「あああっ!もう!むかつくー!!」
夕日に向かってあたしは叫んだ。
「ぜったいぜーったい!復讐してやるんだから!」
「てゆーかそれ、逆恨みだろ」
夕日に向かうあたしの背後で、くだらないと呟きながら師匠が大きなあくびをした。
あたしは魔女の見習いの、瑞月。
あたしの後ろで毛繕いとかしちゃってる黒猫が、あたしの師匠。
あ、なんで師匠が黒猫かっていうのは追及しちゃだめよ?トップシークレットなんだから。
んでまぁ、人嫌いで人前に出たくない師匠のために、弟子のあたしは森の中に住んじゃったりしてるのです。
おかげで恐ろしい魔女が森に住んでるってことで街の人たちは森に寄り付きもしないわよ。
でもまぁ、健全で文明的な暮らしをするためには他人との交流は不可欠。
森に引きこもっちゃってるあたしと、森の魔女を恐れてる街の人々との架け橋的な存在…。それが、今回のあたしの復讐の相手、郵便屋さんなのです。
「だってあいつ、あたしが作ったケーキを食べたあげく、あたしのほっぺにちゅ…ちゅうとかしやがったのよ!?」
押しが弱くて自信がなくていっつもおどおどしてる郵便屋さんのくせに生意気な!!
それにそれに、乙女の純潔(ちょっと違うけど)を踏みにじった罪は重いんだから!
しかもその後、街の女の子達にも同じようなことしたらしいじゃない!
「ケーキを食べさせたのはお前だろう」
そんなことも忘れたか?と言いたげな眼をした師匠があたしの足元で、後ろ足であごをかいた。
のみでもいるのかしら。
「そのケーキに惚れ薬を仕込んでたのもお前。……惚れ薬は失敗作だったようだが」
そしてその薬の所為だろう。街の女の子にも同じことをしていたのは。
「ぐっ……そ、そうだったかもしれないけど!でもあいつ、あたしの顔見て鼻で笑いやがったのよ!?」
「俺にはそうは見えなかったが」
鼻で笑ってたか?ただ笑っただけに見えたがな、と呟く師匠。
そ、そりゃちょっと優しげな微笑にも見えなくもなかったような気もしないでもないけど!
でもでも、あの目は絶対に面白がってた!
「師匠は台所からだったからよく見えなかっただけよ!」
そう、アレは目の前でやられたあたしだけに分かる笑い方だったに違いない!
なんて嫌なやつ!
他の人に分からないように嫌がらせができるだなんて、嫌がらせの常習犯に違いない!
きっと、あたし以外にも奴の犠牲者はいるはず。
「ここはあたしが成敗してやるしかないようね!」
奴の嫌がらせの犠牲者を代表して、鉄槌をくだしてやる!
決意に拳を固めていると、毛繕いを終えた師匠が立ち上がった。
「勝手にしろ」
言い置いて立ち去る師匠を見送りながら、あたしは孤独な戦いにますます闘志を燃やしたのだった。
師匠の協力がなくたって、絶対に諦めないんだからね!
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