日向家長女と狐のあやかし
『誕生日』
「ひなたっ!」
少女の姿を見つけて、思いっきり目を輝かせて走り出す金色の子供。
飛び出た獣の耳。ふんわりと揺れるふわふわの尻尾。
小さな狐のあやかし。
「ナルト」
優しい声。
鴉の濡れ羽色。優しい乳白色の瞳。ふわりと揺れる巫女装束。
がば、と飛びついてきたナルトを軽くいなして、やんわりと受け止める。
頬と頬を合わせるようにして、くすくすと笑う。
「おめでとう。ナルト」
耳元でささやかれて、首をかしげた。
「おめでとう…?」
何かあっただろうか。
何でおめでとうなのだろう?
不思議そうに首を傾げる狐のあやかし。
「10月10日。ナルトと私が初めて出会った日。ナルトの誕生日」
狐のあやかしが、ナルトという名前を手に入れてナルトになった日。
ナルトという存在の生まれた誕生日。
それが、今日。
「た、んじょうび…?」
「うん。嫌だった?」
ほんの少し、悲しそうに瞳を曇らせた少女。慌ててナルトは首を振る。
「いやじゃない!びっくりしただけ!すごくうれしいっ」
ぎゅう、と、首にかじりついて、尻尾を振る。
嬉しい。嬉しい。
存在しなかった自分が存在を許された日。
ヒナタというかけがえのない人に出会えた日。
10月10日。
大事な大事なナルトの誕生日。
2005年10月10日