日向家長女と狐のあやかし
『心中宣言』
それは、あまりにも儚くて。
あまりにも脆くて。
あまりにも危ういものだと知ったのは、3つの時。
「ひなた?」
頭をこくんと傾けて、手を伸ばす狐のあやかし。
金色の髪、隙間からのぞく獣の耳。
きらきらと輝く澄んだ青い瞳。
ズボンに隠れたふわふわの尻尾。
あんまり無邪気なその様。
手に入れたあやかし。
"日向家の跡取りが拾ってきた得体の知れない子狐"
"あの年になってあんな役に立たないあやかし一匹だけ"
"これじゃあ―――殿も救われない"
"矢張りあんなものより――が継いだ方が…"
もともとあやかしなんて得体の知れないもの。
"うちは"にしつけられたあやかしなんていらない。
"日向"に忠実なあやかしなんていらない。
日向ヒナタに忠実な。
犬塚キバにとっての赤丸のような。
奈良シカマルにとってのテマリのような。
ただの一匹が欲しい。
だから、誰になんと言われようと、この子は守る。
初めて手に入れた本当の。日向ヒナタのあやかしだから。
命なんて、本当に脆い。
日向ヒナタに会わなければ、この狐のあやかしは死んでいた。
それは、確信。
自分の命は、自分のために使うと決めていた。
それが3つの時にした大事な大事な約束だから。
日向ヒナタは自分のために生きている。
自分の為に、この狐のあやかしを欲している。
「ひなた」
再度の声に、ぎゅうっと抱きしめた。
突然で、ぱちぱちと忙しない瞬きを繰り返す狐のあやかし。
「ひなたっ!?」
「うん」
可愛い可愛いヒナタだけのあやかし。
「ナルト」
「うん!」
「ナルト」
「うん…?」
「ナルト」
「う、うん。ひなた?」
「ねぇ、ナルト。私のために、死なないでね」
真っ赤な。真っ赤な。
目の前で零れ落ちた命の雫。
大事な大事な人の、消えていく魂の叫び。
ぬるりと滑る身体。どれだけ呼んでも応えない。どれだけ叫んでもあの人は帰ってこない。
大事にすればするほど、失われていくその瞬間が怖い。
"日向の為でなく、自分の為に生きてください。それが、貴女が私に出来る唯一つのことなのですから"
もう居ない人の言葉。
大事な、約束。
「ひなた?……なると、しなないよ。ひなたよりさきにはしなない。しぬときはいっしょ」
まるで心中宣言。
ヒナタは首を傾げた。
「一緒?」
「ひなたがさきにしんだらかなしい。なるとがさきにしんだらひなたがかなしい。だからいっしょ」
守って、守られて、死ぬ時は、必ず一緒にいよう。
えっへん。と、笑顔で宣言されて。
笑った。
「そうね。いつも一緒。死ぬ時も、一緒だね」
2つ目の大事な約束。
日向ヒナタは自分の為に生きる。
自分の命は自分の為に使う。
けれど。
もしもそれが出来ないなら。
自分の為に生きたその先が暗闇の中だとしたら。
一緒に、落ちていこう。
2006年07月19日
もう居ない大事な人は、言わずもがなあの人で。
あやかしと人シリーズ?の文の書きかたを忘れたので、微妙。
この設定、考えるのは楽しいです。