―――いいのかな?

 少女は問いかける。

 ―――いいんじゃないか?

 青年が応える。

 少女が戸惑いがちに笑う。
 青年が少女の頭をなぜる。

 ―――ヒナタは、強い子だからな








 『死神は夢を抱く』









 目が覚めた。
 ごく自然な覚醒。
 夢にうなされることも、傷の痛みにあえぐこともない、一般的で、平和で、幸福な、日向ヒナタと縁遠い覚醒の仕方。

「―――ここ」

 どこだろう、と少女は不思議に顔をゆがめる。
 ゆっくりと体を起こす。ずきりと、身体が軋んだ。頭も痛い。
 ぐるりと、全身を包帯が覆っている。動くまでまるで気づかなかった。
 動き出してみると頭も身体もずきずきと痛みを主張する。
 知らない天井。知らない家具、知らない間取り。
 何よりも自分はベッドに寝ている。
 ヒナタが布団と土と床の上以外の、こんな柔らかな場所に寝たのは初めての事で。
 つまり、彼女の家には決してないものだった。

 そして、金色が、目に入った。

「―――な、ると君?」

 机に突っ伏していた金色の頭が、ぴくりと震えた。
 ぼんやりとした瞳でヒナタを見て、目を見開く。

「―――!!!!! ヒナタぁ!!! 目、覚めたってば!?!?!」

 一目瞭然の事を少年は叫び、歓喜する。その大声に、ヒナタの頭も完全に覚醒した。ちょっとした痛みも伴ったが。
 そうして、ヒナタは起きる前の事を思い出した。




 ナルトに縋り付いて、泣いた。




「―――っっ」

 とてもシンプルな事実に、ヒナタの顔が熱くなる。
 恥ずかしい。恥ずかしいなんていうもんじゃない。
 とんでもない醜態だ。
 ナルトを見ることが出来なくて、自分の体をおざなりに確認する。暗部服の黒装束とズボンは変わっていない。とはいえ、身体中にこびりついていたはずの血と泥は、綺麗に清められている。

「…それ、傷の手当、俺じゃないってばよ」
「え?」
「紅先生がしてくれたってば」
「――――――――っっ!!!!!!!」

 ナルトが、静かに零した言葉。
 それは日向ヒナタに恐ろしいほどの動揺を与えた。
 意味が、分からない。
 ―――違う、分かりたくないのだ。

 たったの一言で、正確に理解していた。

「もうすぐで、みんな来ると思うってば」
「…! …みっ、み…んな…?」
「ん。…ヒナタが、皆の前から姿を消して、それを探した皆だってば」
「っっ」

 ヒナタの顔から血の気が引く。
 立ち上がろうとした少女の手をナルトが握りしめた。決して、強引にではない。それでも少女は動けなくなる。

「は、なして…」
「…もう、離したくないってば」
「……どう、して」
「ヒナタ、俺ってばバカだから、ヒナタの気持ち全然わかんねーってばよ。でも、でもさ、俺ってば、絶対ヒナタを守るってば。ヒナタと一緒にいるってば。だから、大丈夫だってば! ぜってー大丈夫だってばよ!!」
「―――っ」

 少女はそっとナルトを見上げる。
 ベッドの上で身を起こした少女の顔はどこまでも青ざめていて、ナルトが握りしめた手は冷たい。
 不安そうに揺れる白い瞳は迷子の子犬のようだ。黒髪が目の上にかかっていたから、なんの意味もなく、それを横に寄せる。それだけの動作に、ヒナタの体が震えた。
 その様があまりにも弱弱しくて、痛々しくて、そっと、その頬を撫ぜる。
 あんなに泣いていた。
 たくさん、たくさん泣いていた。
 きっと、ずっと、一人で泣いていた。

 そう思ったら、心臓をわしづかみにされたみたいに、ぎゅぅっと胸が痛くなった。
 苦しくて、息をするのがひどく困難になる。

「ぜってぇ、大丈夫だってば」

 もう一度、ナルトは断言する。
 だって、知っている。
 ナルトは見たのだ。
 ヒナタを手当てする優しい、けれど切なそうな紅の横顔を。
 何もできず、悔しそうに歯を食いしばる同期の少年たち。

 ヒナタは、彼女が思っているよりもずっと、ずっと、皆に大事にされている。

 にひ、と笑ったナルトに、少しだけ、ヒナタは落ち着いたように見えた。
 それだけで、ナルトは嬉しくなる。

 ナルトの家の扉が空いたのは、そんな時だった。

2012年09月17日
うわぁ、前回の更新から凄い時間経ってる…。
これはひどい…orz
蹴りいれてやって結構です…orz
スローペース人間ですいません(泣)
いちお最終シリーズ始まりです。
年内完結目指して頑張ります。