〜祭りのその後〜





 それは1年に1度の神聖な祭り。
 1年に1度、巫女はその神聖な舞を神にささげる。



「今年も素晴らしい舞でしたわ」
「わたしゃ、この舞をみることが楽しみでねぇ…。今年も見れて良かったよ」
「おねーちゃん、きれいだったよ!」

 ここは小さな村の小さな神社。

 うつくしい舞を村人達に披露した巫女の少女は、村人達の賛辞に照れたように笑った。
「皆さんのおかげで、今年もとどこおりなく祭りが終わりました。ありがとうございます」

 がやがやと一団になって神社の出口までたどり着いた村人達は、別れの挨拶をしてそれぞれの家の方向へと散っていく。

「お気をつけて」

 村人達を神社の外まで見送った巫女は、彼らが道を曲がって見えなくなると静かに踵を返した。
 今までの活気が嘘のように静まりかえった神社の本堂に足を向ける。
 誰も見ていないことを確認すると中に入り、音が漏れないように扉をきっちりと閉めた。
 すぅ、と大きく息を吸う。

「この、アホハクヤーー!!」

「呼んだ?美緒」

 少女の背後、何もない空間からにじみ出るように、少年――ハクヤが姿を現した。
 赤い目が印象的な少年は、少女――美緒に近づき、後ろから抱きしめようと腰に手をまわした。美緒はその手を思いっきりつまみあげる。

「この、アホハクヤ!人が一生懸命舞ってるときに、姿を消してぺたぺたべたべたちょっかい出してきやがって…!気が散るだろうが!!舞の間は触るなとあれほど…!」

「いたいいたい!ごめんあやまるから許して」

「もうやらないな!?」

 念を押して、渋々と言った様子で手をはなす。と、ハクヤは美緒がそれ以上抵抗できないように、腕ごと抱きしめてささやいた。

「やめないよ」

 抱きしめる腕の強さにぼうっとしていた美緒はその言葉にはっと我に返る。

「なんだと!?」

 あばれはじめた腕の中の身体をますます強く抱きしめて、赤い瞳の少年神はニヤリと笑った。

「美緒が舞ったのはこの神社の神のための舞。つまりは、僕のための舞。僕のためのものなら、僕がどうしたっていいだろう?」

 かなり強引な論理に、美緒は一瞬反応できずに呆けた。
 反論しない少女の耳元にさらに口を近づけて、ハクヤはささやく。

「巫女だって、神のための人、ということなんだよ。つまり、美緒は僕のもの。美緒だって自分から巫女になるって言ってくれたんだもんね?両思いでうれしいな。」

「そ、そんなわけあるかー!!」

 真っ赤になった美緒は、ハクヤの腕から逃れようと再び暴れ始めた。そんな彼女を見つめてハクヤは悲しげに目をふせる。

「美緒が僕を好きなことは知ってるよ。とても照れ屋さんなことも。だから、その言葉が嘘だと分かっているんだけど……傷ついた」

「あ…ごめ…」

 しょげた様子に美緒はうろたえた。あんまりはっきり言い過ぎただろうか。

「美緒…僕のこと好き?」

「う…うん…」

「ちゃんと言って。好き?」

「す…」

「す?」

「言えるかーー!!」

 うがあっと美緒はほえた。ほえてしまってからはっとする。しまった、またしょげるだろうか。
 美緒の予想とは裏腹に、ハクヤはニヤリと笑った。

「人間、素直が一番だよね。美緒が素直な人間になれるように、これからつきっきりで特訓してあげるよ。素直になるまで離さないからね」

「やめろー!!」

 あばれる美緒を荷物のように肩にかつぎ、ハクヤは晴れやかに笑った。



2005年6月3日

ふたたび挑戦してみました恋愛もの。
策士な神様とその神様の巫女さんの話です。
砂がとめどなく流れて止まりません…

読んでいただき、ありがとうございました♪