『その存在は害なるか』




「もしかしてさー…。ナルト、あの子と付き合ってる?」

 そう自分の担当上忍がのたまった時、不覚にもナルトは固まってしまった。

「まっさかー。カカシセンセー何言ってんだってばよー。オレってばサクラちゃん一筋だもんねー」

 あはっ、あはあは、と笑うナルトに、カカシはじ――――――っと目を細める。

「そう?それじゃあやっぱあの子はシカマルと付き合ってるのかな〜?」
「―――なんでそうなるんだってばっっ!!」
「仲良いもんね。シカマルも身長伸びてきたし、お似合いのカップルでしょ?」
「似合ってなんか無い!!!!」
「シカマルもテマリも頭脳派で、似たタイプだしね」
「―――!!!」

 それは確かに気になっていたこと。
 確かにテマリはシカマルを気に入っているし、シカマルもテマリを気に入っているように見える。
 なんせ、笑うのだ。
 あのテマリが、シカマルと一緒にいると、零れるような温かな笑みを漏らすのだ。
 どんどん不機嫌になっていくナルトにカカシは更に追い討ちをかける。

「こないだも2人でご飯食べていたしねー」
「っっ!!!何処で!?」

 思わず、と言ったように聞き返すナルトに、カカシはにんまりと目元を緩めた。
 はい確定。
 それで何で隠すのかな?

「どこだったかなー?それは彼女に聞いたほうが早いんじゃない?」

 ほら、と後ろを指差せば、遠い向こうに見えるのは金の髪を4つに縛った少女。
 向こうもコチラに気付いたのか、わずかに首を傾げ、歩いてくる。

「テマリ!!!シカマルと2人でご飯食べてたって本当!?」
「はぁ?」

 自分の目の前に駆けつけると同時に聞いてきたナルトに、テマリは怪訝に顔を顰める。
 ナルトの、その後ろに銀色の髪をした片目の男に、誰だ?と一瞬思考をめぐらし、そして引き出す。

 ナルトの担当上忍のはたけカカシ。
 そして、元暗部の写輪眼のカカシだ。 
 失礼でない程度に目礼をして、ナルトに視線を戻す。

「んで、何の話だ」
「だーかーらーシカマルと2人でご飯食べたの!?」
「いや、食べてない」
「ホントにっっ!?」
「ああ。…それで、人に会うなりそれか?失礼なヤツだ」

 うん。それは確かにね。とカカシは心の中で頷いた。
 原因を作ったのは自分ではあるが。
 しかし、まぁ面白いカップルだねぇ。
 冷酷なほど冷静で、智謀を張り巡らすタイプのテマリ。
 単純すぎるほど単純で、正面から突っ込むしか知らないナルト。
 いわば正反対で、全く合わないように見える。
 なんとも面白い凸凹カップル。

「仲が良いねー」

 にっこりと笑うと、テマリが怪訝な顔で振り向いた。
 今の声音だけで何かを感じたらしい。
 ほら、やっぱりナルトとは正反対。
 鋭いよ。かなり。

「ナルト、お前がシカマルとどうとかって言っているのは、この人の言ったことか?」
「そうだってばよ?」
「………別に、言いふらしても、構いはしませんよ?」

 私は構いませんよ?うずまきナルトの立場が悪くなるだけですよ?
 暗にそう言っているのがカカシには良く分かった。
 ナルトと砂の忍が付き合っている。
 それはナルトをいまだ九尾と混合視する者達に対して、更なる悪感情を抱かせるだけだ。
 けれども、そんな事を言えるということは、彼女はナルトの九尾のことを知っているのだろう。
 そして、恐らくは、ナルト本人の口から…。

「別に、良いんじゃない?ナルト、幸せみたいだしね」
「はぁ!?カカシ先生ってば何言ってんだってばよ!?」

 多分この場で一番訳が分かっていないのはナルトだ。
 張本人であるにも関わらず。

「はたけカカシ上忍、でしたよね。確か」
「そうだよー。ナルトの担当上忍ね。これでもー」
「そうですか。ご協力は、とりあえず感謝します」
「そうー?」
「はい。唯一つだけ」
「何?」

 テマリの顔が、急に艶を帯びる。
 紅を薄く引いた唇を不適に吊り上げる。
 それは、少女のものではなくて、熟達した女の匂い。
 驚いた
 目の前で、少女が女に化けた。

「ナルト」

 小さく呼ぶと、ナルトが首を傾げて、けれども嬉しそうにテマリに駆け寄る。

「―――っっ」

 目を、見張るしかなかった。
 ナルトを捕まえて、両手で抱き寄せ唇を合わせる。
 ちろりとテマリの舌が覗いて、カカシは喉を鳴らした。
 この、少女は、ただの少女ではない。
 これは、極上の女だ。
 男を闇へと落しゆく、魔性の女だ。

