瑞月の師匠の1日は、まず毛繕いから始まる。
 尻尾の先まできれいにしたあと、師匠よりも起きるのが遅い弟子を起こしにかかる。

「起きろ。朝だぞ」
「う〜、おはようございます師匠…」

 唸りながら起きてくる弟子が顔を洗い、朝食の支度を始めるのを見届けてから朝の散歩へ。しっかり起きたのを確認しないと、この弟子はまたベッドに逆戻りしてしまう。

 森の中、まだ朝露が残る小道をしばらく行くと、小さな湖があった。
 湖の周りを一周して、水を飲みにきている動物達に異常がないか確かめてから家へ戻る。
 家では既に瑞月が朝食の支度を終えて待っていた。

「いただきます」
「うむ、いただきます」

 向かい合って朝食を食べる。
 猫である師匠は、机には乗らず椅子に座って両前足を机について食べる。
 多少、つらい格好ではあるが、師匠にだってプライドというものはある。ナイフもフォークも使えないなりに体面を保っているつもりなのだ。
 瑞月の師匠は猫らしくない猫である。





 朝食の後は、瑞月の修行。
 彼女は、普通の薬の調合ならば一人前と言えなくもないレベルになってきたが、魔力をこめた魔法薬の調合となるとめっきりなのが師匠の悩みの種である。

「瑞月!そこ分量違う!!」
「は、はひっ!?」

 ちなみに、今日の調合も失敗だった。
 薬自体の出来は悪くないのだが、効果がうすかったり、違う効果が出てきたりするのである。
 つきっきりで材料も手順もチェックしていたから問題はないはずなのに。

「やはり、やる気……か?」

 魔力の流れ方がうまくできないのか、それとも流れる力自体が少ないのか。

「能力はあるはずなのだが…」





 瑞月の修行の後、失敗の原因を考えながら午後の散歩。 
 日が暮れる前に家へ戻り、仮眠をとることにする。

 要するに昼寝だ。

 日当たりがいい玄関先でうとうとしていると、郵便屋の少年がやってきた。
 街で嫌われている魔女に懸想している、物好きなヤツだ。
 優しげな外見と優柔不断な態度とは裏腹に、瑞月にあからさまなアプローチを仕掛けているが、瑞月は想いを寄せられていることに気付いていないようだ。が、時間の問題だと彼女の師匠は思う。
 今日も瑞月の素っ気無い対応にめげることなく手紙を運ぶ。
 …と、師匠の前を通り過ぎようとした少年の呟いた。

「猫はいいなあ、気楽そうで」

 何かあったのか少年よ、しかし私だって結構忙しいんだぞ。と、心の中だけで思っておく。
 師匠は基本、人前では喋らないのだ。
 心なしか、肩を落として立ち去る郵便屋の少年に哀れみの視線を投げかけてから、師匠は伸びをして立ち上がった。
 少年が手紙と一緒に運んできた小包は、きっと注文していた魔術書だろう。
 軽い足取りで家へ帰る黒猫の師匠は、この後夜が更けるまで書物を読んで過ごすのだ。
2008年11月2日

師匠目線で語ってもらいました。飼い猫(師匠)は見た!みたいな感じで(笑)
猫だって大変なんだろうけど、人間から見たらいつも昼寝ばっかりしてて楽そうだなぁと思う訳です。