日向家長女と狐のあやかし
『携帯電話』
携帯の向こう側に誰がいる?
誰もいない。
誰もいない。
携帯電話は人と人を繋ぐモノ。
だから。
人でない自分は携帯なんて知らない。
ソンナモノイラナイ。
「あっそ」
だったら別にいい。
この携帯の向こう側は現実の世界。
この携帯のこちら側は非現実な世界。
小さな小さな迷い子。
金色の毛並み。
青色に輝く空の色。
「私は、行くけど、あんたは行く?」
携帯の向こう側に。
私は現実に戻る方法を知っている。
そういう血筋だから。
子供が頷いたのを見て、血を携帯に一滴。
「おいで」
金色の子。
狐の子。
親とははぐれたの?
それとも捨てられてしまったの?
「ドウシテ?」
自分は化け物なのに。
人じゃないのに。
差し伸べられた手の平。
とても暖かい。
「私は日向だもの」
日の向こう側。
神に近しき日向の一族。
人と違うものを見て導く者たち。
「みこのひと?」
獣にも名高き神の日の巫女。
だから連れて行くの?
だからこの手を差し伸べてくれるの?
「そうね。私は日向の巫女。あんたを救うくらいの力はあるわ」
だからおいで。
金色の毛並みを持つ気高き狐の子。
携帯の向こう側。
居場所がないなら向こう側に居場所をあげる。
携帯の向こう側へ。
2005年10月4日
突然思いついて気の向くままに書いてみたら存外楽しかった
。