届いていた朝刊を寝ぼけ眼で広げて、その一面を読んだ瞬間、吸血鬼らしくない吸血鬼、ウルスは青ざめた。
真夜中まで及ぶ朝刊の悲劇
「ピンチだ」
吸血鬼の突然の言葉に、仙人は目を丸くした。普段滅多に取り乱す事のない吸血鬼が、息を切らし、汗までかいているのだ。これは相当な事態が起こったに違いない。思わず手に持っていた携帯ゲーム機を置いて、仙人は吸血鬼の話に耳を傾ける。吸血鬼の片手にはぐしゃぐしゃになった新聞が握られており、仙人の目の前でがばっと広げる。
「ここを見ろ」
そう、指差された先は、今話題の不○家パニックの記事だった。使用期限切れの牛乳を使ったからどうのこうのとか、保健所が入ったら大腸菌が検出されただとか、食品衛生管理状況はかなりずさんだったとか、なんやかんやで信用墜落した事の記事だ。ちなみに吸血鬼と仙人の経営する大手ゲーム企業も不○家の株主だったりする。
その、最後の方。
その最後の方に、吸血鬼を久方ぶりに驚愕させ、取り乱させた文があった。
それ、即ち
『イ○ン、セ○ン&アイ・ホール○ィングス、○イエーなど流通大手は相次いで、不○家の全商品を店頭から撤去することを決めた』
「………なんだってっっ!!!????」
思わず吸血鬼の持つ新聞を奪い取り、何度も何度もその記事を往復する。当たり前の事だが、何回読んでも記事が変わる事はない。
「コンビニもスーパーも全部撤去が始まってるって話なんだよっ!!!!!」
「なにぃっっ!!!!!!!!」
ぐしゃぐしゃになった新聞を更にずたぼろにして、仙人は立ち上がる。ここ数年以上全く持って焦った事のない2人が、今、はっきりと焦っていた。互いに血走った目で、見つめあい、今から死地に赴くような形相で、頷き合う。
「君っ!!!!」
「おうよっ!!!!」
「「撤去の前に買い占めだっっ!!!!!!!!!!!」」
まるで嵐のように、人外の者達は走りだし、ぼろぼろの新聞が残された。
しばらくして、撤去をするまでもなく店の不○家商品を箱買いしていくホスト顔の男と、小さな子供の姿が目撃され、それは都内全域にまで広がったようだった。
「やっぱミ○キーはいいよなー」
「ちょっと歯に引っ付くけどな、それがまたいいんだよ」
「おおっ、ロイヤルミルクティー味☆」
「お、マジで? 俺にもくれ」
「ミ○キーはママの味〜♪ ママの顔なんざ覚えてないけどねー」
「ママの味かーっつーかお前に母親が居た事が驚きだな俺は」
「いやー多分居たはずなんだけど。僕元は人間だしー?」
「おっ、○ック、この味食べた事ないわ俺」
「それより僕はカン○リーマアム食べたいなー」
ぼろぼろになった新聞の上、買い占められた不○家商品のダンボール箱が埋め尽くし、新聞としての役目を取り戻す日は軽く1年以上は来なさそうだった。
「1年経てばなんとかなるだろう」
「だな」
今朝一番の驚愕も忘れ、満面の笑みを浮かべる仙人と吸血鬼なのであった。
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