家に流れているだろう。 「そーいうことは火影様に言え。大体、年が明けようが明けまいが関係ない」 「馬鹿お前、お正月をなんだと思ってやがる。いいか、正月ってのはな、その年の豊穣を司る歳神様を迎える行事だぞ。歳神は1年の初めにやってきて、その年の作物が豊かに実るように、また、家族みんなが元気で暮らせる約束をしてくれる神様だ。門松だって、しめ飾りだって、鏡餅だってすべて歳神様を心から歓迎するための準備に過ぎねーんだよ。昨日はアンタにしごかれてぶっ倒れてて準備出来なかったからな、今からでもしてやる」 「……………はぁ」 「何呆けてんだよ闇月。いいからとっとと金出せよな。めんどくせーけど、全部揃えてきてやる。ああ、それと後で参拝に行くぞ。着物の手配は火影様に任せてっけどよ、あんた、着付けは出来るんだってな。俺の分も頼むぜ」 「はぁ?」 「ったく、昨日は年越しそばを食いそびれたしな。ほら、早くしろよ闇月」 ほれ、と手を振る奈良シカマル。 ああそうか。すっかり忘れていたが、この子供は頭が良いのだ。 ―――それ故に世界から排除された人間なのだ。 とか、そんなのはどうでもいいのだが。 「ねぇ、シカマル」 「なんだよ闇月」 「あんたって、行事好きなわけ?」 今思い返してみれば、やたらと行事に拘っていたような気がする。 まったくもって興味なかったし、いつもどおりだったので気が付かなかった。 ………いや、そういえば、献立がやたら豪華になったり凝っていたりしたか。献立に作り方やコツまでついてくるという徹底ぶりだった。 ああ、思い出してみれば行事に付随する様々なシカマルの行動がちらほらと。 無感情かつ無表情かつ可愛げのない様子でそれだったものだから、全く気づかなかった。 気づかなかった、の、だが。 「…………っく」 あ、ヤバい。 これはまずいな、と闇月は口を押さえる。 不覚にも、可愛いとか、思ってしまったじゃないか。 「…闇月?」 「ん、ああ、ちょっと待ってろ」 そう言い残してさっさと背を向ける。 部屋の中に入って、財布を持ち出す。 正月、なんて、煩わしいとしか思わない。お年玉なんて習慣、厳格な日向にはなかったし、例え貰ったところで日向ヒナタに使い道などなかっただろう。 いい思い出など何一つない。 だと、いうのに。 「はは…」 なんて、面白いのだろう。 あれだけ可愛げのない子供のあんな態度に気づけただけで、今日一日楽しく過ごせそうだ、なんて思えるのだから、最近の自分は本当にどうにかしている。 だが、それも悪くない気がする―――なんて。 どうやら本格的に頭がいかれたようだと闇月は楽しげに笑った。 |