風邪引きさんと隣の人
*「おはよう…ございます」




 家がお隣のその男の子とは、当たり前のように幼稚園が一緒だった。
 そして、どういうわけだかクラスまで一緒だった。
 そんでもって、隣の男の子が道を覚えるまで行き帰りを一緒にすることを母さんに厳命された私は朝、嫌々ながらも隣の家の呼び鈴を押していた。

「おはよう…ございます」
 私も通っている幼稚園の制服を着ておずおずと顔を出した男の子は、うつむきかげんに私を見上げて言った。
「昨日は…ごめんなさい」
 事前に言っておくが、私は握手の手を払いのけられたことを怒っていたわけでも、彼を嫌いだった訳でもない。
 ただ、気弱そうな彼の表情を見た瞬間、この言葉が口をついて出ただけなのだ。
「…許してあげなくもないけど。あんた今日から私の下僕だからね!」

 この瞬間、私と彼の力関係は決定したと言ってもいい。




2009年6月

はちみつトースト:http://honey0toast.web.fc2.com/さまから
『お隣さん』5題をお借りしましたv