「うめぇ!うめぇよコレ!」
「そう…?」
「ちょっと味薄めだけど、そこがまたいい!」
「そう…」
複雑な表情で、彼女は嬉しそうに出された料理を平らげる夫を見つめた。
結婚してから3ヶ月。
それは自称グルメな夫との戦いの日々でもあった。
料理人でもある彼女の夫は、彼女が出す料理のことごとくに難癖をつけた。
やれ、味が薄い、食材を小さく切りすぎ、火の通りが甘い……。
正直、我慢の限界だった。
だから、腹いせにと今日の食材を買ってきたのだが…。
味はほとんどつけてない。
フライパンでさっと火を通しただけ。……缶詰めから出した状態ではまだ生だったから。
ちょっとした、いたずら心で起こした冗談のつもり、だったのだ。
まさかあんなに喜ばれるとは。
彼に認めてもらえることを目指してこの3ヶ月頑張ってきたのに。
……まさか実際喜んでもらえてこんなに困るとは。
これを、夫が喜んで食べているこれを自分も一緒に食べるなんてことはできない。絶対できない。
ていうか、したくない。
どうしよう…。
弱りきって、彼女は台所に置いてある猫の絵が描かれた缶詰を見つめた。
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