2008年6月〜12月分
真夜中シリーズの過去拍手部屋。

6月 仙人と吸血鬼 マヨネーズ
7月 吸血鬼たちの会話
8月 仙人と吸血鬼 オリンピックその1
8月 仙人と吸血鬼 オリンピックその2
9月 吸血鬼と仙人と小夜 アニメ
9月 仙人と吸血鬼 十五夜
11月 仙人と吸血鬼 くしゃみ
12月 仙人と吸血鬼 ギガプリン
6月 仙人と吸血鬼 マヨネーズ



「裁判長!被告はマヨネーズのキャップを付け替えることで賞味期限を偽り、この僕のお腹を壊しました!よって無期懲役を求刑します!!」

「被告が犯人だという確たる証拠がない!無罪だ!
 ……てーかなんで、分離してあきらかに色悪くて異臭放ってるのに食ったんだよ」

「うっさい!だってサラダにマヨネーズかけて食べたかったんだもん!新しいマヨネーズ用意してなかったお前が悪い!!」

 叫んだ仙人のお腹がぐぎゅるるる、と派手な音をさせた。
 静かになったあっち側で、仙人が何をやってるかなんて、見たくもない。

「岩食ったって平気な顔してるやつがなんでマヨネーズごときで……」

 ウルスはトイレのドアにもたれてため息をついた。



トイレの中と外での口喧嘩。
7月
 吸血鬼たちの会話



「献血センターで集められた血液は、検査センターで検査され、規格外品は焼却処分される。
 ……ここで扱っているのは、そんな規格外品ばかりだ」

「……だから何だって言うんだよ」

 グラスに注がれた赤い液体をちびちびと飲んでいた青年がじろり、とマスターを睨むと、睨まれたほうはまだ分からないのか、とため息をついた。

「だから幼女の血なんてものはここにはない。…献血は18歳以上からだからな」

「そ、そんな……!!」

 がーん、と口で言って固まったそのホスト風の青年に、マスターは追加を注いでやった。

 45歳、男性、O型の血液を。
8月
 仙人と吸血鬼 オリンピックその1



「オリンピックだーーーーー!!!!」
「オリンピックだ!!!!!!!」
「北京だーーーーー!!!!!!」
「北京ダックだ!!!」
「それ絶対違う!!」
「何気にお前と初めて会った場所だー!」
「あーそー言えばなんかそーいうこともあった気がするーーー!!!!!」
「あったよなーーっつかいつだあれーーーー!!!」
「軽く何百年か昔の筈ーーーー!!」
「中国5000年の歴史のどの時代だーーーー!」
「国が沢山あったころーーーーー!!!!」
「それ範囲広すぎだろ!!!!!」

 ぜいぜいぜいぜいぜい。

「……っつか、何で俺達こんな叫んで会話してんだよ…」
「…えー…、ノリじゃないのー? オリンピックばんざーいみたいなさー」
「……なんでもいいから、いい加減止めるぞ、喉が嗄れる」
「だねー、さすがの僕の肺活量にも限界があるよ」

 ようやくどうにかこうにか整ってきた呼吸で、人外2人組はテレビへと向き直った。
8月
 仙人と吸血鬼 オリンピックその2



「よし、北京に行こう」

 吸血鬼は言った。

「うん。いいね。僕も今それを思っていたところさ」

 テレビに釘付け仙人言った。

「やっぱこう、生は迫力が違うからな」
「そうそう、フルハイビジョン65インチ程度じゃ物足りない!」
「だよな。まぁ、10分で着くだろ!!!!」
「チケットどうするか」
「あーチケット! うん、チケット! 会社の力で押し切る! 金に物を言わせる!」
「うんまぁお前言ってる事無茶苦茶っつか、ハイテンション過ぎて周り見えてねぇだろ」
「なんとかなるなる早速出て来いきんとーーーーうん!!!!!」
「…お前伸ばすところ絶対間違ってるわ」

 あきれ返って呟いて、仙人の呼びかけに応えてどこからともなくやってきた、雲の形をした乗り物に、吸血鬼は勝手に乗りこむ。

「置いてくぞー」

 一分一秒も見逃せんと言わんばかりにテレビを見る仙人に呼びかけて、吸血鬼はそわそわと笑った。
 結局ハイテンション極まりないのは仙人も吸血鬼も変わりなかったので。
 丁度テレビがCMになった瞬間に仙人は雲に乗り込んで、そうしてこうして意気揚々とオリンピック会場へと足を踏み入れる2人の姿が北京で目撃されたのだった。
9月
 吸血鬼と仙人と小夜 アニメ



