風邪引きさんと隣の人
*一番近い他人。
高校に入ってから、私とお隣さんの関係は少し変わった。
今日は、2人で映画を見に行く約束。
いつもよりちょっとおしゃれをして、薄く化粧もして、駅前の噴水で待ち合わせ。
家が隣同士なのに、家に迎えに来たり来られたりしないのは、私のわがままだ。家族には、もうすっかりバレているとは思うけれど。
「ごめん、ちょっと遅れた」
映画の開始時間ギリギリになって、やってきた直樹の手をひっぱって急いで映画館へ。席につくと、もう予告が始まっていた。
「ぎりぎりだったな」
「そうだね」
言って、直樹は私の手を握ってきた。
どうしたんだいきなり、と思っていると耳元で。
「いつもよりおしゃれしてきてくれたんだね。かわいいよ」
「!!」
思わず横目で睨むと、直樹は非常に楽しそうに笑っていた。
暗い映画館のおかげで、真っ赤になった頬には気付かれていないだろうけれど、あいにく手を握られている。
やられた、と思った私は彼の手をぎゅっと握り返してこっちから思いを流し込んでやった。
―――直樹、好きだよ。
「!!」
間違いなく真っ赤になったであろう彼にむかって舌を出す。
―――仕返しだ、ばーか。
そのまま、何か言いたげな直樹を無視してスクリーンへ視線をもどす。
こっちから仕掛けた『仕返し』は、私にも少なくないダメージを与えていた。
そんな感じで、私とお隣さんの日常は過ぎていく。
2009年6月
はちみつトースト:http://honey0toast.web.fc2.com/さまから
『お隣さん』5題をお借りしましたv
読んでいただきありがとうございました!