それは一瞬の出来事だった。
 全身の平衡感覚を保てなくなる大きすぎる揺れ。
 鳴り響いた轟音。
 耳を劈いた悲鳴。
 全身を襲う激痛。

 その全てが、一瞬で起こった。


 ぼろぼろの状態で目を開けると、それ以上にぼろぼろな惨状が目に入った。
 ついさっきまで自分の上にのしかかっていた男は、頭から、全身から血を流していた。男の流す血液は自分の身体に降り注ぎ、こちらの全身も恐ろしく赤かった。皮肉な事に男が自分の盾になったようだった。幸い男の上に降った瓦礫は既になく、おかげさまで難なく身体を引きずり出す。ごろりと転がった男は既に事切れており、ぎょろりと白眼を向いた目と、だらしなく開いた口から覗く舌が汚らしかった。下半身が露出した男はただただみっともなく、血と埃と土を全身に引っ付けていた。しばらくそれを眺め、その後周囲を見渡す。
 その光景は、男に捕まる前と、抜け出した今とでは一転していた。

 廃墟だったはずの老朽化した建築物は既に原型を留めておらず、生き埋めにならなかった事が奇跡に等しい。遠く見える街の方角からは幾つもの煙が立ち昇っている。煙だけではない、炎と火の粉が飛び散っていた。悲鳴と怒号とが遠く聞こえ、それら全てを場違いな程明るい太陽がさんさんと照らしていた。

 そうして、ようやく何が起こったのかテマリは理解した。








『災害が日向家にもたらした物』









 木の葉大地震―――。
 誰が呼んだか、いつからかその地震はそう呼ばれるようになった。震源地はどこだったのか、今の彼らの技術では理解する術もないが、被害が甚大だったのは、木の葉市街部の中心だった。
 死者は千にもおよび、行方不明者もまた五百を超えた。

 その報告書を横目に、日向ネジは窓の外を見やる。この大地震で日向ネジの父親である日向ヒザシも、日向家当主である日向ヒアシも命を落とした。他国へ留学していたネジや従兄弟の姉妹に被害はなかったが、日向家自体への損傷は大きく、次期当主が決まるよりも早く、家の建て直しを余儀なくされた。
 それが、隣国風国より勉学半ばに舞い戻ったネジ達、日向の後継者として名を連ねる者達の現状であった。

 日向家が使っていた本家は家具が崩れ、一部建物が倒壊したが、それでも被害は格別に少ない方だったので、応急処置をするだけして、道場を避難場として提供している。

 日向家当主の日向ヒアシと、その弟であり有能な秘書でもある日向ヒザシは、久しぶりにとれた時間を市街での食事に使っていたのだと言う。場所が特定出来ていた彼らの遺体は早くに見つかり、ある意味ではとても幸せだった。その所為あって日向の誰もが、日向家当主を探す事からこれから先のどうするのか、という事へ頭を切り替える事が出来た。時期が時期であるから盛大な葬式など出来るはずもないが、木の葉の慣わしどおり、先代の眠る土地へ土葬し、日向の生き残った者達の中、特に彼らに近しかった者達だけで全てを済ました。

 現在、日向家当主である日向ヒアシだけでなく、他の重鎮もまた数知れぬ不幸により命を落とし、実質ネジが日向家を率いていた。若干17の少年が背負うには余りに大きすぎる重責だ。

 トン、と扉の叩かれる音がして、窓の外から視線を資料に戻す。

「失礼します」

 見慣れた顔が部屋に滑り込み、ほんの少し外の空気を取り入れ、あっという間に扉は閉まった。
 年齢はさほど変わらない。2歳年下の従姉妹である日向ヒナタの同期生。長い黒髪を後ろで一つに括って、飾り気のない地味な服装をした少年。黒い瞳は妙にけだるそうに見えて、その癖奥深くに老人のような嫌に鋭い光を持っている。
 奈良シカマル。
 彼もまた、先だっての地震の被害者だった。

