『化けましょう化かしましょう』







 ヒナタは、怯えたかのように顔を上げた。
 目の前に急に現れた、金色の髪の青年。
 とても澄んだ空気を持った、どこか懐かしい、長い髪の青年。

「だっ、誰…?」
「んー?通りすがりの狐」

 返答はとても適当で。
 けれどもヒナタは首を傾げて律儀に応えた。

「…きっ、キツネ…さん?」
「ん。そう。今どうやって君を化かそうか考えてるところ」
「ばっ…化かすんですか…?」

 驚いたかのように小さく飛びのく。
 目の前の自称狐青年は笑った。
 あんまりにも無邪気で、あんまりにも真っ直ぐで、どこか、懐かしい。

「うん。狐の生きがいなんだ」
「そ…そうなんですか…?」
「うん」

 風が、にっこりと笑う青年の髪と、少女の黒い髪を揺らした。
 気持ちの良い風、と青年は天を仰ぐ。

「良い場所だね」
「……はいっ」

 さやさやと風が鳴く。

「………………あっ…あのっっ」
「んー?」
「ばっ…化かさないのですか…?」
「まだまだ考え中ー」
「あ、はっ…はい」
「………」

 少女は少し落ち着きなく青年を見つめて。

「………………ぁ…………あ…あのっっ」
「うん」
「…きょ、兄弟とか……居ませんかっっ!?」
「んー残念ながら居ないよ?なんで?」

 口ごもって。
 けれども青年はそれをせかそうとはしなくて。
 あまりにも優しく見つめてくるから。
 嘘が、つけなくなる。

「………すっ…すごく…すごく…好きな人に、似てる…から」
「………っっ」

 青年は鋭く息を呑んで。
 けれどもそれを一瞬で覆い隠す。
 少女の真珠の瞳は穏やかで。
 ゆっくりと。ゆっくりと。
 奥へ、手を伸ばす。

「ごめん、もう一回。あんまり聞こえなかった」
「ぁ…そっ、その………………似てる、んです…」
「誰に?」
「えっっ………あ……」

 青年はにっこりと笑う。
 続きを、ゆるやかに促す。

「ヒナタにとって、その人は、どういう人?」
「……すっ…すごく…大事な……大切な、人…です」
「好き、ってこと?」
「ええっっ…?」
「違うの?」
「えっ………あ…………………………………………ちっ、違わない…ですっ」

 よく言えました。
 そう言わんばかりに、青年はヒナタの頭を軽く撫ぜて。

「誰?」
「…え?」
「名前」
「………………えっ!?」

 なんで、今さっき会ったばかりの人にこんなこと話しているんだろうとか。
 思って。
 けれど恥ずかしさと、あまりに大きな気持ちがいっぱいで。
 思考が空回り。

「あ………そ、その……………」
「うん」
「………な」
「…………………な?」
「うっ………うずまき……ナルト、君………」

 瞬きを、ゆっくり3回。
 ごくりと唾を飲みこんで。

「……………………マジで」
「………えっ?」

 ぽつん、と落とした声に、ヒナタは首を傾げる。
 青年の顔を見上げれば、愕然とした、魂を抜かれてしまったような、呆け顔。
 けれどもそれは、じわじわと、幸せそのもののような顔になって。
 白く色のなかった頬がびっくりするほど赤く染まって。
 叫んだ。

「うっわ…………っっ!!…やったっ…!マジで?マジで?マジで!?うわっ!すっげー嬉しいってばよっっ!」

 唖然として、動けないヒナタに、青年はアクロバティックな動きで空中回転を決めた。
 まん丸な瞳と目が合って。
 ようやく青年は種明かし。

「あ…。ごめんヒナタ!化かしたってばっ!」

 ―――ボンッッ。

 毎度おなじみ変化の解ける音。
 金色の髪の青年の立っていた場所に現れた、金色の髪の少年。

「っっ!!な………な、ナルト君っっ!?」
「俺もヒナタが好きだってばよーーーーーっっ!!!!!!!」
「えっ?ええええっっ?」

 がばっと抱き寄せられて、顔を真っ赤にして頭を混乱させているヒナタに構わず、ナルトは一人はしゃいで叫んだのだった。
2006年8月6日
化かしてみる狐さん。
互いに名乗ってないのに途中で「ヒナタ」って言っちゃってるあたりナルトも動揺してんだよ、って話。
空空の落書帳代わりの掲示板で描いた絵に会話文を付けてたら、えらく長くなったので小話にして拍手に使おうかと…(笑)

このナルトはスレに入るのかどうか…。
珍しいことにノマヒナ。
スレナル×スレヒナも好きですが、ノマナル×スレヒナもスレナル×ノマヒナも大好きです。