なんなのよなんなのよなんなのよ!!!!!!!
あーーーーー!!!!腹が立つ!!!!
ざっけんじゃないわよー!!!!
『春姫』
彼女の背から、ごうごうと炎が立ち上っているのが、カカシにははっきりと見えた。
その、表情こそ、いつもとさして変わりはないが、纏う空気がこちらまで切り裂かれそうに、冷たい。
その空間から、カカシは冷や汗を垂らして、一歩、退いた。
「なによ」
ふと、少女が漏らす声。
それはカカシが動いた瞬間に漏れたが、彼に向けた言葉ではない。
少女の視線の先には、任務帰りに偶然出会った少女と、同じ班に所属する2人の少年。
サクラとカカシは、ちょうど夜の暗部任務について念話をしていたので、発見に遅れたのだ。
そしてこの始末。
「なんなのよ」
ナルトとヒナタがにこやかに(いつものようにナルトがヒナタに一方的に喋っていただけだが)話しているが、サスケがナルトに何か言ったのか、ナルトがサスケに指を突きつけた。
ナルトは何事かを声高に叫び、サスケは冷笑を浮かべる。
言い返すナルトと、挑発的な笑みを浮かべるサスケの2人に挟まれて、ヒナタはおどおどと手を上げる。
2人の横顔を見上げながら、どうすればいいのか分からないといった風の少女。
彼女を間に挟んだまま、ナルトが叫んだ。
その大声に、身をいっそう縮こませたヒナタが、何とかして2人を止めようと身を乗り出した、その瞬間―――。
少女の身体がバランスを失い、ふわり、と傾いだ。
目の前に倒れてきた少女の身体を、思わずナルトとサスケは受け止める。
ごう―――。
と、より一層鮮やかに炎が燃えあがった―――。
その、かろうじて浮かべていたいつもの表情が、完璧に崩れ去った。
きっ―――とつりあがった瞳が、ぎらぎらと輝く。
その桜色の細い髪が、まるで炎の様に、チャクラによってふわりと舞い上がった。
身体の外へ漏れだす殺気とチャクラに、また一歩、カカシが身を引いた。
(何してんのよあのくそ女っっ!!!!!!!ふざけんじゃないわよ!!!!!!!ムカつくムカつくムカつくっっ!!!!!!!!!あの女!どうにかして殺してやろうかしらっ!?)
そこまで考えた瞬間、サクラの顔が凶悪に歪んだ。
歪んだ、というよりは、笑った。
楽しそうに。
楽しそうに。
上忍以上になら丸分かりの、どす黒いチャクラを撒き散らしながら笑う。
カカシが、一つ息をついてサクラの背後に忍び寄る。
実力だけで言うなればサクラの方が上だが、彼女はすぐに感情にとらわれる。
そういった時の彼女は何とも隙だらけだ。
忍としては欠点でしかないが、そんなところもまた可愛いとは思う。
「サークーラー」
ばふ。
と、サクラに後ろから抱き付いた。
「きゃあっっ―――」
全く持って油断していたサクラは、思わず可愛らしい悲鳴を上げた。
そのサクラの声に、ナルト、サスケ、ヒナタの3人が驚いたかのように振り返る。
そして、その奇妙な光景に目を見張った。
「あーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!! カカシ先生ってば、サクラちゃんに何してんだってばよーーーーーー!!!!!」
「変態上忍めが」
「さ、サクラさん…」
三者三様の反応をして、それぞれ2人に近づく。
途端に、サクラの身体から殺気が抜け落ちた。
その鬼神のごとき表情も元に戻る。
―――後で覚えてなさいよ!!!
