2013年1月〜
真夜中シリーズの過去拍手部屋。

3月 仙人と吸血鬼 年齢詐称
4月 仙人と吸血鬼と専務 入社式
7月 仙人と吸血鬼 アウトドア
3月 年齢詐称



「『年齢詐称』ってどう思う?」

 社長姿の仙人が、ネットで『ヨソでは言えない社内トラブル』という記事を読みながら訊いてきた。

「年齢詐称っつーても、俺たちもしてるしな」
「定年なんてとっくに越えてるもんねー。や、この記事の会社は秘書が36歳までっていう制限があるらしいよー。んで、実年齢36歳の女性が30歳と言って就職したと」
「たった6歳のサバ読みじゃねーか、許してやれよ」

 実年齢3ケタをとっくに突破した吸血鬼がソファーでごろごろしながら投げやりに言った。
 同じく実年齢不明の仙人がパソコンから離れて向かいのソファーにどさっと身を投げ出した。近くに隠してある冷蔵庫からコーラをとりだし、ぷはっと。

「じゃあさ、5〜6歳の幼女がじつは300歳くらいのおばさんだったらどうする?」
「ゆるせん」
「だろうねー」
「若々しい果実のような幼女の至高なる血だと思ってのんだモノが、飲んだ瞬間500年モノだと分かったときの衝撃といったら……!!思い出しただけでも怖気がはしる」
「経験あるんだ、しかも500歳で」
 にやにやしながらコーラ1.5リットルボトルを飲む仙人からコーラを奪い、吸血鬼の青年はラッパ飲みした。アルコールが欲しいとこだが、仕方あるまい。
「嫌なこと思い出させんな。ともかく、働いてもらうのと個人的趣味嗜好とは別モノだってことだ」
 珍しくまともなことを言って強引に締めくくった吸血鬼を見て、にやにや笑いが止まらない仙人であった。
4月 入社式



 4月。それは若人達が、新社会人として新たな一歩を踏み出す月。
 この会社もそれに例外はなく、4月1日から新入社員となった若人たちを迎える入社式が行われていた。
 ……が、もちろんこの会社が普通の会社と同じ入社式をするはずがなく。
 社長席と副社長席には等身大のクマのぬいぐるみと、ミイラの人形が鎮座しており。さらにその隣に座る専務席には表情どころか眉ひとつ動かさない強面が新入社員たちを睥睨(本人的には彼らを暖かく見守っているつもり)していた。

「――― それでは、会社を代表して社長……ではなく、専務からお話をいただきます」
 そこは社長じゃないの!?という新入社員の心の叫びが音もなく会場に響き渡った。
 檀上に上がる強面に、貧血をおこして倒れかかる女子社員が数名。それを見越していたかのように、回収して医務室に運ぶ担当者が数名。無表情にそれを見守る専務は、緊張で手ににじむ汗を壇の影でこっそりぬぐいながら当たり障りのない話をした。
(このような役目は、副社長の方が適任なのだがな……)
 社長と副社長が入社式をボイコットするのはいつものことになってしまっているだけに、それに対応する専務も人事部の社員も慣れたものだ。
 新入社員の代表が、決意表明を壇上にあげられた等身大クマのぬいぐるみにするのを眺めながら、今年も大きな問題がおこることなく、入社式を終えられそうだと専務はこっそり安堵のため息をついた。


 余談であるが、この会社の食堂は自社ビルの屋上に作られており、ちょっとした展望レストランのような様相となっている。そして出てくる料理が絶品なのはもちろんだが、夜7時を過ぎると一般客にも開放されるレストランに変わるうえ、お酒まで出るというのは有名な話。
 噂によると、会社の上層部の意向(我儘とも言う)があったとかなかったとか……。
 そんな食堂を貸し切って、新入社員の歓迎会が行われようとしていた、のだが。

「新入社員の皆さ〜ん!これから新歓コンパを始めまーすっ!」

 はくしゅ〜っ!と食堂に急遽つくられた檀上で音頭をとっているのはスーツを着崩して髪型にやたら凝った様子のホスト風の青年である。……が、彼が副社長その人であることをこの食堂にいる何人が知っているだろうか。
 副社長の傍らに社長の姿もあるのを見て、本日初めて表情を動かした専務を目撃した新入社員に失神者が続出したという。
7月 アウトドア



「キャンプ行こうぜ!」

 唐突にそう言い放ったのは、クーラーの風が直接当たる位置に設置されたソファーでごろごろしていた少年、仙人であった。
 いい思い付きだ!とばかりに飛び起きた彼に向かってほい、と吸血鬼ウルスはとあるゲームソフトを投げた。
 ぽす、と仙人の腹の上に落ちたそのソフトのタイトルには『ぼくのな○やすみ』。

「バーチャルでいって来い」
「やだよ!」

 べしっ、とはたき落とされる『ぼくのな○やすみ』

「今、俺たちに必要なのはアウトドアなんだよ!? インドア人間の暗いだの陰気だのゆーイメージを抹消するためにも!華麗にバーベキューの火熾しをして、肉をいい感じに焼き、女性の関心を独り占め!そしてとどめにキャンプファイヤーで真っ赤に燃え上がる恋の炎!!」
「おめーの場合、火力が強すぎて消し炭になりそうだがな」
「うるさいよ!ともかく、いま、世の女性が求めているのはズバリ『男らしい男』!災害やらなんやらの突発的な事態にも女性を引っ張っていくことができる頼りがいのあるナイスガイなんだよ!俺は、それを目指す!!」

「…モテたいのか」
「いや別に!」

 無意味に握りこぶしつくって力説する仙人。
「だって俺もうモテモテだしぃ?キャンプで遊びたいだけ!」
「やっぱりバーチャルで逝って来い。俺を巻き込むな」

 あー、時間を無駄にした。と呟きながら昼寝用の棺桶へ向かうインドア万歳な吸血鬼であった。