「なんだ」
「ヒナタからご飯を、ハナビ様からいい加減に休め、っていう伝言。それと、報告を色々と」

 手の上に持ったお盆を見せて、シカマルはにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
 彼は従姉妹の姉妹以外で本心を見せる事の出来る数少ない相手だ。そのひどく不真面目な態度に比べて、頭脳明晰で優秀だ。ただ、その頭脳で活躍し始めたのは地震の後。その前はただの出来損ないと誰もが思っていたし、学校の成績も大したものではなかった。それが、地震時に両親を失ったシカマルは、日向ヒナタにネジへの売り込みを頼み、ネジと面通りをした後、あっという間に優秀な秘書の座を手に入れた。いくら管理体制のガタガタになった日向だとしても、血筋と歴史を重んじる家柄的には驚異的な事だ。最も、彼が奈良という日向にもよく名の知れた名家の跡取り息子であった事も大きいのだが。

「誰かが書類全て処理してくれるなら休むが」
「とりあえず飯。そんで報告書」
「聞け」
「イヤ無理。そんで報告だけど、日向ヒヨコ様、帰ってくるっって」
「………………は?」

 珍しくも、呆気に取られるという言葉を体現して見せたネジに、シカマルはお盆を机の上に置くと、一枚の紙を抜き出して見せた。電報の細長い紙に一言。

 ―――カエリマス。ヒヨコ

 あまりにもシンプルすぎる電報だった。いや元々電報であるからシンプルなのは当たり前なのだろうが、それでも。短すぎるその文は、妙に嫌な予感を駆り立てた。

「…………………いつ、来た」
「さっき」

 電報が届くのは通常2、3日だが、今は地震の影響で遅れている可能性も高い。下手をすれば一週間は掛かって居るだろう。
 しかし今の状況では車や汽車は全滅であろう。一体何で来るつもりなのか。

 その答えは、直ぐに分かった。外からまさにそれであろう音が聞こえたから。

「…きた」
「来ましたね」

 若干青ざめたネジの顔。日向ヒヨコたる人物に会った事のないシカマルは、ちょっとした興味に目を輝かせる。名前だけは知っているのだ。日向ヒアシの妻であり、かつて大事件になったであろう出来事を解決した優秀な人物。病気によって今は外国で療養していると聞く。日向ヒナタや日向ハナビを知っている身としては、単純にどんな母親なのかも気になる。

 ちなみに外から聞こえてきたのは馬の嘶き。
 窓の外を見てみると、シカマルの予想とは大分かけ離れたものが広がっていた。

「…何をしているんだあの方は…」

 同じように外を見やり、深い息をついたネジ。
 その声が聞こえたわけではないであろうが、日向ヒヨコはこちらを見上げ、手を振った。表情までは見えない。馬は2頭。驚くべき事に馬車ではない。なんと日向ヒヨコ自ら馬を駆っていたのだ。
 日向ヒヨコの行動に倣ったのか、もう一頭の馬を操っていた人物が顔を上げる。
 漆黒の髪を持つこの国では有り得ない、黄金色の短い髪が風にのった。

「何者だ…」

 眉を潜めたネジの台詞に、シカマルは彼も知らない人物か、と首を傾げる。勿論シカマルも心辺りがない。それどころか、あんな眩しいまでの明るい髪を見たのは初めてだ。

 日向ヒヨコと異国の人物であろう黄金色の髪を持つ者は、軽快な動作で馬から降りると、家の方へ向かい、窓からは見えなくなる。ため息をついたネジは来訪者を向かえるために、シカマルと共に外へ出た。
 他国の技術をいちはやく取り込んだ日向ヒアシの意向によって、この家はどこもかしこも外国風だ。広い廊下を抜け、螺旋階段の下のエントランスに、つい先ほどまで馬上の人だった者達が見えた。

