真夜中の転入生
「転入生を紹介します」
教師が放ったその一言に、教室がざわめいた。
ここは夜に生きるものたち…吸血鬼のための学校。
老若男女、さまざまな外見のものたちが人間の世界について学んでいる。
吸血鬼は夜に生きるものたちのなかで圧倒的に数が少ない。
それゆえに、転入生など非常にめずらしい出来事であった。
「はいりなさい」
教師の指示に、教室の戸ががらりと開いて一人の青年が姿を現す。
20代前半、明るい茶色の髪をしているなかなかの美青年。ほりが深い顔立ちは、日本人のものではない。
彼は教壇の横に立つと、さわやかな笑顔を教室中にふりまいた。
その笑顔のさわやかさに、一部の生徒が目を逸らす。闇に生きるものたちにはあまりにもまぶしかったのだろう。
「僕はウルス。姓は忘れました。これから暇つぶしにしばらくここに通うことになったんで、よろしく」
さわやかに自己紹介を終えた彼は、教師の示した席に座り隣の少年に微笑んだ。
「よろしく」
「……よろしく」
無愛想にウルスの挨拶に応じた少年は、彼に興味がないかのように教壇の方を向いた。
真夜中の授業が始まる。
「今日は人間界の流行についてだ」
教師は持ってきた『教科書』を各自に配り始めた。よく見ると、外見年齢によって『教科書』が違うようだ。
右隣の、さっき話しかけた少年が、『ショタ服のABC』と書かれた雑誌を無愛想そのものの顔で読んでいるのを見て、危うくウルスは吹き出しそうになった。
慌てて周囲を見渡してみると…
隣の30代くらいの吸血鬼は、『ちょい不良オヤジ』と書かれた雑誌を真剣に読んでいる。
後ろに座っている少女の手元には、『いま、メイド服が新鮮!』と書かれた雑誌が。
自分には、『男のスキンケア』とでかでかとかかれたファッション雑誌が回ってきた。
……何かが間違っている。
不幸なことに、そのことはウルスしか気付いていないらしい。
……やっべぇ、むちゃくちゃ面白いかも。
暇つぶしに入った夜間学校だったが、コレはヒットだったかもしれない。
授業中、笑いを堪えるのに必死で痛くなったお腹を押さえながら、ウルスは絶対アイツにも教えてやらないと、と決意を固くしたとかしないとか。
|