自己中な彼女。
「動くな!」
両手で構えた拳銃の銃口を目の前の男に向け、少女は叫んだ。
「動いたら撃つぞ!」
「まぁ、ちょっと落ち付けや、お嬢ちゃん」
銃を向けられている男は余裕しゃくしゃくだ。わざとらしく両手を肩まであげて、肩をすくめたりしている。
それもそのはず。
銃を構えている少女は15,6歳くらい。フリルがたくさんついたドレス、蜂蜜のような金髪。
まるでどこかのご令嬢のよう。
黒光りする銃は少女のフリルの間から出てきたが、少女の格好には全く合っていなかった。
パン。
いきなり銃口から弾が飛び出し、男の足下へと突き刺さった。
「うぉっ!?いきなり何するんだよ、お嬢ちゃん!」
「動いたから」
少女はなおも銃口を向けたまま、冷然と言い放った。
「私は『動くな』と言ったのよ。息をするのもおこがましい、下等生物めが」
パン、パン。
再び彼女の拳銃が火を吹いた。弾は男の服をかすめ、焼け焦げを作って後ろの壁にめりこむ。
「うぁっ!?俺、今動いていなかったじゃねぇか!!!」
「しゃべるのも『動く』うちに入るのよ、この下種。ついでに言うなら、息をした時点で打ち殺されても文句言えないのよ」
再び、銃が火を吹いた。
パン。
「今、息を止めてたのに!!」
「心臓が動いた」
2人のやりとりを他の人質たちが呆然と見ている。
銀行を包囲している警察も入り込めないでいる。
「ふっふっふ。私の目の前で銀行強盗なんてしようとするからこういう目にあうのよ」
本当に楽しそうにしている少女。
この時、彼は切実に願ったという。
…警察に捕まってもいいから。
………誰かこの女を止めてくれ。
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