恭子には、毎晩寝る前にトイレに行く習慣がある。
 小さい頃からの癖のようなもので、行かないとよく眠れないのだ。
 今日も、恭子は家族が皆寝静まった深夜にトイレに行った。



 用を足して、立ち上がろうとした時、恭子の前に1匹の虫が歩いてきた。
「ゴキブリ…?」
 その虫はぱっと見、ゴキブリのように見えた。
 家にゴキブリがいるなんてぞっとする。恭子はトイレットペーパーを厚めに手に取り、その虫を殺した。
「これ、どうしよう…」
 トイレの中のごみ箱は座ったまま手が届く場所にはなかった。投げてもいいが、失敗して中の虫がころがり出て来たりするのはいやだ。迷った末に、恭子はティッシュをトイレに流した。



 次の夜。
 恭子は今日も家族が寝静まった深夜、トイレに行った。
 いつものように用を足し、立ち上がろうとした時、またあの虫が現れた。
 今度は2匹。
「また…」
 恭子は2匹とも殺してちょっと迷った末、トイレに流した。



 次の日も、また次の日も、あの虫は出た。
 恭子はそのたびに殺してトイレに流した。もうためらいはなかった。
 そんなことが10日続いた夜。
 現れる虫は10匹になっていた。1匹1匹潰すのでは殺しきれなくなってきたので、恭子は薬局に殺虫剤を買いに行った。



 毎晩、鬼気迫る形相でトイレに殺虫剤をまく恭子を、家族は気味悪そうに見つめていた。
 それでも恭子は毎晩トイレに沸く虫を殺しつづけた。彼女の目にはすでに100匹以上の虫がうつっていた。



 殺虫剤でも虫を殺しきれなくなってきたので、恭子は薬局に今度は噴煙剤を買いに行った。
 虫が出てきた頃を見計らって、噴煙剤に火をつける。白い煙がもうもうと上がって、恭子の視界を埋め尽くす。

「いたっ!」

 トイレを出ようとした瞬間、足に鋭い痛みを感じて恭子は飛び上がった。見ると、何か鋭いものでも踏んだのだろうか、足から血が出ている。
 血の匂いにざわり、と噴煙剤で苦しんでいた虫達がざわめいた。じたばたと苦しみながらも恭子のところに、いや、恭子の血に集まってくる。

「いやぁ!」

 ぞわぞわと足にはい上がってきた虫を払いのけた時、チクリと痛みがはしった。虫が恭子を噛んだのだ。
 払いのけた手にも虫は張り付き、その牙を突き立ててくる。
 恭子はほとんど半狂乱になって虫を払いのけ続けた。悲鳴を上げていたはずだが、家族は誰も起きてこなかった。



 次の朝、恭子は家族にトイレで倒れているところを発見された。
 体中に小さい穴があり、血は一滴も残っていなかったという。




2005年10月2日

ちょっと、ホラーに挑戦♪とか思って書いたのですが…
意外にキモチワルイ…_| ̄|○

我慢して読んでくださりありがとうございました♪
またのご来店を…。