いつものように、外に出て。
いつものように、空を飛び。
今日も、いつもの夜が来た。
真夜中の遭遇
「はじめまして、こんばんわ」
真夜中、いつものように散歩に出た小夜を待っていたのは、好奇心に目をきらきらと輝かせた12〜13歳くらいの少年だった。
「あ、初対面なのに名前も名乗らず失礼したね。僕のことは仙人って呼んで?」
「あの…ボク?こんな夜中に外を歩いていたら親御さんが心配するよ?」
「僕にはもう親はいないよ」
「えっ……?」
まだこんなに小さいのにもう親を亡くしているだなんて。
悲しむような同情するようなそれを申し訳ないと思っているような複雑な小夜の表情をじっくり観察してから、少年は続けた。
「それに僕、もぅボクじゃないよ」
ポン!
煙の中から現れたのは、今まで目の前にいた少年をそのまま大きくしたような青年、だった。
「たまには『俺』にだってなるんだからさ」
「人間…じゃないの?何者?」
「だから仙人だって。人間だけど、人間の域を超えたスーパー人間♪」
えっへん、とばかりに胸を張った仙人は、驚いている小夜を見て満足げな顔をした。
「それはこっちも訊きたいね。君、本当に人間?」
背中に広がる翼と両手に現れたデュラとクリスを指差されて小夜は慌てた。
少年に話しかけられたときに、隠すのを忘れていたのだ。
「あ…!いや、えっと、いちおう人間ですけど…」
「さっきから聞いてるけどなんだい小夜を人間外呼ばわりとは!失礼なヤツだね」
「そうだそうだ!小夜はちょっと…どころかかなり!変な人間だけどれっきとした人間だぞ!」
両手の人形に何やら力説されて小夜は沈没した。
傍らにしゃがみこんだ仙人がポンと小夜の肩に手を置く。
「どんまい♪」
全開の笑顔でそう言われて、小夜は慰められたような良く分からない気分になった。
「……さて、気をとりなおしまして」
「うん」
ビルの屋上にぴしっっと正座した小夜につられて、仙人も彼女の正面に正座した。
が、すぐに痺れてあぐらをかく。
「で、なに?」
「仙人さんのお名前は?」
「はい?」
「何て呼べばいいですか?」
「いや、仙人でいいけど」
「ちゃんとした名前があるでしょう!?」
「いや名前ないんで仙人て呼んで下さいお願いします」
「……まぁいいでしょう。ご職業は?」
「仙人ですけど」
「他に何かないんですか!?」
「うーん…副業としてゲームのプログラムとか小説家とかしてるようなしてないような?」
「本当は何歳なんですか?」
「それは自分でも分からないね」
「ご出身は」
「中国のどっか…てか何でこんなに尋問風なのさ」
……かれこれ30分以上仙人を質問攻めにした小夜は、手に持っていたノートを置いて満足げなため息をついた。
「これで私、仙人さんのこととても良く知れたような気がします」
疲れきって寝転がっていた仙人がその言葉に跳ね起きた。
「そう?じゃぁ今度はこっちが質問してもいい?」
「え?」
「君を見かけてからずっと気になってたんだよねー。背中から生えてるのが白だったり黒だったり。どんな仕掛けがあるのか興味津々」
「ああこれは…デュラとクリスのおかげかな?」
「ほぅ。続けて続けて」
身を乗り出した仙人に合わせて身を引きながら、小夜は続けた。
「ほら、天使とか悪魔って精神体じゃないですか?この2人が憑いているから2人の力を借りて空を飛べるの」
ほらね、と言って広げた翼は右が白、左が黒。
「この翼は風を起こせるけど、不思議なことに触れないの」
「へー」
小夜が翼を動かすたびに、ふわりと風がおこって仙人の前髪をゆらした。
しかし彼が伸ばした手は、小夜の翼をすり抜ける。
「物体じゃないのに、飛べるのか…。うーん、世の中には不思議なことがあるもんだなぁ」
「不思議なのはお前の方だ」
「そうだよ。大きくなったり小さくなったり」
猛然と抗議をしだした両手の人形に苦笑して、仙人は腹から懐中時計を取り出した。
「なんでそこから…てかなんで懐中時計」
「んー?趣味だから。残念、もっと話をしたいんだけど時間切れ」
懐中時計を腹から出したという疑問には答えないまま仙人は言った。
「これから深夜放送のアニメがあるんだよねー」
じゃあまたねー。
現れた時と同じように唐突に去っていく少年姿の仙人を見送りながら、小夜は呟いた。
「変な人だったなぁ…」
お前がそれを言うか。
…という天使と悪魔の呟きは表に出ることはなく。
その後、小夜の穏やかな夜は仙人とその仲間によって非常に賑やかなものとなるのであった。
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