ワシは神じゃ。

 ここらへん一帯をふる〜くから治めとる、それはもう徳の高〜い神なのじゃ。
 正月とかにはワシの神社に詣でる人が列をつくるほどじゃ。
 だから、師走の終わりは正月の準備でおおわらわじゃ。
 それなのにあやつめ、毎年この忙しい時期に自分の仕事をワシに押し付けよって……




神様の副業




「今年もお願いしますよ、おじいさん」

 そう言って今年もやってきたヤツは、ワシに白くて大きな布袋を渡した。

「自分もじじいじゃろうに、ワシをじじい呼ばわりするな」

 不機嫌そうにフンと鼻をならして受け取ると、ヤツは赤ら顔をくしゃくしゃにして笑った。

「ほぉっほぉっほぉっう。見た目が同じじじいでも、あなたの方が年上ではありませんか。それにあなたは、私に名前を教えてくれないではないですか」
「当たり前じゃ。徳の高〜い神がそう簡単に名を教えるものか」
「神社の案内板に書いてある名前でも私は良いのですが…」
「あんな名前で呼んでも返をせぬぞ」

 源義経なんてありふれた名で呼ばれてたまるか。
 ぴしゃりと言ってやると、奴め、大笑いしおった。ヤツのこういうところがワシは好かん。
 ひとしきり大笑いすると、ヤツは鹿のような生き物が引く、ソリとかゆーものに乗り込んだ。

「それでは、今年もよろしくお願いしますよ、おじいさん。あ、衣装ちゃんと着てくださいね。見えないからって手を抜いちゃダメですよ」

 布袋のなかに入れられている、ワシ専用に仕立てられた派手な服を指さして楽しそうに笑う。
 この仕事の何がいやかって、このじじいと同じ衣装を着なけきゃいかんことじゃ。こーゆーのを世間じゃ『ぺあるっく』と言うんじゃろ?

「分かっとるわい、そんなこと。それより、終わったらちゃんと例のアレを持ってくるんだぞい」
 ちっ。言われなければコレを着ないで仕事しようと思ってたのにのぅ。




 『くりすます』当日。

 ワシはヤツから渡された真っ赤な服を着込み、白い布袋を持ってでかけた。
 ぴかぴかランプが光ってて、人が多いところは避け、ひとりぼっちの人間を探す。
 それがワシの仕事じゃ。

 お、いたいた。
 海沿いの公園で寒そうにしながら立っている女を発見。
 おしゃれをしているところをみると、『でぇと』かのう。すっぽかされたようじゃが。
 ワシは布袋の中に手を突っ込み、なかから小さい光の粒を取り出した。

 投げつける。
 光の粒はふよふよと飛んで、女の鞄の中に入り込んだ。

 ピロリロリン♪

 突然、女の携帯が鳴り出した。女がふて腐れた顔をして電話に出る。

「あ、ナオト?いったいどうしたのよ、30分も待ってるんだよ!」

 待ちぼうけをくわされた相手からだったのだろう、女が怒り出した。
 ワシは少々心配になってきた。うまくいくはずなのじゃが…

「え?これから?行く!絶対行く!」

 相手の男が何か言ったのじゃろう、女の表情が輝きだした。

「うん、ぜったいだよ!それじゃぁ今から行くからね!」

 女は電話を切ると、それまでとは打って変わって幸せそうな顔で歩き出す。
 …ふむ、うまくいったようじゃのう。どうなる事かと思ったが、よかったよかった。




 この白い布袋には、小さな『幸運』が詰まっておる。

 クリスマスの日に不幸せな人間にこれを投げてやるのが、ヤツから頼まれている仕事なのじゃ。
 クリスマスの日に不幸な人間がいることが許せないんじゃと。ヤツも物好きなやつじゃ。

 この小さな『幸運』は投げられた人間に小さなシアワセを与える。
 ときにはたくさん集まって雪を降らすこともある。
 一度にたくさん放すとそうなることが多いから、ワシは『幸運』があまった時には空に放すことにしておる。
 雪にまじってきらきら光る『幸運』が降ってくる様は綺麗でのう。ワシはこの仕事を引き受けてよかったと思うんじゃ。

 …さて、と。だいたいくばり終わったようじゃな。
 明日にはヤツから今夜のお礼が届くはずじゃ。
 あの『けぇき』とやらが欲しくてワシもヤツの手伝いをしておる。ワシも物好きなやつじゃな。
 さぁ、早く帰って風呂に入ろう。今夜は冷えるのぅ。




2005年12月3日

サンタさんがいくら超人でも、世界中にプレゼントを配るのは無理だろう…
誰かに手伝ってもらっているに違いない!ということで考えてみました(笑)
相方のオリキャラも出てくる予定だったのですが、ちょっと長くなりそうだったので省略。
機会があったら、相方のオリキャラも出してあげたいな〜、とか思ってますw

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