 初め、驚きに目を見張ったナルトだが、テマリの背に手を回して、自らも求めるように手を伸ばす。
 明らかに慣れた動作。慣れた行為。

「…はは」

 かすれた声がカカシから洩れた。
 それでようやくカカシの存在をナルトは思い出したのか、はっとして振り向いた。
 テマリはそれを促すようにして振り向いたナルトの頭の上に腕を置く。
 ぺロリと、唇をなめたのが、またなんとも美しかった。

「ま、"これ"はこの通り私のものだから」

 余計な真似はするな?
 苦笑を浮かべて、了解の意を示すために軽く頷いた。

「かかかか、カカシ先生っっ!い、今のは違うんだってばよ!俺ってばサクラちゃん一筋だもんね!!」

 今だ分かっていないナルトの台詞にカカシは目を丸くした。ここまで決定的なものを見せ付けておきながら、まだ違うと言い張るとは。
 テマリが苦笑して、ナルトの頭の上に置いていた手を首に回す。

「この人は、構わない」
「へ?」
「はたけ、カカシ上忍。この人にはばらしても構わない。と、いうか、もうばれてる」
「い!?そ、そうなの!?」
「んー。さすがにあんな濃厚なキスシーン見せ付けといて、付き合ってないも何もないと思うよ〜?」

 確かにその通りだと思ったのか、ナルトはぐっ、と詰まる。
 それから、何事かに気付いたかのように、はっ、としてテマリを見上げる。

「どうした?」
「て、て、て、てま、テマリ!んじゃさ!んじゃさ!…賭けはどうなるんだってば!?」
「賭け?」
「ああ、あれか」
「ど、どうなるんだってば…っ!?」
「ま、賭けは賭けだしな………」

 そこで、ちらりとナルトを見る。
 泣きそうな勢いで一筋の希望を求めてテマリを見上げている。
 その、瞳にお星様でも浮かべたようなきらきらしいナルトにテマリが笑った。

「…と、いきたいところだが、これは相手が悪かったみたいだしな。なかった事にしてやるよ」
「本当!?テマリありがとうっっ!!!!!!!」

 首から回されていた手を掴んで、嬉しそうに頷くナルトを見て、微かにテマリが顔をほころばせた。
 それは、見せる、為のものではなく、心の底から自然に零れ落ちたもの。

 それに、カカシは驚いた。
 テマリという少女の、本当の感情を今はじめて見たような気がした。

「賭け…とは?」
「んー、誰かに私たちの関係がばれたら、キス禁止」
「はぁ」

 ナルトももう14。そういう年なのね〜と、感慨深く頷く。
 イルカが知ったらどんな顔をするだろうか。

「もう一つはナルトが火影になってからな」

 しし、と笑うテマリに対して、ナルトの表情は、ほんの少しビクッとして、こわばった。

「…?」
「さて、私はもう行くぞ。砂の使者はもうそろそろ行かなければな。シカマルも待ってるし」

 さらりと行ったテマリの言葉に、ナルトが息を呑んで、ぎゅ、とテマリの手を強く握り締める。

「し、シカマル!?」
「私のお見送り役だ」
「んじゃ、俺も行くってばよ!絶対行く!!」
「そうか?」
「そうだってばよ!!!!」

 勢い込んで言うナルトにテマリは小さく首を傾げて、まぁいいか、とでも言うようにナルトの頭をくしゃくしゃにした。
 ナルトは嬉しそうに笑った。
 きっとそれが、テマリの了解の合図だと知っているからであろう。

「ま、仲良くね〜」

 苦笑して、2人を見送って、カカシは小さく息をついた。

「予想外だねぇ〜」

 ナルトに害のあるような付き合いであったのなら、火影に進言して、どうこうしようかとも思ったが。

「絶対無理」

 可愛い可愛い部下の、あんな笑顔、引き裂けるわけがないじゃないか。
 あの2人は、きっと、もう誰にも引き裂く事なんて出来ない。
 もはや2人で1組の存在。
 九尾の狐である彼と、砂の上忍である彼らが付き合っているのは好ましくないが、それを引き裂く事が出来ないのなら仕方がない。
 これでは火影に進言することも出来ない。
 と、なると。

「邪魔者は消すのみ…かな」

 覆面の下、にぃ、と唇が弧を描いた。




 ………四代目、貴方の息子は大きくなりましたよ。
 手に入れるべきものを手に入れて、すくすくと、強く大きく、そして素直に育っている。
 きっと、砂の少女のおかげで。
 守りましょうじゃないですか。
 あの純粋な笑顔を。
 あの無邪気な性格を。

 ま、俺にとっても息子のようなものだからね。











2005年11月20日
原作とはちょいパラレル。
木の葉崩しはありましたが、サスケの里抜けはないです。
いや、里抜けしたけど、戻ってきました。