「ちょ、今!!!! ちょっっ!!!! い、いやぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「女みたいな声で叫ぶな!!!」
「だ、今!!! 今!!!!!」
「うるさい!」
「うるさいな!!! 分かってるだろう!」
「分かっているさ、今、このクサレ外道が、罪を犯したという事くらいな!」


「「美女を殺すなんて世界の損失だ!!! しかも2人も!!!!!!!!」」



 やたらと騒がしい男2人組を尻目に、ぱりぽりとポテチをつまみながら小夜は呟いた。

「何でアニメに対してそんなに大げさに騒げるんだか……」

 テレビの中ではまだ戦いは続いていて、もう1人人間が死んだが、男でしかもナイスミドルな年頃だったせいか、仙人と吸血鬼が気にする事はなく、彼らは延々と美女の死を嘆き続けるのであった。
9月
 仙人と吸血鬼 十五夜



「9月だよ、吸血鬼のウルス君!」

「だからどうしたってんだよ、仙人君」

「14日は十五夜だよ!14日なのに十五夜だよ!!」

「確かに、14日で十五夜だが、それがどうした」

「お月見しようぜ!!」

「結局それか」

「去年か一昨年は屋上でしたんだったよね!」

「お前がススキにコンクリート突き破らせたせいで苦情の嵐だったがな」

「今年は何しようか!?とりあえずウルス君、お団子よろしく!」

「作るのは別にいいけどよー」

「より月に近いところでみたいよねー。ロケットでも打ち上げようか!」

「おっ!いいなそれ」

「じゃあそれで決定!お団子作っておいてね!ちょっとこれからロケット盗ってくるから〜」

「おう。いってらー」

 数日後、N○SAから開発中のロケットが盗まれたというニュースが世界中を駆け巡ったという。



 そして十五夜の夜、東京近郊から宇宙へ飛び立っていくロケットが複数の人間に目撃されたとか、しないとか……。
11月
 仙人と吸血鬼 くしゃみ



「へっくしゅ」

「…1回は悪い噂、2回は良い噂、3回目は風邪なんだと」

「なんだそれ」

「くしゃみをすると誰かに噂されてるって言うだろ?それの中身。1回は悪い噂、2回は良い噂」

「……てことは今僕は悪い噂をされたってこと?」

「そういうことだ。まぁおまえは良い噂されるなんてことなさそうだけど」

「そー言われるとなんか意地でも2回くしゃみしたくなったんだけど!」

「ティッシュでこよりをつくってくしゃみ、はなんか反則っぽいぞ」

「う〜、じゃぁ『しゃっくりが止まらなくなる呪い』をアレンジして『くしゃみが止まらなくなる呪い』を作ってやる!」

「…それ、やめたほうがいいんじゃないか?」

「僕に不可能はない!こんなの朝飯前だ、見てろよ!」

「可能不可能の問題じゃないんだがな……」

 その日1日中、彼の部屋からは少年の止まらないくしゃみが聞こえたという。
12月
 仙人と吸血鬼 ギガプリン



「ついに手に入れました、ギガプリン!」
「おー。これが噂の」
「そういうわけだから、今日のデザートは僕が作る!」
「……どんなのができるのか、楽しみだな」
「だろー?さーて、粉を水と混ぜてー。よーくかきまぜてー」
「………粉?」
 プリンの材料に粉と水だけ、なんてない。
「卵は?牛乳は?」
「容器に入れて、冷蔵庫へ〜」
「無視かよ」
 仙人は自分の顔よりも大きい容器を抱えて、冷蔵庫へ向かった。
「はいるか?」
「いれる!」
 無理やり押し込もうとする仙人を制して、ウルスは冷蔵庫の場所を空けてやった。
「こっちの茶色い粉はお湯と混ぜてー」
「カラメルか」
 かき混ぜるボウルの中からは砂糖の甘い匂いがしてくる。
「容器に投入!」
「ちょっと待て!ってか、上から!?」
 慌てて押しとどめたのも間に合わず、茶色いカラメルソースは黄色い液体のなかへ落ちて見えなくなった。
「おい、まだ固まってないぞ…?」
「ノープログレム!」
「なんか食うの怖くなってきた…」
 不安げな吸血鬼を尻目に、仙人は上機嫌でギカプリンの歌を歌っていた。