『盾と矛』







 木の葉暗部、無班、通称"神采しんさい"。

 神の神絽しんりょ、最強の盾。

 采の采霞さいか、最強の矛。



 ギギッーーー。

 嫌な音がして、采霞の操る鋼糸が結界を弾いた。
 結界を纏う主、燃えるような赤髪を後ろで束ねた暗部、神絽は、今の攻撃による、結界の損傷を直ぐ様修復する。
 だが、それよりも早くに、数十ものクナイが傷ついた結界を乗り越えた。
 最初の何本かは、結界に触れた瞬間に結界もろとも爆発し、残りのクナイが十と少し越えたところで、神絽の結界の修復が終わったのだ。

 クナイに巻かれた起爆札が、次々と爆発する。
 球体の結界の中で起こる爆発に、神絽の結界がぐらぐらと揺れる。
 それが爆発の激しさを物語っているが、強力すぎる結界は音さえも通さない。

 結界内部にこもる煙を見透かそうと、采霞は油断なく構えたままに瞳に力を込める。
 数秒後、采霞の身体が木をつたって森から顔を出す。
 それまでに采霞のいた場所は次々と爆発する。
 勢いに乗って天高く飛びながら、バランスを整え印を組む。
 ふわり、と風にのって、空に浮きながら更に印を組む。

 術が進むに連れて、そのよく見える目が、神絽の姿を浮き彫りにする。
 彼もまた印を組みて、舞い降りる采霞を待ち構える。
 瞳術と供に平行して組んでいた長い印。
 それが。


 まったくの同時に、発動した―――。


 森が凄絶な音と共に振動した。

 かなりの広範囲にわたり、地が割れ、木々が沈み、煙が立ち上る。
 何がどう作用したというのか、紅いドームが広がり、一息の間に収縮、消滅した。



 ぽっかりと空いた、森のクレーターの真ん中に、采霞が落ちてきた。
 受身すら取れずに、崩れ落ちる。



 同時に、クレーターの土の中から、神絽が生えてきた。
 ぷは、と息を吸って、土から這い出る。



 采霞は首だけ傾けてそれを見た。
 神絽は首だけ起してそれを見た。

 すでに、仮面はどこかに飛んでいる。
 鉄の織り込まれた防御性の高い暗部服はぼろぼろ。
 頭から、腕から、足から血を流す。

 変化の解けた互いの顔を見て、気が抜けたかのように2人、笑った。
 先程まで天変地異レベルの戦いを繰り広げていた者同士とは思えない。

「また、決着付かなかったね」
「うん。やっぱり最強の盾と最強の矛は最強じゃないよね」
「そうだね。矛盾してるね」
「ね。神絽。動ける?」
「うーん。無理かも。采霞は?」
「同じく、かな」
「迎えを呼びましょうか?」
「うん。そうだね」

 笑って、2人同じ首飾りを日に透かした。
 あれだけ激しい戦闘の最中にあっても、傷一つ付いていない。
 それに、念じて、迎えの旨を伝えれば終了。

「また、怒られちゃいそうだね」
「うん」
「愛されてるね。チョウジ」
「愛されてるよね。ヒナタ」
「愛してるものね」
「愛しちゃってるからね」

 何だこいつらは!?と、誰かが聞いたら突っ込まれそうな会話を、2人は交わした。
 2人して、ほのぼのと待つ。

 この2人が、この信じられない大きさのクレーターを作った張本人であり、木の葉で最強と噂される、暗部無班の"神采"だと、誰が信じようか?
 たかだか12歳のはずの、しかも未だ下忍でしかない2人だ。

「あ。来たね」
「うん。来たね」

 ゆっくりと仰向けになって、彼らを待つ。
 ざっ、と黒影が2人の上に躍り出て、降ってきた。

「早かったね、シカ」
「早かったね、いの」

 呼ばれた、2人の少年と少女、仰向けに倒れる2人の顔を見て、ひくり、と頬を引きつらせた。
 チョウジとヒナタは次に起こることを予想して、耳を両手で塞いだ。

「早かったね…じゃねぇーーーー!!!!!!お前らいい加減にしろよ!!!!!毎回毎回後片付けする身にもなってみろ!!!火影様に小言言われるのはこっちなんだからな!!!!!」
「早かったね…じゃないわよーーーーー!!!!チョウジもヒナタも!いい加減にしなさいよねー!!!!毎回毎回木の葉を潰す気ーーー!!!火影様に文句言われるのは私達なのよーーーー!!!!」

 荒く息をつく2人に、とりあえずの嵐は去った、とチョウジとヒナタは耳から手を離す。

「ありがとうシカ。心配してくれて」
「ありがとういの。心配してくれて」

 全くの同時。

 名前のみ違っての同じ言葉。
 なんて似通った2人なのだろうか。

「誰が、心配なんかっっ!」
「するわけないでしょーっっ!!!!」

 それまで叫び通して、言いたいことをとりあえず言い終え、ふ、と平静になったところに落とされた言葉は、彼らにかなりの効果を与える。
 勢いよく赤くなり、叫んだ2人に、チョウジとヒナタは更に言葉を重ねた。

「愛してるよ。シカ」
「愛してるよ。いの」

「「んなっっ」」

 真っ赤な状態で口をぱくぱくとさせる2人に"神采"は笑った。




 最強の盾、木の葉にありけり。

 最強の矛、木の葉にありけり。
2005年8月3日
あははuu
何この人達。恥ずかしいなー。
シカヒナ、チョウいの。
チョウジとヒナタで組んでいて、シカマルといのも組んで暗部任務しています。
最強とほのめかされるチョウジとヒナタ。
どっちが強いんだろうねー?というヒナタの一言から始まった戦い…続くよいつまでも(笑)
色んな意味で最強に違いない。

最強の盾と矛、矛盾の意味。
有名な中国の故事成語ですね。
どんな鋭い矛で突いても突き通せない盾と
どんな盾でも一突きで突き破る矛と
じゃあこの矛でその盾を突いたらどうなるのか?
っていう。
突き破れなかったら嘘。突き破っても嘘。
まぁ、つじつまの合わないこと。