 長い長い見事な黒髪を後ろの高くで一つに纏め、この国では珍しい女性のパンツルック。ひどく活動的な格好に比べ、その表情はとても穏やかな物だった。優しげな瞳にふっくらとした唇が日向ヒナタにもそっくりで、着物を着ればよく似合うだろう。
 日向ハナビは父親似だと誰もが言うが、彼女の姿を見れば日向ヒナタは母親似だと誰もが言うのだろう。

 そして、その後ろに立つ黄金色の短い髪の男は、日向ヒヨコに対して非常に対照的であった。
 その明るい髪の色や長さだけではない。ヒヨコがパンツルックではあれど、こざっぱりした、さわやかな印象を抱かせるのに対し、彼の人物はどろなのか血なのか分からないような黒い染みのついた、汚い着物。それも身体に合ってはいないのか、どこかちぐはぐな印象を受ける。

 遠目で見たときはその顔立ちも年齢も良く分からなかったが、近くで改めて見てみて、ネジもシカマルも驚愕を禁じえなかった。男物のその着物が、ちぐはぐな印象を抱かせるのも当たり前だ。きつめの眉や瞳、それに短い髪のせいで男と決め付けていたが、近くで見てみればどう見ても女にしか見えなかった。胸はまろやかな曲線を描いているし、泥に汚れてはいてもその白い肌はひどく滑らかなものと分かる。丈の合っていない着物は、逆に女性としての魅力を引き出しているようにさえ見えた。血のようなどす黒い汚れと、全身を纏う泥、それに火傷の跡であろうか? 引きつれたような赤黒い皮膚の沈着がなければ、の話だが。

「伯母上…ご無事の帰還で何よりです。道中大変だったとは思いますが、どうぞごゆっくり身体をお休めください」
「ありがとう。ネジさんも元気そうで安心しましたわ」

 ころころと笑うヒヨコを見ながら、ネジはシカマルに従姉妹の2人を呼んでくるように命じ、彼女の持つ荷物を引き取る。

「まぁ、ネジさん…気を使わないで下さいな。人手が足りないのは分かっています。自分のことは自分で致しますわ」
「いえ、この位はさせてください。久しぶりにお会いしましたし、馬に乗っていられたのならお疲れでしょう」
「ありがとう」

 にこり、と笑ったヒヨコに笑みを返し、それで、とネジは彼女の背後に視線を送る。視線を合わすつもりはなかったのだが、黄金の睫に覆われた瞳が、淡い翡翠の色なのだと気付き、つい見入ってしまった。まるで宝石のような、温かみのない輝きは、真っ向からネジの視線を捕らえる。そのあんまりにも強い光に、一瞬気圧されつつも、警戒されていることは分かるので小さく笑みを作る。それに対して彼女が表情に乗せたのは、明らかにそれと分かる、作り物の、笑顔。その瞳は冷たく、そしてどこか挑発的な色をたたえていた。


「そちらは、どなたでしょうか? 異国の方とお見受けしますが」
「ええ! そう思うでしょう? ネジ。でも彼女は木の葉の生まれなのよ。ご挨拶をして」


 そう、促されて、一歩だけ前に出た女性は、作り物の笑顔で、それはもう見事な動作で一礼して見せた。

「始めまして、テマリです」
「………日向ネジだ」

 異国の人間、と言うには、確かにあまりにも見事な火の国の共通語だった。長年他国を受け入れようとしなかった火の国が、他国を受け入れてからは異国の人間が移り住むこともあったというから、その類の娘ということだろう。

「ねぇ、ねぇ、ネジ」

 ひどく嬉しそうに、まるで子供のように話しかけてくるヒヨコに、嫌な予感を覚え、一歩下がる。この笑顔が結構曲者だ。こういうところもヒヨコとヒナタは良く似ている。本人に悪気は欠片もないのだが、周りに厄介ごとを持ってくるということ。

「テマリさんを養子にしたいの。いいでしょう?」
「んな…っっ!!!」

 良い訳がない。どうそれを言おうか口ごもり、視線がテマリに向くと、彼女もまたネジの方を見ており、それがどうにもこうにも値踏みするような表情であったから、小さく苛立つ。

