『暁御降臨』







「く、くれないさん…!」

 滅多に動揺なんてしない男が今、狼狽あらわに叫ぶ。
 そうすると、大人びた表情が、一気に子供じみて見えた。

「久しぶりイタチ!おっきくなったわねーーー」

 ぎゅう、っとイタチに抱きつくのは紅。
 その豊富な胸にイタチの顔を押し付けるようにして、強く強く抱きしめる。
 それは、紅にとっては久しぶりに会えた弟分への洗礼なのだろうが…。

「…こ、殺される…」

 ぼそり、と、不穏な言葉を呟いたイタチ。背後にとてつもない殺気を感じて、全身を凍らせる。
 なんとも懐かしい。が、できるものなら一生感じたくなかった殺気だ。

「紅」

 柔らかな声は、どこまでもにこやか。けれどもイタチに向かう殺気はわずかにも減る様子がない。
 ぴったりと、首筋に刃を突きつけられる感覚。見た感じ何もないが、だからといって油断は出来ない。
 相手は何もないところに、透明の刃を数百はゆうに作り出す人間だ。

「い、イルカ先生」
「ん。久しぶりだねイタチ」

 言葉だけはとてもにこやか。
 イタチがだらだらと汗を流した。
 やばい。これは。今度こそ。死ぬ。かも。

「イルカ。可愛い可愛い私の弟分に何してんのよ」

 その窮地を、張本人である紅が救った。
 イタチからするりと腕を離して、イルカに手を振る。
 とたんに、円満していた殺気が飛び散り、イタチは大きく息をついた。生きているって素晴らしい。
 紅に口を挟まれ、急にしゅんとなったイルカは、けれども静かに笑った。
 そして、そこに。

「兄さん!!!!」
「「「「イタチ!!!!!」」」」

 わらわらわら、っと、どこからとも無く子供が現れた。黒髪の子供が3人。金髪の子供が2人。合計5人の子供たちは、イタチの名を呼びながら、彼に思いっきり飛びついた。
 突然の事態に、イタチはバランスを崩し、水面を滑る。
 水面上で、誰一人沈むことなく、イタチに子供たちは飛び乗った。

「久しぶり兄さん!!元気だった!?ねぇ!ねぇ!お土産は!?」
「イタチ久しぶり!!土産!土産!」
「久しぶりーー!!イタチ元気だったーーー!?」
「イタチ、約束の物は!?」
「え?約束の物ってなぁに?」

 一斉にしゃべり始めた子供たち、もみくちゃにされて、イタチはそれどころでないのだが、子供たちは子供たちでイタチと話したくて遊びたくて大変だ。
 だが、そこに現れし新たなる救世主。

「ほらほら。お前たち、イタチを解放してやりな」

 低いバリトンが大気を震わす。

「「「「「サソリ!!!!!!!!」」」」」

 ふらふらのイタチを放って、全員が、サソリに駆け寄った。喜々として抱きついた子供たちを、サソリは取りこぼすことなく抱きかかえる。
 何故、彼がここに居るのか、なんて当然の疑問は意味を持たない。



「災難だったな。イタチ」

 くく、と笑った声に、イタチは苦笑する。目の前には大きな鉄扇からひらりと降りた砂の女。
 彼女には、木の葉のメンバーに比べればかなりの確率で会っていた。

「テマリ様も、こちらにいらしたのですね」

 自分よりも年下の少女に様付けして、イタチは笑いながら立ち上がる。
 もみくちゃにされてしまった暁衣装はあっさりと脱ぎ捨てた。
 もともと、その衣装には糸くずほどの価値すらない。

「まぁな。久しぶりに暁メンバーの全員集合さ」

 くくっ、と人の悪い笑みを見せて、テマリはひょい、と手を上げる。
 テマリの腕の動きに呼応するように、イタチの子供たちの襲撃によってついた擦り傷打ち身が消えうせた。

「ありがとうございます」
「礼はいいさ。それより、だ」

 テマリは広げたままだった鉄扇をゆっくりと、閉じていく。
 ゆっくりと、じらすように。
 少しずつ、少しずつ、桃色が覗いて。

「サクラ」

 1人の少女の姿をあらわにした。
 緊張に顔を青ざめさせた、淡い桃色の髪をした少女を。
 イタチが名前を呼ぶと、サクラはびくりとして、テマリの服の裾を掴む。
 身体の大半をテマリに隠すようにして、おずおずとイタチを伺った。
 その、サクラの髪を、テマリがくしゃりとなぜる。

