はじまりのはじまり
小さな村の小さな神社。
その境内で、5歳くらいの小さな小さな女の子が遊んでいた。 社の階段のところでは、女の子のおばあちゃんが暖かな春の日差しに誘われて、こっくりこっくりと船をこいでいる。
とても静かで、おだやかな光景。
ふと、女の子が池の方へと駆け出した。 涼しげに泳いでいる鯉に手を伸ばして嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐ。
……と、その体がぐらりと傾いた。
「おっと、危ない」
池に落ちそうになったその小さな体を引き戻したのは小さな少年。 袴を着て、長く伸ばした白い髪を後ろでひとつに結わえている。 年のころは6、7歳といったところだろうか。
どこからともなく現れたその少年は、女の子をきちんと立たせると「めっ」と厳しい表情をして注意した。
「ダメだよ。まだ春先で水が冷たい。こんな水に落ちたりしたら風邪をひく」
注意された女の子は、ぷうっと頬を膨らませた。
「だって、一人でつまんないんだもん。おばあちゃん寝ちゃってるし」
お兄ちゃん一緒に遊んでくれる?と女の子にお願いされた少年は苦笑いしてうなづいた。
「…いいよ。日が暮れるまでね」
楽しい時間はあっというまに過ぎていき。 傾きかけた太陽で、世界が真っ赤に染まるころ。
少年は女の子の前に膝をつき、視線をあわせて微笑んだ。
「今日は楽しかった?」
「うん、とっても!また遊んでくれる?」
女の子の言葉に少年はしばし考え、そして言った。
「きみが僕のお願いをきいてくれたら毎日だって遊んであげるよ」
女の子は首をかしげた。
「お願い、なぁに?」
「僕の、巫女になってくれる?」
「あたしが?」 「そうだよ。きみがいいんだ」 「みこってなぁに?」 「巫女っていうのは神様に仕える女の人のことだよ。ずっと僕と一緒にいてくれる人のこと」 「ずっと一緒にいるの?」 「そう。ずっと、僕と」 「それって、なんだかママがこの前言ってた『ケッコン』みたいね」
小首をかしげてそう言った女の子に、少年は何度か軽く頷きました。
「そう思ってくれてもかまわないよ。僕と結婚してくれる?」 「でも、ママはまだ早いって言ってたよ」 「大きくなってからでもいいから、僕のお嫁さんになって?」
熱心な少年の言葉に、女の子はうーん、とうなりました。
「……ほんとにまた遊んでくれる?」
「もちろん」
「じゃあ、みおがおっきくなったらお兄ちゃんとケッコンしたげる!!」
女の子の言葉に、少年の表情がぱっと輝きました。
「本当だね?約束だよ」 「うん、約束!」
笑いあって2人はゆびきりを交わしました。
それはちょっと昔の、最初のはじまり。
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