「ししょう〜」

「ししょう〜……」

「邪魔をするな」

 不機嫌な師匠にぴしゃり、そう言われてつまらなそうに瑞月は床に座り込んで上を見た。
 視線の先には書き物机の上に座って読書中の黒猫。
 瑞月の声に耳はピクリと動くけれど、視線は本から動かない。

「かまってくださいよ、師匠〜」

 怒られるのが怖くて読書を邪魔する勇気もない彼女は、床の上でうずくまる。
 机から垂れてゆらゆら揺れているしっぽを眺めながら目を閉じて………。



「…づき!瑞月!!」

 いつの間にか眠っていたらしい。
 師匠の声に、はっ、と目を開けると目の前に師匠の金色の目があって、瑞月は思わずそれを抱きしめていた。

「おい。寝るんだったらベッドで…」
「師匠、寝ましょう!」

 呆れまじりのその台詞を遮るように、師匠を抱き上げて立ち上がる。

「え、おいこら、まだ読んでる途中」「いいから!」

 逃げないようにしっかり抱きかかえたままベッドに座って「…せめて眠るまで」と瑞月は呟いた。
 今はともかく、温もりを抱えて眠りたかった。
 でも、師匠にそれを求めるのも申し訳なくて、俯いていると、抱きかかえている黒猫は深いため息をついた。

「まだ子供だな」

 するり、と瑞月の腕の中から抜け出してベッドの上に乗った黒猫は、枕を前足でぽんぽん叩きながら「早く寝ろ」とそう言った。
 嬉しくなった彼女は急いで布団の中へもぐりこむ。
 そうして、なんのかんの文句を言いながらも瑞月が眠るまでそばにいてくれた師匠のおかげで、彼女は朝までぐっすりと眠ったという。