『ありがとうありがとうカミサマ』










    ―――俺はその日、初めてカミサマって奴に感謝した。









 その時ほど運に見放された日はなかった。
 自分の人生常に台風だとは思っていたが、まさかここまでだったとは自分でも信じがたい。
 まず、朝起きたら家にあるものあるもの腐っていた。牛乳もチーズになってるわ、飯はないわ、カップラーメンはないわ。
 勿論そんなもの食えるわけなくて。
 まぁ、演技のうずまきナルトのキャラクターなら、ここで何も気付かずに食べて後で腹でも下すんだろうけど。
 生憎と俺はそこまでしたくないし、そんなもん演技で収めればいいし。
 結局はまぁ何も食べずに外に出た。どうせカカシは遅れてくるだろうから、下忍任務に行く前にどっかで飯を買えばいい。合流場所には影分身を置いておこう。

 とかなんとか思ったのに。

 何故か。
 本当に何故か。
 カカシは遅れてこなかった。
 遅れてこなかった、というよりは、アスマと紅に引きずられるようにしてやってきた。
 合流任務でも懲りずに遅れてくるカカシを強制的に引っ張ってきたらしい。

 俺には迷惑なことに火影との約束があって。
 その約束がある限り、俺は下忍任務を影分身で済ますことは出来ない。
 下忍任務を生身で行う事が火影との約束だから。

 とまぁ、そういうわけで下忍任務が始まって。
 さて、昼はどうするべきなのか、と考える。
 下忍任務は片手間でも出来るし、演技も最早堂に入ったものでちょっとやそっとじゃ崩れない。
 それでも朝飯を食いっぱぐれた所為もあって、内心イライラしっぱなしだ。
 昨日の夜だって暗部任務の所為で食いっぱぐれてるんだぞこっちは。

 大体この任務だって本気出せば一瞬で終わるってのに、なんでこんなに時間かかるんだ畜生ちんたらちんたらしやがって。
 この分だと昼の休憩に飯を買いに行く暇があるかも分からない。
 チョウジのお菓子でも奪っておこうか。
 なんて思ったのに、チョウジがお菓子を持っていなかった。何故かと問えば、アスマから没収されたそうだ。合流任務中は止めろと。
 許すまじアスマ。いつかコロス。

「おい、ドベ」
「んだよナルシスト」
「………!?」
「!!」

 やべぇ、うっかり今地が出た。どうする。どうするよ俺。いやまて。まてよ。落ち着け俺。
 大丈夫だ。このくらいなんてことないだろ。

「で、なんだってばよっ! 」
「は!? あ、おお」
「はっきりしろってばよ!」
「あ、ああ」

 セーフ。ああセーフだ。セーフだろ。
 セーフだっつーに。くそ。
 カミサマカミサマ。恨みます。
 なんでこんなときに限って他里の忍が入り込んでるんだ。木の葉のセキュリティ甘すぎだろ。マジ死ねよカミサマ。

 あーくそ。
 カカシとかでもかなわねーぞこりゃ。
 どうするよ。
 ストレス発散してー。腹も減ったし。
 この勝利確信してにまにましているやつらぶっ殺したら楽しいだろうな。楽しいだろ。
 これだけピンチっぽければいいだろ。火影もきっと納得する。
 よし。行くか。
 折角そう思った、っつーのに。

「って、なんだよこれ」

 ぼそっと呟く。
 駄目じゃん。暗部がきやがった。

「大丈夫でしたか?」

 見りゃわかんだろ。あームカつく。
 カミサマカミサマ。あんたはさいっこうにくそったれだ。

 ………。
 ………………………。

 …………………………………………………。



 腹が減った。



 運の悪いことに誰も怪我しなかったから任務続行だ。飯? 買いに行く暇ねーよ。
 あー死ぬ。

「なっ、ナルト君」
「おーなんだってばヒナタ」

 今の俺は相手する気力なんてねーぞー。
 くそ。みんなしていい匂いさせてやがる。あいつらから飯をたかるか。

「あっ、あのね。今日、お弁当作りすぎちゃって………。そっ、それでね、なっナルト君が良かったら」

 分かった。
 これは分かった。
 皆まで言わなくても分かるさ。

「食う」
「えっ…?」
「ぜってー食う…ってばよ!!!!!!!」

 カミサマカミサマ感謝します感謝します。
 興奮のあまりヒナタの両手を掴んでぶんぶん振る。
 きっと俺ってヤツは心底嬉しそうな顔をしていただろう。

 ああもう。
 ヒナタの弁当は何もかもがとにかく旨くて旨くて。

「俺、ヒナタの飯が一生食いたいってばよー」

 なんて気が付いたら口走っていた所為なのかなんなのか、ヒナタが途中で気絶して散々攻められた。っつかこえー。特にいのとサクラが鬼の形相だった。
 でもそんなの些細な事だ。
 料理が致命的なまでに下手な俺としたら本気で些細なことだ。
 こんな旨い飯が毎日食えるならそりゃもうなんでもするって話だ。



 そんなカミサマに初めて感謝して数年。
 気が付いてみれば毎日最高に旨いヒナタの飯を食っている俺がいたりする。
 この幸せのためだけに、うっかり火影になったり日向家に乗り込んだり義父となぐりあっちまったりした俺はしみじみバカである。

「美味しい?」
「木の葉一だってば」

 ―――ああ、幸せだ。
2009年6月6日
何も考えないでひたすらおバカな方向で。
餌付けされたスレナル様。