風邪引きさんと隣の人
*気になる隣人事情
お隣の家族は、一人息子の直樹が可愛くないのだろうか。
そんな疑問を持ったのが、私が小学校の低学年くらいの頃だろうか。
今思えば、なんでそんな年まで気付かなかったのかと思うほどだ。だが、それだけ家族で慎重に隠していたということだろう。
まず、触らない。
息子にべたべた触りまくる両親というのもそれはそれで問題アリだが、全く触ろうともしない、手が軽く触れ合っただけでも急いで手を引っ込めるというのは明らかに異常だろう。
そして、直樹が家族の団欒に全くといっていいほど参加しようとしないこと。
食事の後にリビングに集まってテレビを見ながらゆっくりする、なんてことは全くなく。ひどいときには彼一人で夕食を食べていたりする。
ともかく、一回疑問に思ってしまえば後は早かった。
そして、思い立ったら即実行、な私は無神経なことにその疑問をそのまんま直樹にぶつけてしまったのだ。
「ねぇ、あんた親とケンカでもしたの?」
直樹の部屋に上がりこんで開口一番、そうのたまった私を彼は困ったようなでも嬉しいような、変な笑顔で出迎えた。
「別に…ケンカなんかしてないよ」
「じゃあなんで」
「うーん…」
唸って考え込んだ彼を黙って見つめていると、しばらくして彼はいきなり私の手を掴んできた。
「僕ね、人の考えていることが分かるんだ。君の考えてることも、分かるよ。……気持ち悪い?」
「べつに。ぜんぜん」
今でも、ここで即答できた私を褒めてあげたいと思う。
だって直樹が、涙ぐむほど嬉しかったみたいだから。
2009年6月
はちみつトースト:http://honey0toast.web.fc2.com/さまから
『お隣さん』5題をお借りしましたv