近づいてくる小さな気配に、ヒナタは顔を上げた。
 どこか遠くを見つめたような、冷たく毅然とした表情は、下忍である彼女には全く無いもの。
 木漏れ日の下、本を閉じて、気持ち良さそうに伸びをする。

「お迎えに、行こうかな」

 柔らかに笑って、ひどく滑らかな動きで立ち上がった。
 その動作、あまりに何気ないものなれど、どこにも隙がない。
 ここでは"殻"を被る必要がないから。
 ふわりと、葉月の動きで宙を舞って、その場から少女は姿を消した。
 初めての友を迎えるために。






『木漏れ日の中で』







「我愛羅。今から我愛羅はどうする?」

 少し、そわそわと視線をさ迷わせながら問う姉に、我愛羅は小さく小首を傾げて見上げる。

「テマリはどうする」

 ひどく無愛想なその声は、昔と変わらなくとも、宿る感情があることをテマリは知っている。

「私は、木の葉見学だ」
「男を引き連れて、じゃん」

 腰に手を当てて、言い放ったテマリの横で、カンクロウが我愛羅に告げ口した。
 テマリの手がカンクロウの頭を綺麗にはたいて、我愛羅の眉間に皺が寄った。
 脳裏に描くは1人の男。

「そういうお前はどうするんだ?カンクロウ」 
「オレ?オレってば秘密じゃん」
「…お前ナルトの口癖移ってるぞ…」
「これってば、使いやすいじゃん?」

 悪びれもなく笑ったカンクロウに、テマリは頭を押さえる。

「…止めろ」

 気に障って仕方がない。
 姉の無言の声を聞き取ったのか、カンクロウは我愛羅の後ろに回って隠れるようにして、我愛羅の肩を掴む。
 かつて、それすらも拒んだ砂は全く動かない。

「我愛羅は葉月んとこ行くじゃん?テマリはシカマルんところじゃん?だから1人寂しいオレは適当にぶらつくじゃん」

 我愛羅の首に手を回しながら、けたけたと笑うカンクロウに、テマリが大きく息をついて、何気なく寄ったままの我愛羅の眉間を押さえた。

「我愛羅、皺が取れなくなるぞ」

 揉み解すように、眉間を押さえるテマリの冷たい指先に、我愛羅が小さく笑う。
 それを、テマリとカンクロウは見て同じようにして笑った。
 温かに、温かに、かつては有り得なかった空間がここにあった。

「それじゃあ、また後でな」
「ああ」
「おうじゃん」


 互いに手を振って、我愛羅が向かうは木の葉の深き森の中。

「いらっしゃい。我愛羅」

 迎えたのは、いつでも変わらない温かな友の声。






 はい、とヒナタは水筒からお茶を紙コップについで、我愛羅に渡した。
 今日は初めから我愛羅が来ることを知っていたのだろう。
 2人、木の下できらきらと零れ落ちる光を眺めながら、寄り添うようにして座る。

「最近は、どう?」
「…テマリとカンクロウが…普通に話しかけてくるようになった」

 話しかけてくるだけでなく、長年出来なかったスキンシップも過剰になってきているようだが。
 先程の2人を思い出すようにして、我愛羅はその瞳を和ませた。

「そっか。2人とも元気?」
「ああ。テマリもカンクロウもこっちに来ている」
「後でここに来るかな?」
「分からない。テマリはシカマルに会うらしい。カンクロウは…謎だ」
「そうね。カンクロウって結構分からないのよね。誰が好きなのかも教えてくれないし」
「あいつに好きな奴が居るのか?」
「怪しいんだけどね。分からないな。カンクロウの顔、読みにくいし。テマリは素直なのにね」
「…ああ。そうだな」
「寂しい?」
「…少し」

