デュラとクリスが小夜に憑いてからしばらく経った頃のこと。
眠れないという小夜に、毎夜デュラとクリスはいろいろな話をした。
真夜中のカミングアウト
「天使と悪魔って本当に仲が悪いの?2人を見ていると、そうは思えないんだけど」
学校で天使と悪魔についての本を読んできた小夜はその夜、2人にそう質問した。
本に出てくる天使と悪魔はどれもいがみあっていて、小夜はデュラとクリスとは大分違うなぁと思いながら読んだのだ。
「本に書いてあるほど仲が悪いわけじゃねぇよ」
そう答えたのは小夜の左半身に憑いている悪魔のデュラ。
小夜の左手を使って姿を現している今は、まるでデフォルメされた黒目黒髪の少年の操り人形のように見える。
一度、小夜が本当の姿をイメージとして見せてもらったときの印象は、鋭い目をした15歳くらいの少年だった。もちろん、人間にはない背中の翼や角なんかが生えていたが。
「まぁ、もちろんそれぞれの都合とかで喧嘩することだってあるんだけどね。種族同士の大抗争なんてのは起こったことがないねぇ」
そう言ったのは小夜の右半身に憑いている天使のクリス。
小夜の右手を使って姿を現している今は、金髪碧眼の、デュラと同じような操り人形の姿。
彼女の本当の姿は、宗教画に出てくるラッパを持った天使がそのまま成長したような女性だった。緩くカールした金髪、穏やかな蒼い眼。もちろん背中には白い翼があって、年のころは35,6といったところ。
「好き合って結婚して子供まで産むやつもいるぞ」
「えっ!そうなの?」
「天使と悪魔の違いなんて、人間で言う目の色やら髪の色の違いだと思ってくれればいいさ。天使が子供生んでみたら悪魔だった、なんてこともあったしね」
「俺もそうやって生まれたしな」
そう言って忌々しげに舌打ちするデュラを見て、クリスは深々とため息をついた。
「まったくこの子を産んだときは驚いたよ。天使と結婚して子供産んでみりゃ、悪魔だったんだもの」
「しょうがねぇだろ、先祖返りだったんだから」
「………え?」
訳が分からず目が点になった小夜に、クリスが静かに言った。
「デュラは私の、実の息子だよ」
「えええええええええ!?」
「残念ながら、事実だ」
重々しく宣言したデュラは、言葉ほど嫌がっているようには見えなかったが。
「ま、過去に結婚した天使と悪魔がいるくらい、境界はあいまいなんだよ」
「灰色の天使なんてヤツもいるくらいだしな」
「ま、悪魔は悪魔、天使は天使でたいてい固まって暮らしてるけどねぇ」
まるで黒目黒髪の人間ばっかり集まってる日本みたいだねぇ、とクリスは笑ったが。
2人が親子という衝撃で思考停止してしまった小夜から返事が返ってくることはなかった。
これは小夜が眠ることを諦めて、夜の散歩に出るまでの、ある夜の出来事。
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