「ほら、サクラ」

 自分で乱した髪をまた整えて、そっと微笑んだ。

「行ってらっしゃい」

 その声は、とてもとても優しくて、自然と肩を押される形になった。
 勇気付けられて、サクラは震える身体を叱咤する。
 ゆっくりと、ゆっくりと、一歩一歩を確かめるようにしてイタチにサクラは歩み寄った。

「お久しぶりです…イタチさん…」
「サクラ…」

 極自然に、惹き付けられるように影が重なった。
 何も言わずに寄り添いあう2つの影に、どこかほっとしたようにテマリが笑う。

「全く…世話を焼かせる」




 子供5人を身体に張り付かせ、適当にあしらいながらその様子を見ていたサソリが呟く。

「サクラも来たのか」

 その言葉に、ようやく子供たちはテマリとサクラの姿に気付いた。
 新たな獲物、と見定め、我先にと駆け出した。

「「「「「テマリ!!!」」」」」
「おっと」

 テマリは、2人の少女をやんわりと受け止め、微笑む。
 こういった襲撃には慣れているのだ。
 だが、その数が、明らかに足りなかった。


     ――― キ 、 キキキキ ―――ー!!!


 鳴り響く、不快な音。
 視線を向ければ、残りの子供たちの姿がそこにある。

 金の髪に蒼の瞳を抱く、落ちこぼれと名高い少年…うずまきナルト。
 黒の髪、血継限界を抱く黒の瞳、天才と名高いうちはの生き残り…うちはサスケ。
 黒の髪を高く結い上げた、面倒くさがりやNo1…奈良シカマル。

「なんのつもりだ」
「シカマル」

 奇妙なほどの笑顔で、ナルトとサスケは言った。
 何故か抜き身の刀を持った2人。振り下ろされたその刀は、宙で止まっている。
 目に見えるほどのチャクラの塊が、2人の刃を受け止めていた。
 サスケがどこからかもう片方の手で刀を取り出し、振り下ろす。ナルトがチャクラを集め、幾つもの光弾を作り出す。
 2人の前に立ちふさがり、チャクラを操るシカマルは、不敵な笑みを浮かべる。けれどもその額にはしっかりと脂汗。

 目の前に立つ2人が、それぞれ自分と同程度の力を持つと知っているからだ。

「ぜ〜〜〜〜〜〜ってぇやらせねえ!!!」
「「いや無理」」

 それはもう見事な2重奏に、シカマルは青筋をたてて叫んだ。

「テマリは俺のものだっつーの!!!!!!!」





「そうなの?テマリ」

 ヒナタの問いに、「まさか」とすぐさま否定の言葉を口にしたテマリだが、そっぽ向いた彼女の横顔は、隠しようがないほどに赤かった。

「いいなぁーー。愛されててー」

 しみじみといのが言って、大きなため息をつく。
 その言葉に、3人は揃ってじゃれている男達に視線を向ける。
 彼女の彼はとても楽しそうに、シカマルに二振りの刀を振りおろしている。

「サスケは、照れ屋さんだから」

 呆れたような、けれども優しい瞳でそれを見守って、ヒナタは微笑む。
 ヒナタの言葉にテマリはうんうんと頷いた。照れ屋、というか格好付けなのだ。

「そうだけどー」

 それは、知っている。
 知っているのだが、やはり寂しいのだ。
 いつもいつも他の人間と遊んで、じゃれあって、ただでさえ山中いのとうちはサスケの接点は少ないというのに。

