「早く！早く！」 「おいおい、ちょっと待てよ…」 訳も分からず俺は彼女にひっぱられていく。 サンタ一家 コトの始まりは１通のメールだった。 ”ねぇ、今ヒマ？” クリスマスイブだってのに、彼女もいない俺は家でなにをすることもなく、ごろごろしていた。 そんなときに、こんなメール。 しかも、相手は俺の片思いの相手、内橋宮美。 俺の返事は決まっていた。 ”もちろん、ヒマ！なにかあったの？” もしかしたらデートのお誘いだろうか。そんな都合のいいコトを考えながら返事を待つ。 ”本当！？よかった〜、ちょっとお願いがあるの。駅前まで来てくれない？” もしかして、本当にデートのお誘いだろうか！？ 期待に胸ふくらんだ俺は超特急で服を着替え、駅前まで走っていった。 そして冒頭に戻る。 駅前で内橋と会った俺は、半強制的に彼女の家までひっぱられていった。 「ただいま〜！」 ここが内橋の家かぁ。 なんだか、あがるのがためらわれた俺は、家に駆け込んでいった内橋を玄関で待った。 奥の方から、内橋の母と思われる女性が出てくる。 「あら、おかえり宮美。手伝ってくれるって？」 「あ…」 内橋がしまったというように口に手を当てた。そりゃそうだ、俺は彼女から何の説明も受けてない。 「しょうがない子ねぇ。まぁ、立ち話もなんだし、上がって？」 「はぁ、お邪魔します…」 内橋のお母さんの言葉に甘えて、俺は家に上がらせてもらった。 「うちはね、代々サンタをやってるのよ」 「はぁ！？」 出されたお茶を含んだとたんに言われたその台詞に、俺はふきだしそうになった。 かなり苦労してお茶を飲み込む。 その様子に笑いながら内橋は言った。 「正確には、ボランティアで幼稚園やら老人ホームやらにサンタの格好をして行ってるのよ」 ああ、なるほど。そういうわけか。 「おじいちゃんとかおばあちゃんとかもやってるのよ」 内橋のお母さんが付け足す。 「でも今年はお父さんが風邪ひいて寝込んじゃってね…荷物もちがいないの。お願い、大積くん。手伝って！」 手を顔の前で合わせて内橋が頼みこむ。むっちゃかわいい。 好きな子に頼まれて断れる男はいないだろう？それに、今日は大した用事もないし。 一緒に居られるのは結構うれしい。どんな理由でも。 「いいよ、俺でよかったら」 「ありがとう！」 内橋がぱっと笑顔になった。うん、その笑顔を見れただけでも引き受けてよかったと思う。 「じゃぁ早速準備しなきゃ！実は時間がないのよ」 「衣装、あったかしら？」 「お父さんのでよくない？」 渡された衣装を着込んでみる。内橋親子に見せると、満足げに頷かれた。 「あら、ぴったり」 「よく似合ってるよ、大積くん」 …うれしいような、うれしくないような。サンタの衣装が良く似合うって、複雑だなぁ。 準備が終わり、内橋のお母さんが運転する車に乗り込む。俺と内橋と内橋のお母さんは保育園へ。 内橋のおじいさんとおばあさんは老人ホームに向かうそうだ。４〜５箇所回るらしい。 毎年、こんなことをしてんだなぁ。結構タフな家族だ。 保育園に着くと、先生たちに出迎えられた。 園児が集まっている部屋に案内される。 すたすた歩いていく内橋親子を俺は、お菓子を入れた結構重い布袋を持って付いて行く。 部屋に一歩入ると園児たちの歓声に出迎えられた。 内橋親子が挨拶をして、プレゼントを配り始める。 みんながみんな、幸せそうな笑顔をしている。なんか、こういうのもいいもんだな。 ほのぼのしていると、女の子が１人、こちらへ向かってきた。 「お姉ちゃんとお兄ちゃん、もしかして恋人どうし〜？」 えっ… 無邪気な質問に俺の思考が止まる。 どうしたらいいんだ。恋人同士じゃないけど、ちょっとうれしいし、子供の夢を壊すのもなんだ。けど、嘘をつくのも… 逡巡しておたおたしていると、内橋が寄ってきて女の子に言った。 「そうなのよ〜。この人、お姉ちゃんの彼氏なの。手伝ってもらってるんだ〜」 「いっ！？」 叫びそうになった俺の足を内橋がかかとで踏む。痛い。 痛みに顔をしかめた俺に、彼女がささやいた。 「恋人同士ってほうが子供の夢壊さないですむでしょ。うちは代々サンタやってるんだから。話、合わせといてっ！」 「お、おう…」 俺の返事に内橋は満足げに頷き、何事もなかったかのように子供たちのところへと向かう。 耳が赤い。照れてんのか…？ 俺は嬉しいけど。内橋は俺と恋人同士にされてどう思ってるんだろう…？ 「メリークリスマス！」 カチンとグラスがぶつかる音が何度もする。 サンタ業（言い得て妙だ）が終わったあと、俺は内橋の夕食にお邪魔していた。 内橋の家はサンタの後、いつもパーティーらしい。 俺の隣の席で内橋は楽しそうに笑っている。 来年は内橋の本当の彼氏として内橋一家のサンタ業に参加したいな。 自然とそう思えてなんだか恥ずかしい気分になる。 はてさて、問題はこの偽りの恋人をどうやって本物にするか、だよな…？ |
２００５年１２月３日 最後の一文のためだけに考えたお話。 前に「怪盗家族」という小説を読んだ事があって、 一家全員で何かするのっておもしろいなぁ、と思って書きました。 最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪ |
