『結婚における価値観』
「結婚は人生の墓場。一度結婚したら、善良になる以外にあなたは何ひとつ残されない。自殺さえできない」
「悪妻は百年の不作」
「朝夕の食事はうまからずともほめて食うべし」
「自由にさせておくと、よい妻でも駄目になる」
大体美味しくなければ食べなきゃいいのよ。と、新婦は嘲り。
そもそもよい妻じゃねぇだろうけどな。と、新郎は鼻で笑い。
間に挟まれた神父は青ざめた。
まぁ、当然の反応であろう。
なんせ今現在結婚の神聖なる誓いを上げようとしている本人たちのやりとりなのだから。
新郎が誓いのキスの為にベールを上げた瞬間、淡い水色の瞳が挑発的に輝き、最初の台詞をのたまいなさった。
さすがに大きな声ではなく、間近にいる新郎と神父にしか聞こえなかったが、それを耳にした瞬間に神父は耳を疑い、新郎は鼻で笑って答えた。
つい先程まで、従順な美しき花嫁そのものだった女と、花嫁をリードする理想的な新郎そのものだった男は、最早どこにもいなかった。
世を儚いたくなった神父には目もくれず、新郎は新婦の細い身体を抱きしめ、頭を片腕で固定すると、まるで全てを奪いつくすように深く際どいキスをする。
なんとも情熱的なそれに、会場は沸いた。
美男美女同士のそれは、ひどく美しく官能的で、ちらりと覗いた舌に一瞬誰もが瞳を釘付けにする。
濃厚な誓いを交わした新郎新婦は、全くの同時に神父を見た。
先ほどのやりとりは冗談だったのではないかという儚い希望は、新郎新婦の口元に浮かぶ皮肉気な笑いに一瞬にして砕かれた。ちなみに、会場の客には角度によって2人の表情は見えない。
「ま、意外にこういうカップルの方がうまくいくのかもな」
「結婚は恋愛とは別物よねー」
今度はにっこりと、悪戯っぽく笑んで、2人は神父に見せ付けるように指輪を交換する。神父が唖然としたままなのを置いて、新郎はひょいと新婦を抱き上げ、花道を歩き始めた。
冷やかしがと惜しみない拍手が飛ぶ中、サスケはいつもどおりの無表情で歩き、いのはいつもどおりの笑顔で手を振る。
後に残された神父は、愕然とそれを見送る事しか出来なかった。
おめでとう、おめでとう。そんな言葉の群れの中で、サスケはひっそりと花嫁の耳に囁く。
「おい、いの」
「分かってるわよー」
いのは、ブーケを持ち上げる。女性陣が一瞬にして殺気立ったように見えた。逆に、男性陣は一歩引く。気を利かせるとかそんなことではなくて、ただ、恐ろしさからだろう。
小さく、小さく、サスケがいのを抱えたまま印を組んだのには誰も気がつかなかった。そもそもこんなところでいきなり忍術を使う奴なんて普通はいない。だが、いのはサスケの目配せに、にやりと頷いた。明らかに、サスケのした事を理解していた。
「行けーーーーーーー!!!!!」
「「「「「「キャーーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」」」
きゃーなのかぎゃーなのかよく分からないその歓声の中、そのブーケは新郎新婦の望むままに飛び………明らかに重力加速度を超えた動きで、何者かの頭に突き刺さった。
「いってっっ!!!!」
明らかにありえない音をして落下したブーケは、頭から腕に転がり落ちる。
それを手にした男は未だ事態を飲みこんでいないのか、呆然としたまま手の中のそれを見た。色とりどりの花が可愛らしいそれらは、どう考えても先ほど頭を襲来した物の正体とは思えない。
「シカマルーーーーーー!!!!!!!」
「ああっっ!?」
聞きなれた幼馴染の声を聞いて、シカマルは嫌な予感に一瞬身を震わせる。理屈ではない、直感で彼は何かを感じていた。
すぅ、と花嫁は大きく息を吸い込む。周囲もしん、と静まり返って何が起こるのかを待っている。その中で、ますますシカマルは身を強張らせ…
「次はあんたの結婚式だからねーーーーーーーー!!!!!!!!!」
ガチン、と固まった。
いや、その言い方は生ぬるいだろうか?見事な石化を果たしたシカマルは瞬きすら出来ずに立ち尽くし…。
「し、シカマル!?恋人いたの!?!?」
「誰っ!?どこのどいつっ!?」
「ほおおおおお!?うちの息子もやるようになったじゃねぇか!!なぁ!!!」
「やるじゃないシカマル!!!それでこそアタシの息子だわ!!!それで!?相手はどちらかしら!?」
嵐のど真ん中に、放り入れられた。
「ははっ!」
「フン」
その嵐を起こした新郎新婦は心底楽しそうに、見るものまでが嬉しくなるような晴れ晴れしい笑顔を振りまき、シカマルの近くを通る瞬間、小さく鼻で笑った。それは、もう、見事なまでに一瞬のことで、シカマルが硬直から抜け出す頃には、既に新郎新婦は姿を消していた。
その新郎新婦の姿を楽しそうに見ていた20前後の女性は、連れの男に視線を向ける。どこかふて腐れた少年めいた容貌をもつ男は、地べたに直接座り込んでいた。力なくたれた長い茶色の髪は今にも地につきそうだ。
「ほんっとうに顔見せなくていいの?」
「…いい」
「…本当に?」
「…本当」
「…もう…意地っ張り」
唇を尖らせた女性は、わしゃわしゃと男の髪を撫で、眩しそうに新郎新婦の姿を目で追った。その様子を何とはなしに目で追いかけて、暗い影を顔に落とす。ぼそりと、男が言った。
「………上げたかったな。結婚式……」
「……………そうね。でも、ね。後悔はしていないのよ」
だから、気にする事はないわ。
そう彼女は笑って、うずくまる男に視線を合わせて座り込む。結婚式に合わせた華やかなドレスから覗く素肌が非常に眩しい。何よりも艶かしく輝く唇が目の前にあった。
「愛しているわ…………ナルト」
「…………オレもだ。ヒナタ」
いないはずの人間は、くすくすと笑いながら、唇を合わせた。
後ろから、きゃーともぎゃーともつかない歓声が上がった。勿論、それは彼らに対するものではないが、相当大きな騒動で…それにすら、振り返ることなく彼らは唇を合わせていた。
結婚の形は人それぞれ。
これもまた、一つの結婚の形。
これが、私たちの幸せな結婚。
2006年2月23日
不健全カップルサスいのの続き。
ついついナルトとヒナタを復活させてしまったり。
やっぱ2人は生きていないとvv
ちなみに最初のサスケといのの台詞は『ことわざ小事典 永岡書店』よりお借りしました。
結婚は人生の墓場
一度結婚したら、善良になる以外にあなたは何ひとつ残されない。自殺さえできない…スチブンソン(イギリス)
悪妻は百年の不作…ことわざ(夫にとって、ためにならない妻を娶ると、自分が不仕合わせであるだけでなく、悪い影響が子や孫の代まで残る。百年は、多くの年)
朝夕の食事はうまからずともほめて食うべし…伊達政宗(日本)
自由にさせておくと、よい妻でも駄目になる…ことわざ。