―――はいはい。
カカシからサクラを引き剥がすナルトとサスケを、冗談交じりに交わしながら、2人は念話を交わした。
「ほらほら、早いとこ火影様に報告書出しに行くよ」
ぎゃーぎゃー騒ぐ3人を笑いながらカカシは促す。
「そんじゃ、またな。ヒナタ!!!」
「…今度な」
「それじゃあね」
カカシに背中押されながら、振り返っては挨拶をくれる3人にヒナタは微笑んだ。
手を振って、その4人の姿を見送る。
「それ、で。何か用?」
がらりと、本当に一瞬にして、ヒナタは纏う空気を変えた。
微笑を消して、日向ヒナタが絶対に浮かべそうにない、冷たい、全てを見下したような目。
わずかに風が吹けば、つい先程までは何もなかったその空間に、1人の少年が現れる。
「わざとだろ」
少年は、つまらなそうに、面倒臭そうに、指摘した。
何が。とは言わない。
「あら?なんのこと?」
「とぼけるな。…ったく、何でそんなにサクラのヤツをいじめるかね」
「いじめる?心外ね。可愛がってあげているのよ」
「嘘つけ」
くすくすとヒナタが笑う。
楽しそうに。
「だって。本当に可愛いんだもの。サクラ。分かりやすくって。本当、カカシもお気の毒だわ」
殺気丸出しのサクラにいっつもおろおろしている。
表面上では繕っているが、ヒナタには分かる。
サクラなんて感情むき出し。
自分に対して送りつけている殺気がばれているなんて想像もつかないだろう。
ナルトとサスケが取られるのが怖くてたまらない小さな子供。
自分の物であるのだと主張する狭量な子供。
自分の物であるナルトとサスケが、日向ヒナタと話すのが気に入らなくて気に入らなくて仕方がないのだろう。
まるで周りが見えていない。
「ねぇシカ。春姫様との任務はきていないのかしら?」
甘えるようにして、上目遣いで腕をとられた少年、シカマルは極力ヒナタを見ないようにして答える。
「お前…裏でまでサクラをいじめる気か?」
「嫌だシカ。そんなに人を疑わないで。私は貴方と一緒に居たいだけよ。春姫様との相棒、影皇様である貴方と、ね」
くすくすと、戯れるようにしてシカマルの胸に頭を乗せるヒナタに、シカマルは顔を顰めて大きく息をついた。
春姫はヒナタの正体を知らない。
相棒である影皇の正体も知りはしない。
春姫であるサクラは、自分の好きなものにしか興味がないから。
シカマルは、相棒として、春姫には同情を禁じえない。
暗部最強と謳われる春姫、影皇をはるかに超える力を持ちながら、ただの一新米暗部として全てを欺く閻箔に気に入られてしまったのだから。
まぁ、それはどうやら自分も同じのようだが…知っているか知らないかでは大分差があるだろう。
かといって、勝手に春姫に閻箔の正体を教えようものなら、影皇自身が閻箔に殺されかねない。
「頼むから、任務に支障をきたさない位にしといてくれよ…」
「本当に失礼ね。シカ、私にケンカを売りたいのかしら?」
「違うって…」
ああ。もう。
なんて面倒臭い。
この少女に気に入られてしまった時から、シカマルの平和な人生は狂いまくりだ。
「シカ、この私が、甘えているのよ?まさか、何もしないで帰るわけはないわよね?」
「………何が欲しいのでしょうかね?お姫様」
「お姫様は春姫でしょう?閻箔はお姫様なんて柄じゃないわ」
「それでも…俺にとっては姫様なんですよ」
そう。
全く持って面倒臭い事に、シカマルもこの少女を気に入ってしまったのだから。
「あら。じゃあサクラの皇子様はカカシかしら?」
ああ。なんて鈍いのでしょうか。
全くもって通じない想いが悲しくなる。
「シカ、お姫様はお昼を食べたいのですが?」
「……へいへい。お供いたしますよ」
「勿論、おごりよね」
「……うーっす」
そう言って、彼らは消えた。
木の葉の闇を背負う者達は今宵も任務を帯びて、暗闇を舞うのだ。
………春姫の、凶悪な唸り声をのせて。
2005年6月25日
スレサクとカカシとスレヒナとスレシカ。
カカサクとシカヒナ。
スレサクの暗部名は春姫です。
スレシカの暗部名は影皇。
でもヒナタは春姫と呼んだり、影皇と呼んだりします。