うちは家次男と蛇のあやかしと日向家長女と狐のあやかし
『横槍』
「大蛇丸様はーこの子が欲しいって言ってたわよねー。死んでたらやっぱダメかしらー?」
死んでないといいんだけどー、と、蛇のあやかしは倒れたうちはに近寄り腰を折る。
金色の髪がさらさらと零れて、うちはの少年をくすぐった。
蛇のあやかし、いのは何となく笑う。
ついついやりすぎてしまった。
呼吸はしている、ような気がする。
脈の確認でもしようかと思って触ろうとして。
それで、飛びのいた。
目の前に、金色の光が通り抜けて、土ぼこりを残す。
視界の悪さにいのは明らかに顔を歪める。
蛇の目はあんまり良くないから。
「サスケは返していただきます」
言って、何事かを呟く少女。
横槍にいのは鼻を鳴らす。
不愉快だ。
白い光が少女を包んで、うちはの元に向かう。
その力、獣にも知れた名高き"白光"。
日向という人間の一族が持つ癒しの力。
「日向のお姫さまー?」
いのの言葉に返事はない。
回復した目に映る、黒い髪の少女。
静かに構える日向一族の少女。
いのは腕を持ち上げる。その指先はしゅるりと蛇に姿を変えて、日向に襲い掛かる。
日向に向かう蛇と、うちはに向かう蛇。
「何で邪魔するわけー? それは私の獲物なのよー」
「依頼を受けたので」
ひどくつまらなそうな声に対する言葉は簡潔。
少女が何事かを書いた札をばら撒くと、まるで生き物のようにうごめいて盾となる。うちは家の持つ力を簡略化して誰でも使えるようにならないか、と、奈良家が思案した結果。
うちは程強くはないが、簡単に魔法じみた力を使うことが出来る。
欠点は、一つ一つの力が弱い事と、使い捨てである事。
うちはに向かう蛇は金色の光に遮られた。
蛇を打ち落とすと、光は人の姿を形作る。
金色の髪をした、子供の姿。ぴょこんと飛び出た耳と尻尾は未熟なあやかしの証。
「狐の子ー?」
嫌になるくらい澄んだ瞳できらきらと日向を伺って、満面の笑顔。
「ひなた、なると、やくにたった?」
「うん。えらいね」
にっこりと微笑む日向の少女。
いのは何度も瞬いて、交互に視線を送る。
「狐って、人に使えるものだったのねー…」
ちっ、と舌打ち。
狐はあやかしの中でも力の強い種族だ。
子供とはいえ油断は出来ない。
なんとも厄介な事になってきた。
「ひなた、なるとたたかう」
幼い口調で言い募る狐の子。
日向と同じくらいの年に見えるから、それは、とても違和感の募る様子。
「いいのナルト。今回は私が戦う。最近こういう機会もなかったし…。たまには戦わないと弱くなっちゃう」
「よわいと、わるい?」
「うん。悪いこと。大事な人を守れなくなっちゃう」
なるほど、と狐は納得。
2人のやりとりを見て、いのは小さく笑った。
「狐なんてー、プライドばーーーーーっか高くて、俺に近寄るなーってヤツばっかりだと思ってたけどー」
笑う。
変な狐のあやかし。
心持ち、後ずさる。
状況がよくない。
口内の乾きに気付き、いのは舌を回す。
どうしたものだろう。
「惜しいなーほんと」
うちははとても良い手土産だったのに。
持ち帰りは不可能となった。
既に力の半分はうちは相手に使っている。
だけど目の前にいる日向を相手に残り半分で対処できるとは思わない。
それに狐のあやかしも底がしれない。
だから。
ものすごーーーーーくプライドに反するけれど。
ここは、引く。
―――ぐるり、と世界が回る。
2008年07月06日