『夏のある日』
「もう、夏だね」
からりと晴れた陽気を思わせる笑みで、少女は笑った。
それに一瞬見惚れて、同じように笑う。
「うん。夏だ」
にっこりと、顔を合わせて笑いあう少年と少女。
ひどく呆れた視線を向ける少年が1人。
「お前等…それが殲滅任務終了後に言う事か…?」
周りをよく見ろ。と言いたい。
地に幾多もひれ伏す肉の塊は、いずれも自分達のやったものであり、闇の中でもぼう、と白い生首がぎょろりと目を剥いてコチラを睨んでいるのだ。
けれど。
やはり少年と少女は気に介さない。
そんなものは全く目に入っていない様子で、2人でにこにこと笑んでいる。
それに当てられたように、少年は深い深い息をついた。
「…めんどくせー」
呟いて、ほんの少し。
ほんの少しだけ、羨ましい、とか思ってしまったりもするのだ。
だって自分の思い人はひどく鈍感で、どんなに頑張っても全く気付いてはくれないのだから。
それに…。
彼女は、もう…他の人のものになってしまうかも知れないのだ…。
「ヒナー。シカってば、テマ姉ちゃんに告白してないんだよ」
ちゃっかり、シカマルの呟きに含まれた感情を読み取った少年、ナルトは少女、ヒナタに伝える。
「え?そうなの?そんなんじゃシカ、テマ姉さんに捨てられちゃうよ?」
「だよな。そもそもテマ姉ちゃんは前風影の娘だから、早いとこ捕まえておかないとどっか嫁にやられちゃうしな」
「そうよね。テマ姉さんは里が大事だからきっと頷いてしまうわ」
「な。でも相手がもしかしたらぶよぶよに太ったつるっぱげのエロ大名かも」
「もしかしたら年が親子ほども離れたエロ爺かもしれないよ」
どうしてもエロは抜かせないらしい。
段々と青くなっていくシカマルの顔色を見ながら、2人はとどめの一言を打ち付ける。
「「ああ。そういえば今日はテマ姉さんと、どこぞの馬鹿息子のお見合いではなかった?」」
その通り。
ここ1週間、そわそわと落ち着きのなかったシカマルの理由だ。
そんなもの壊したくて、けれども、それは彼女が選ぶ事だから、と思った。
だから、少女が1週間前に木の葉に現れた時も、ただ、笑った。
泣きそうな顔で、笑った。
「シカはそれでいいんだ?」
「シカはそれでもいいの?」
「テマ姉ちゃんの全てが他の人のものになってもいいんだ?」
「テマ姉さんの心が傷ついてしまってもいいの?」
そんなの嫌に決まっている。
何も応えなくとも、2人には分かったのだろう。
さて、折角火影に砂近くでの任務を回してもらったのだ。
今日はまだ始まったばかり。
「行って、テマ姉ちゃんを奪って来い!」
「じゃないとシカは里に入れないから!」
にっこりと笑った2人は、印を組んでその場から消えてしまう。
たった1人、残されて、シカマルは引きつった顔で、少しだけ笑った。
なるほど、最初からこの任務は仕組まれていたわけだ。
いつまでも行動を起こさない自分の為に。
彼らの大好きな。姉とも慕う人物の為に。
テマリの今回のお見合いの事は自分しか知らないはずだが、彼らは独自の情報網で手に入れていたのだろう。
「全く…」
呟いた、次の瞬間にはシカマルは姿を消していた。
木の葉の1人の少年が、砂の少女を連れて帰ってくるのはもう少し先の話。
2005年7月3日
ナルヒナシカテマ。
人様の書くお見合いの話は滅茶苦茶素敵なんですけどねぇ…。