 日向の経済状況も不確かなこのときに、身の上も確かでない異国の人間など陰口の対象にしかならない。そんなものを今、日向に引き入れる理由などない。
 この地震で家族を失った孤児など幾らでもいる。その中の一人を養子とするのなら問題もそこまでは大きくないだろう。道場を開けて行き場のない被害者たちの非難場としているから、他からの評価は良くなっているし、孤児をわざわざ養ってあげるなんて、と、同情も引ける。話題性も出る。日向の革命児であった、ヒアシやヒナタの世代をよく知る世間は、意外と思うこともないだろう。

 しかし、テマリはその対象として不適格だ。幾ら自国の人間とは言え、明らかに他国の容姿をした人間だ。どう見ても自国の孤児とは見られないだろうし、今現在自国が大変なときに他国の子供を養子にするなんて、と思うだろう。いまだ他国の人間を受け入れられない存在は多いし、その自分とは違う髪や目の色を奇異に思い、排除しようとするものも多い。日向のような名前の知れた旧家が、そんな不利益な存在を身の内に置くなど、あってはならないことだ。

 それをヒヨコが分からない筈もない。だから余計に、言葉を探してしまう。

「養子…?」

 小さな小さな声は、ネジが発したものではなかった。
 ヒヨコとよく似た穏やかな顔立ちをした、長い髪の少女。16歳になったばかりとは思えない幼い顔立ちだが、それに反してスタイルはかなり完成されている。ネジの従姉妹である日向ヒナタに他ならなかった。
 呼びに行かせたシカマルの姿は見当たらない。ハナビの姿も見当たらないから、彼女を呼びに行っているのだろう。

「まぁヒナタ…! 大きくなりましたね…」
「お母様」

 日向家の息女としては地味な着物の裾をひるがえして、ヒナタはヒヨコの元へ走りよる。彼女がネジやハナビと共に風国へと留学してからは、なかなかヒヨコと会えずにいたので、実に2年ぶりの再会だった。

「お久しぶりです。お変わりがないようで安心しました…」
「ええ。ええ勿論私もです。元気そうな貴女が見れて嬉しいわ」

 手と手を取って、とてもよく似た笑顔で、涙を浮かべながら頷きあう。その感動の再会ともいうべきものを、テマリが興味なさ気に視線を逸らしたのが、ネジからはよく見えた。とうに値踏みするような表情は消えていて、作り物めいた笑顔も消えていて、ただただどうでもよさそうな無表情。

 ヒヨコの手を取ったまま、ヒナタがテマリに視線をうつす。その瞳はヒヨコと全く同じ、優しげな色をたたえていた。

「あ、あの…っ」
「…?」

 小さな笑顔を浮かべて、今度はテマリの元まで走りよったヒナタに、テマリは不思議そうに彼女に向き直った。
 ヒナタは、何の躊躇も、迷いも見せず、ヒヨコの手を握ったのと同じように、テマリの泥に汚れた両手を握った。その事に、ぎょっとして、ネジは目を見開く。テマリもまた驚いたのか、細い黄金の眉を顰めて、目の前の、自分よりも小さな存在を見た。

「私は日向ヒナタです。…お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「あ…て、テマリ…」
「テマリさん、ですね。とても綺麗な響きなのですね…! あ、あの、お聞きしても、よろしいですか?」

 ひどく嬉しそうに、ひどく楽しそうに、ま白い頬を紅潮させてテマリを見上げる少女。それを、不思議そうに見下ろしたテマリの瞳が、冷たいだけの光ではなくて、戸惑うように揺れているのを見て、ネジはこみ上げる笑いをこらえる。
 あの先程までの挑発的な態度はどこにもない。作り笑いも、値踏みするような視線もだ。