「あいつは、あれでもお前に甘えているんだよ」
「そうかしらー…」

 いつもこっちは頑張ってサスケといようとしているのに、サスケは男友達と遊んでばっかりだ。折角2人っきりになれたって、あんまり構ってくれない。

「そうだよ。ナルトがね、サスケに惚気られた〜って、いっつも怒ってるもん」

 ヒナタの言葉に、テマリもいのもキラリと目を光らせて。

「「どんな風に!?」」
「えーーー?いのの寝顔が可愛いとかー」
「「寝顔!!」」

 ぼん、と赤くなったいのに、くくっとテマリが笑う。

「やるねぇ、あいつも」
「他にも髪のさわり心地がいいとかーーー!!!!」

 遠くから、ナルトの馬鹿笑いと共に言葉が降ってきた。

「ナルト!!!」

 またまた遠くからサスケの叫び声。その後「う」やら「ぐあ」やらのうめき声。恐らくナルトの声に気をとられてシカマルの技を捌けなかったのだろう。

「ナルト!てめーぶっ殺す!!」
「おお、やってみろっての!」

 目的を忘れて熱くなる2人に、黒い塊がザァ、と降って、彼らに当たると同時に次々と爆発した。寸でのところで結界を張った2人に、シカマルの高笑い。

「バーカ」

「「………てめぇらぶっ殺す!!!!」」

 彼らの雄たけびと共に、空に光弾が広がった。




「綺麗ですねー」
「そうね」

 腕の中に強引に閉じ込められて、言葉とは裏腹に紅は唇を尖らせる。

「ヤキモチやき」
「いけませんか?」

 耳元で低く囁かれ、僅かに身を震わせた。

「別に、悪くはないけど…」

 っていうか別に毎日のように会っているのだからいいじゃないか。とか、遠距離恋愛のイタチとサクラとか、シカマルとテマリとか、彼らに示しがつかないじゃないか。とか、色々思ったりもして。






 唖然と、阿呆のように立ち尽くしているのはアスマだった。
 ついさっきまで"うちはイタチ"と一触即発だったはずがあっという間にこれだ。
 その呆然と突っ立っているアスマの元に、ガイとカカシが到着する。ガイもまた呆然とするばかり。ただ、カカシだけが「あ〜あ」という顔で頭をかく。

「……おい、カカシ…」
「んーーー?」
「どういうことだ」
「こういうことでしょ?」

 そう、指差す目の前の光景。子供たち3人が空を舞い、それを見守る他国と自国の中下忍。2人の世界を作り上げている下忍と抜け忍カップルと万年中忍と新任上忍カップル。それら全てを実に満足そうに、実に楽しそうに見守るのが赤毛の元砂忍だ。

「いや意味分かんねーって」

 プッハーーーと豪快にタバコの煙を空に吐き出して、カカシに突っ込む。その隣、ガイはまだ固まったまま。その様子をちらりと見て、カカシは苦笑する。

「暁って知ってるー?」
「ああ? あの大蛇丸なんかがいたっつー犯罪組織か?」
「そうそうそれ。なーんか最近変な動きしてるんだけどねー、それって本当のメンバーじゃないのよ」
「…………はぁ?!」
「仮のメンバーなんだけど、ちょっと仕事させてたら調子に乗ってー勝手に動き始めたからー、本物メンバーが制裁しようかってことになってー」
「……って!? ちょ、ちょっと待て!? お前なんでそんな詳しいんだよっ!!」
「え? だって、暁に聞いたから」
「あ、あ、暁と知り合いなのか!?!!?」
「っつーか、あれ」

 指差す。
 示された方向で、まるで花火のごとく火花が散り、光が舞い踊った。子供3人組みの仕業だろう。

「………どれだよ」
「犯罪組織暁メンバー、サソリ、紅、イルカ、ヒナタ、ナルト、シカマル、テマリ、サスケ、いの。そんでその協力者のイタチとサクラ」
「………………」

 はっきり言って、冗談きついぜーあははーの気分だが、目の前の光景はもうおそろっしく高度の術のやり取りで行われているのが分かっちゃったりして。
 あははーの代わりに煙を空高く吐き出す。

「あーーーーーーーちょっとマジでさ。頼みたいことがあるんだわ、カカシ」
「記憶隠蔽はやらないよ」
「………なんで」
「えーだってさー紅の姉御がアスマとガイにはばらしちゃえーって言ってたから」
「………………俺、無理。あんなメンバーと付き合える自信ねぇって。大体ガイなんざまだ固まりっぱなしだぞ!?」
「いやー大丈夫。俺もないから。っていうか、姉御怒らせんの怖いしー。イルカセンセー恐ろしいしーなんかシカマルが弱み握っちゃってるしー…………………はぁ」
「お、おい、いきなりブルー入るんじゃねぇよ! っていうかマジで勘弁してくれよ…」

 うなだれたアスマの元、その教え子ということになっている下忍の声が届いた。
 ひどく遠くから、楽しそうに術を放つ下忍の。

「アスマー諦めろー」

 実にシンプルで分かりやすい。それだけに、泣けた。
 もうどうしようもなく、泣けた。男泣きだ。
 ぽん、とカカシがアスマの肩をたたく。
 男と男の友情がより深まった瞬間だった。


 かくして、暁メンバーは偽暁メンバーの殲滅を実に楽しそうに実行し、意気揚々と引き上げたのだった。
2006年11月5日
途中まで大体書いて放置していたやつを仕上げて見ました。
ものっすごいさまざまなスレメンバーとなっておりますuu
いつ書いたのか謎だけど、そのときはこういったカプやメンバーが旬だったのでしょう(自分の中で)
確か最初は、暁のメンバーが実は全然別のメンバーで、現暁はただの下っ端だったりしたら面白いなー、とか、そんな感じのノリでした(笑)