『特別なお返し-サスケといの-』




「おい」
「………サスケ君ー? そんなところで何してるのー?」

 いのがそう言ってしまったのも仕方がないことだった。
 いのがいたのは屋上で、うちはサスケがいたのはそれよりも更に高い、給水塔の上だった。寝転がっているのか、コンクリートの白い壁のふちから両手と顔だけが出ている。

「サボり」
「優等生が何してるのよー」
「目が、色々うざい」

 サスケがそう言うのも訳がある。
 今日はホワイトデー。バレンタインでチョコをもらいまくってるサスケにとってお返しを配るという拷問日だ。と、言っても、返すのは部活関係の人間とクラスで親しくしている数人のみ。
 ただ、ソレがきっとよくないのだろう。
 あげた人間全員が自分も貰えると勘違いしているらしく、視線が恐ろしく痛いのだ。
 
 そもそもチョコレートが特別好きでもない人間にとって、大量のチョコは不必要であるし、よくも知らない人間からの贈り物なんぞ恐ろしい上に手作りなんて最悪だ。下駄箱に入ってたやつとかなんか汚いし。無記名のやつなんてどうやって返せばいいのかも分からない。
 第一貰ったもののほとんどは家族や友人に提供したので自分では食べていない。

「んで、お前は?」
「4限自習になったから、どっかでのんびりしようかなーと思ったんだけどねー」

 さっきまでは、いのだけじゃなくて、もう一人いた。
 適当に教室を抜け出したら、その後を追いかけられて、屋上まで呼び出されたのだ。

「…なんで断ったんだよ」
「聞いてたんじゃないのよー…。……サイテー」

 呼び出した男の用事は、バレンタインのお返しと、告白。
 そりゃそれなりに仲は良かったし、顔だって嫌いじゃない。
 けど。

「好きな人がいるからに決まってるでしょー!!」

 見上げて、叫ぶ。
 サスケは、小さく笑って、給水等から飛び降りる。
 それなりの高さはあるが、飛び降りれないほどでもない。

「それ、どこのサイテーな男?」

 にやり、とサスケが笑うと、いのは顔をしかめた。

「顔と成績と運動神経が良い優等生でー、性格が最悪で女の子の気持ちなんて考えないサイテーなー、ここにいる男のことよー」

 ふんぞり返った少女に、サスケはふきだす。
 爆笑に近い。

「後ろ向けよ」
「はー?」
「あーやっぱいい」

 そう言うと、サスケはなにやらポケットをまさぐって、いのの首の後ろに手を回す。正面から向き合ってのその距離の近さに、いのは息を呑んだ。
 目の前にあるその綺麗な顔に見惚れてしまう。
 変に動揺を見せれば負けのような気がして、息をつめたまま動けない。

「…ん」

 小さな頷きとともに、サスケが離れる。そうして満足げにいのをじっと見つめた。
 いのの首元の小さな違和感。
 さっきまでとは少しだけ違う。

 いのは違和感の正体を探るために下を向いて、胸元に手を置く。
 触れた、小さな何か。

「ネックレス…?」

 物凄く見たいのに、チェーンが短いせいで全体像が全然見えない。それが悔しくて、でも嬉しくて。

「これー…」
「いらないなら返せよ」
「ばっ! ……かじゃないのー」

 笑うサスケの顔が直視できなくて、いのは赤くなった頬を隠すようにそっぽ向く。

「絶っ対、返さないわよー。後から返せって言ったって遅いんだからねー」

 そう、ネックレスを握り締めて、いのは長い長い時間をかけて、ようやくサスケを見上げて。
 にんまりとひどく楽しそうに幸せそうに笑った。

2011年3月6日
一応ナルヒナの方と同時間軸で。
最近自分以外のサスいのをほぼ見ないんですけど。…めっちゃ見たい…orz