「…な、何を」
「とっ、歳は…お幾つなのですかっ?」
「…は?」

 ぽかんとした、本当にそんな表情のよく似合うテマリの顔に、今度は笑いをこらえることが出来なかった。ついつい声を出して笑ってしまい、注目を浴びたので、小さな一塊になっていた3人の元へ歩み寄る。

「ヒナタ、女性の歳を聞くのは、どうかと思うよ」
「…あ、ぅ…ご、ごめんなさい…っ」

 元々赤くなっていた顔を更に真っ赤にして、小さく縮こまるヒナタに、その謝罪を向けられたテマリは慌てて首を振る。彼女が答えられなかったのは、ただ、あんまりにも意外な質問に頭が回らなかったから、というだけ。

「あ、いや…いい。19だ…です」

 言い直して、テマリがヒナタの手を居心地悪そうにしながらも握り締める。
 その言葉と動作に、ヒナタは顔を上げて、満開の笑顔を顔に浮かべた。それはもう、本当に嬉しそうな、無邪気な幼子のような純真な笑顔で。ぱちくりとテマリは目を瞬かせた。

「19! それではお母様…! てっ、テマリさんは、私のお姉さんになるのですね…っっ!!」

 ちょっと待った。そうネジが突っ込むよりも早く。にこやかにヒヨコが頷いた。更にはヒナタが純真無垢な笑顔をネジに向けてきて。

「ね、ネジ兄さんにとっても、お姉さんですね…っ! すっすごく、すごく、嬉しいです…っっ!」

 嫌になるほど眩しい笑顔で。嫌になるほど、ヒナタとヒヨコは似ていると、改めて実感した。ヒナタとて、テマリのような異国の人間を日向家の養子に迎えるデメリットを分からない筈がないのに。
 2人分の笑顔を見ていると、何やらこちらが間違っているような気分になるから不思議である。

「その方が、わたくし達の姉になるのですか?」

 きっぱりはっきりした発音はの主は、後ろからはやる気持ちを無理に押さえつけたような足音を鳴らしてやってきた。意地でも走ろうとはしない頑固な姿勢からして、日向ヒアシにそっくりな日向ハナビ。ネジのもう一人の従姉妹その人だ。更にその後ろからシカマルがやってくる。

「ハナビも大きくなって…!!」
「お帰りなさいませ。お母様。会えるのをとても楽しみにお待ちしていました。今日会えるなんて思っていなかったから、余計に嬉しいです。それからネジ兄様、ヒナタ姉様、そちらの方がわたくし達の姉になるとはどういうことか聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」

 遅れてきたことを悔やむように、かなりの早口で長い言葉を一息で喋ったハナビはにこりと笑って首を傾げる。若干11歳の少女は、姉や母に全く似ていないつり上がり気味の瞳を興味深げに輝かせ、テマリをじっと見上げた。まだまだ成長過程のハナビは、テマリの腰ほどまでしか身長がない。代わる代わる説明をする姉と母の言葉を素直に聞き、最後に一つ大きく頷いた。歳の割には賢い子供なので、彼女もデメリットについては気付いただろう。

「テマリさん、と仰るのですね。テマリ姉様とお呼びしても?」
「は…?」
「嫌でしたか?」
「え、いや…」
「………そうですか…」

 ものすごく態度の大きな子供に全然ついていけてないテマリの言葉を否定ととり、ハナビは一気に落胆した様子でうつむいた。唇を噛み締めた様は今にも泣き出しそうに見える。
 ぎくりと、テマリが身を竦ませたのをネジは見た。

「いや、ち、違う! 嫌じゃない、と、思う。思います」
「本当ですか! 良かった! テマリ姉様、ヒナタ姉様、長い話は後にして、お風呂へ参りませんか? 一緒に入りましょう!」

 繋ぎっぱなしのテマリとヒナタの手を小さな手で握り締めて、驚くほど強い力でグイと引っ張る。とたんバランスを崩したヒナタと、驚きながらも体制を崩さないテマリ。

「いいでしょう? ネジ兄様!」
「はぁ!? ちょっと待てハナビ…!」

 誰もテマリを養子にしていいなんて許可は出してない。一応今のところ仮にとはいえ日向を率いているネジには、その件を拒むだけの力があるはずだが、完全にないがしろにされている。

