猫のあやかしと狐のあやかし

 『12月27日』




「お前」
「?」

 呼ばれて振り返る、狐のあやかし。動きにあわせて、ふさふさの尻尾がぴょこんと揺れる。

「そう。お前。確か日向ヒナタのあやかしだな?」
「あー! ねこのおねぇちゃん!?」
「よ。久しぶり」

 無邪気に駆け寄ってきた狐のあやかし。
 テマリは金色のふさふさ頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
 乱暴な扱いにもこの狐のあやかしは楽しそうに笑うだけ。

「きょうはなに? ひなたはおしごとでいないよ?」
「仕事? お前を連れずに?」

 テマリの言葉に、しゅんとしおれる狐のあやかし。俯いて、唇をかむ。
 そんな、分かりやすい狐のあやかしの態度に、テマリは小さく笑ってしまった。

「なると…確かナルトと名前を貰っていたな」

 テマリの言葉に、「うん」と素直に頷く狐のあやかし。

「おねぇちゃんは?」
「テマリ。……覚えなくてもいいよ」

 てまり、てまり、と呟きながら指折り数えるあやかしに笑う。
 ぐしゃぐしゃっと頭を撫ぜて、その手を取った。

「うちの主人の頼まれごとがヒナタにあったんだけど、いないから、付き合ってくれないか? ナルト」

 のぞきこむようにして、目線を合わせる。悪戯っぽく輝くテマリの瞳に、首を傾げる狐のあやかし。

「で、でも、ひなた、ここでまっててっていった」
「大丈夫。うちの主人が来ていることを知ったらヒナタはそっちに行く」
「…う、ん。でもね。やくそくはやぶっちゃだめだって…ひなた、いった」
「そりゃあそうだ。約束は守るためにあるんだから。けど、世の中には例外って物があってな?」
「れいがい?」
「ヒナタの為にナルトが何か出来たらいいと思わないか?」
「おもう!」
「そして今日はそのとっておきの機会なんだ!」
「とっておきのきかい!?」

 叫んで、首を傾げた狐のあやかし。
 楽しそうに、悪戯っ子のように、瞳をきらきらと輝かす猫のあやかし。

「そうだ! 今日はヒナタの生まれた日だからな」
「たんじょうび!」
「そう!…よく知っていたな」

 別に、侮ったり、見下しているわけじゃないけど、この狐のあやかしは、見た目や年齢以上に幼くて、あまりものを知らないから。
 ちょっと驚いて、呟く。

「ひなたがおしえてくれた! 10がつ10にちがなるとのたんじょうび!!」
「そうだったのか。おめでとう、ナルト。祝わなくて悪かったな」
「わるくない! なると、そのひにそれしった」
「……そうなのか?」
「そうっ。ひなたがつけてくれたの。なるととひなたがあったひ」

 幼くて、拙い声を聞き取るのにちょっと苦戦して、ああ、と頷く。
 この狐のあやかしと、日向ヒナタが初めて出会ったのが10月10日だったのか、と。
 成る程、と笑った。

「良かったな」
「うん」

 満面の笑顔で頷いた狐のあやかし。
 もう一度、心の中だけで良かったな、と呟いた。
 使役されるあやかしの中には、一方的に命令され、従属を強要され、全ての自由を奪われる者もいるから。
 自分も、ナルトも、かなり良い主人に当たっているのだと、猫のあやかしは知っている。
 だから。

「ヒナタを沢山喜ばせよう。沢山笑わせよう。沢山祝おう」
「うん…。うんっ。うん!!!!」

 こっちまで嬉しくなる満開の笑顔。
 ああ、あの心を中々開こうとしない日向の後継者殿があっさりと陥落してしまうわけだ。
 あんまりにも楽しい気分になって、猫のあやかしは狐のあやかしを抱き上げる。
 身長差は実のところあまりないので、結構に変な光景だが、やはりあやかしはあやかし。人間とは比べ物にならない力を持っている。だから猫のあやかしは、同じくらいの身長の少年をあっさりと肩に担いだ。

「よし、ナルト、ヒナタを幸せにしよう!」
「うん! しあわせ!」

 けたけたとあやかしたちは笑いあう。
 ただ1人の少女を幸せにするために。
2010年12月05日
フライング誕生日。
すっごい前に書いてたんだけどさ。