うちは家次男と蛇のあやかしと犬塚家長男
『迷惑因子』
「サッスケーーー?生きてるかーーー?」
大声で呼びかけてみると、うるさいと罵声が飛んでくる。
そうやって素直な反応すっから、色んなヤツに遊ばれるんだぞー、と心の中だけで忠告。
幼馴染の特権ってやつ? で、挨拶無しにうちは家に乗り込んで、うちは家次男坊の部屋のふすまを乱暴に開け放つ。
見慣れた空間に入り込んで、思わず、目を瞬いた。
ちょうど2回ばかりぱちぱちと瞼を動かして、目の前の光景に見つめる。
「………なぁサスケ」
「………………何だ」
「俺の目の錯覚かもしんねーけどよ。すっげー美人がお前を襲ってるよーに見えんだけど」
「錯覚だ」
断言した。
一回頭を振って、乱暴に目を擦る。
目を開いても、錯覚は消えなかった。
いや、それどころか。
「あらーお友達ー? かーわいー」
口を利いた。
ふ、とキバは遠い目になって、たそがれる。
「…サスケもとうとう彼女もちかー。あーあー。お前みたいな顔だけ良くって騒がれてキャー言われてその割に彼女いない歴16年のところがすっげー好きだったのにな」
「あら、かわいそー」
「……言っとけ」
「んで、誰よ? この美人さん」
「蛇」
「いのって呼んでー」
にこりと、サスケの上に馬乗りになった状態のまま、いのは笑う。キバは軽く鼻をこすって、にっと笑った。
「了解いの。蛇のあやかしだな」
「あんたはー?」
「あん?…俺はキバ。犬塚キバ」
僅かに、いのの目が驚愕に見張り、次の瞬間、とろん、と妖艶に微笑んだ。先ほどの笑みとは全く種類の違う、魅入らずにはいられないような、艶やかな、笑み。
ごくりと、唾を飲み込んだ。
魅入られて、気付かない。
いのの手がぴくりと動いたことに。
「………いの」
「なぁにー?」
びくんとして、いのは手を引っ込めた。
その腕をサスケは捕まえ、そのまま強引に自分の上から引き摺り下ろす。
「…きゃっっ」
「…サスケ?」
訝しげに声を上げるキバには答えず、いのの腕を押さえ込んだまま、もう一方の手で首を鷲づかみにする。
「―――っぁ」
「お前は、俺の使役するあやかしだ。俺の命令以外で動くな」
いのの目に憎悪が灯る。視線だけで人を殺せるというのなら、きっと既にサスケは死んでいる。あまりに冷たく冷え切った瞳に、キバは、背筋を凍らせた。
サスケの手が僅かに緩み、その瞬間にいのは口を開く。
「何よーあたしに勝てもしなかったくせに、偉そうにー」
サスケの表情が、僅かに歪むのがキバからは分かった。
キバ自身、驚愕を顔に出すのを止められなかった。
サスケはうちは家の中でも優秀で、現在いないイタチを除けば、他に彼に適うものはかなり限られてくる。
キバとて単純な体術だけなら彼には適わない。
犬塚の強みは犬のあやかしとのコンビネーションと絆の強さ。
動揺したサスケの腕を振り払い、いのは軽い動作で立ち上がる。
「あたしはー、あたしを封じた日向の女に使役されるならまだしもー、あんたなんかに使役されるのは真っ平ごめんなのよねー。…あたしを舐めるな」
1オクターブ下がった声はサスケに、キバに、言葉を失わせた。
実力の程はともかく、生きてきた年齢に差がありすぎた。
重くなった空気を、いの自身が壊す。にこりと笑う。
「だからさー恋人で手、打とうって言ってるんじゃない?」
「黙れうるさい」
返答は早かった。
多分何度も同じようなやり取りをしているのだろう。
付いていけず、キバが目を見開く。
見慣れた幼馴染の無愛想顔と、見慣れない蛇のあやかしの魅力的な笑顔。
「あーーーー…よく分っかんねーけど。やっぱサスケの初カノってことは間違いなしってか?」
「ふざけるな!」
「え、いいじゃん。美人だし」
あっけからんと言い放ったキバに、サスケは絶叫にも近い声を上げる。
「どこがだ!しかもお前、蛇だぞ?蛇っ!」
「あ、そういやお前蛇嫌いだよな。昔蛇のあやかしに襲われそうになったんだっけ?」
「あらま。そうだったのー?うふふかっわいー」
「………っっ!!」
拳を震わせ肩を怒らせるサスケに、追い討ちをかけるようにキバがその時の説明を始める。面白そうにそれに耳を傾ける蛇のあやかし。
1人、存在ごとぽつんと放置されて、どうしようもない怒りのやりどころに迷う。
正直目の前の光景は心底不愉快で、キバの次々と飛び出す言葉の数々は真面目に思い出したくないものの宝庫なのだが…。
この2人に口を挟んだところで、勝てるはずがない。
直感と、付き合いの長さでそれと知り、深々とサスケは息を吐いた。まったくもって迷惑極まりない。
「……だから蛇は嫌いなんだよ」
ぼそりと呟いたサスケの言葉は当たり前に無視されて。
使役する側とされる側になったうちは家の次男と蛇のあやかしはともかく。
犬塚家の長男と蛇のあやかしは仲良くやっていけそうなのであった。
2008年07月06日
これはブログで既出。
『毒』と『迷惑因子』の隙間の出来事は気が向いたら埋めます。
生き残ってうちはの身柄をいののものにすること→サスケの使役するあやかしとして生かす