 憮然と頷く少年にヒナタは笑う。
 何と素直で可愛らしくなったことだろう。
 ヒナタの笑顔につられるように、我愛羅も笑った。
 初めの頃は、笑みの形を作るだけで、顔が引きつって痙攣していた我愛羅だが、最近では極自然に笑えるようになっていた。
 それが、どれだけ嬉しいか―――。
 火影とイタチもこんな風に思っていたのか?と思うと、ひどく温かくなる。
 ヒナタはテマリとシカマルの姿を頭に浮かべて、少し、首を傾げる。

「でもシカマルは素直じゃないから。きっとまだ引っ付くには時間掛かるよ」
「…そうだな」

 まだまだ不満そうな我愛羅に、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべて、我愛羅の背中に張り付いた。
 それからその耳元に囁く。

「今度、邪魔しに行こうか?」
「行く」

 即答。
 その速さに、またもヒナタは笑ってしまった。
 いつの間に彼はこんなにも兄弟思いになったのだろう。

「それじゃあカンクロウの謎も、解きに行こう?」
「行く」

 これも即答。
 軽く飛んで、我愛羅の背中から降りれば、地に置かれた瓢箪が目に入る。
 かつて、彼が決して手放すことのなかった瓢箪は、今こうして地に置かれているのだ。
 しばらく柔らかに笑んでいたヒナタは、小さく息をついて、我愛羅の目を覗き込む。

「我愛羅」
「何だ?」
「良かったね」

 テマリとカンクロウと打ち解けることが出来て、と、ヒナタは笑う。
 彼らと和解したからといって、全てが好転するわけではない。
 むしろ、砂側にとっては、我愛羅に対する駒が増えたという程度のものだろう。
 自分の内に入れるということは、弱点を増やす、ということに他ならないのだから。

 それでも。
 それでも、だ。
 我愛羅は穏やかに彼らと過ごす日々を、素直に楽しいと、嬉しいと感じる。
 それは、昔、彼が嫌っていた"弱さ"に他ならないだろう。
 けれど、手に入れてしまったからには、もう手放すことなどできはしない。
 ヒナタの笑顔を眺めて、我愛羅は、ぽつりと呟いた。

「…壁を、作っているのはあいつらだと思っていた」
「うん。でも違ったんだね?」
「…壁を作っていたのは"俺"だ。俺とその周り。気付かないうちに壁に囲まれて互いにそれを壊せなかった」

 いつ、囲まれてしまったのか、それはとてもとても強固で、彼ら自身に崩すことは出来なかった。
 ナルト、ヒナタ、と言う新たな異分子が彼らの前に現れない限り、この壁はいつまでも崩れることは無かったのだろう。
 だから。

「感謝している。ありがとうヒナタ」

 にっこりと笑うその様は可愛らしくて、思わずヒナタは我愛羅に抱きついた。
 頭からヒナタに抱えられてしまった我愛羅は、不思議そうに手を動かすが、勿論不快な訳が無い。
 これまで、人の温もりを全く知らずに育った少年は、ようやく与えられるようになった温もりを、ひどく好ましく思う。

「我愛羅。行こうか?テマリとカンクロウのところ」

 ゆっくりと離れて、そう言うヒナタの顔は悪戯っぽく、年相応に輝いている。

「行く」

 またも即答した我愛羅の顔は、どちらかというと物騒なもの。




 ヒナタと我愛羅の2人の襲撃者によって、テマリとカンクロウが多大な苦労を強いられたのは言うまでも無い。 







 ―――それは、温かに、温かに。

 木漏れ日の中のようにきらきらとした優しい日々―――
2005年4月23日
鹿陽様からのリク「スレシカヒナかスレナルヒナのラブラブか、黒の死神設定で、番外編みたいな感じの我ヒナ」です。
結局「黒の死神、番外編な我ヒナ」になりました。
…ええっと、ですね。
シカテマが…混じってしまいました…。
ごめんなさいuu
しかもどちらかと言うと兄弟の絆のような…。
………カンクロウの謎って何だ…?

鹿陽様これで宜しかったでしょうか…uu
期待と違うのでは、と不安でなりませんが、宜しければどうぞお受け取りくださいuu
それにしても、お待たせしてすみませんでした。
リクエストありがとうございましたvv