「? ネジ兄様は反対なのですか?」

 心底不思議そうに聞かれ、しかもヒヨコとヒナタまでじっと見てくるから、言葉が詰まる。3人が3人とも既にテマリを受け入れる気満載だ。全くもって理解できない。小さく首をかしげたハナビは、テマリとヒナタを手を離し、早足で、けれど決して走らずにネジの下に歩み寄る。
 じ、と見上げられて、居心地が非常に悪い。

「ネジ兄様、少し耳を貸してくださいますか?」

 言葉に、身を屈めて、ハナビと視線を合わすと、それこそ子供同士の内緒話のように、耳に唇を近づけ、囁く。

「お母様が、日向の不利益になることをすると思いますか?」

 それはないだろう。
 あっさりそう思えるのは、確かにヒヨコが日向という家も、日向にいる人間も、そのすべてを愛し、大事にしているのを知っているから。彼女はとても聡明で、前代当主、日向の革命児たるヒアシの妻であった女性だ。
 ヒナタもハナビも、ヒヨコという人物を良く知っており、絶対の信頼を置いていた。だから身元も確かでない異国の人間にしか見えない人物を、あっさりと受け入れる。
 それが彼女達とネジの違いだ。

「…………そうだな」

 ため息と、苦笑とを同時にして、ネジはハナビの頭を撫でた。ハナビはそのままの体勢で「ちゃんとご飯は召し上がってくださいね」と、にこりと目を細めて笑った。その言葉に、自分がシカマルが持ってきたご飯に手を付けてもいないことを思い出す。ここに来るまでの間に、ちゃんと食べたかどうかシカマルに聞いていたのだろう。

「分かった。ありがとうハナビ。じゃあテマリさんを頼むよ」
「ええ! 勿論です!」

 ヒナタやヒヨコの笑顔とは少し違うけど、満面の笑顔で大きくハナビは頷いた。
 今度こそテマリとヒナタの手を引いて風呂の方へ向かったハナビを見送り、ネジは小さく笑った。
 日向家の女は誰もがしっかりしている。

「…伯母上、後で話を聞かせてくださいね」
「ええ。勿論よ?」

 にこりと笑ったヒヨコの笑顔に、ネジはやっぱり厄介な笑顔だと小さなため息を漏らした。







 木の葉大地震と呼ばれる災害から、一ヶ月後のことだった。
 2007年5月3日
 日向の宗家分家の確執はない方向で。…というか宗家分家自体がないuu
 ブログで思いついたのをざっと書いたのが一番最初のテマリ部分。
 それから思いつくがままに設定を作りつつ書いたのが最後まで。

 続きはないですuu
 日向家の養子になるテマリが書きたかったのです。
 そして仲良し日向家。ええもう、なんていうか不気味なくらい仲良しになって怖いです。ネジが。
 宗家分家がないと敬語も様付けもないよな…と思うと、なんだかネジの根本的な性格から変わりまくった感じなりましたuu
 別人ですね既に。
 ヒアシとヒザシを仲間はずれにしちゃって申し訳ないです。ホント。そしてネジの母君を考えていないけど、きっと幼少に亡くなってヒナタ達と一緒くたになって育てられたんじゃないかと。

 とげとげしていないハナビが自分で意外でした。楽しかったです(笑)
 オリキャラ的なヒヨコさんと、天然たらし気味のヒナタさん、不気味なほど別人でへたれたネジさん。
 出すつもりなんて全くなかったのに何故かいたシカマル、スレ入りまくりだけど日向の女陣に押され気味テマリさん。

 カプ要素は全くなしで、なんか書くだけ書いて結構自己満足してますuu
 いや、楽しかったなぁ、と。

 でもホント妄想一杯のパラレル世界にお付き合いありがとうございましたvv