「今日は十五夜だぞー。起きろー」

 吸血鬼らしくなく、ベッドで惰眠をむさぼっていたウルスはそんな言葉で叩き起こされた。





 真夜中のお月見





「なんなんだよ、いきなり…」

 寝癖がついた髪を適当に直しながら大きなあくびをしたウルスは、目の前に立った少年を見て、再び目をこすった。

 そこにはウサギがいた。

 タキシードを着た白ウサギの着ぐるみ。それを着た少年がちょこんと彼の前に仁王立ちしていたのだ。


 まさかまだ俺寝てるんじゃあるまいな。
 軽くめまいを覚えた彼は寝なおそう…と再びベッドへ向かった。

「お月見をするぞー。団子が食べたいぞー。作れ!!」

 ……あんまり認めたくないが。

「もしかして……仙人、か?」

 彼の相棒である仙人と名乗る人物は、女の子でも男の子でも老人でも中年でも、自在に姿を変えることができる。
 以前は女の子の姿で魔女のコスプレなんぞをしていた。
 今回は少年の姿でウサギの着ぐるみである。

「お前…。なんでそんな姿をしてるんだ?」

「お月見といえばウサギだろう!」

「…いやその格好アリス混ざってるから」

 だいたいタキシードきたウサギの着ぐるみなんてどこで売ってるんだよ。
 がっくりしたウルスを、ウサギキックが襲う。

「早く団子を作れー!」





 団子の粉を耳たぶくらいに練って、沸騰したお湯にちぎって入れる。
 練るのはいいが、ちぎって一つ一つ丸めるのが結構面倒くさい。

「だーんごー、だーんごー」

 彼にその仕事を強要した張本人は、団子を湯に放り込むそのまわりでぴょんぴょん跳ねながら妙な節をつけて歌っていた。

「歌うな、手伝え!」
「えーだって僕こんな手だしー」

 ほら、とウサギの前足を差し出す仙人。

「毛だらけの団子が食べたいかい?」
 ニヤリ、と笑うウサギの格好をした少年。結構ぶきみだった。

「その着ぐるみ脱げばいいじゃないか」
 なんでもいいから手伝え、という思いを込めていうとウサギはふるふると首をふった。

「ほら、この姿ってかわいいでしょ?一人で着るの結構苦労したんだよねー」

 脱ぐのはもうちょっとウサギを堪能してからさ。
 そう言ってウサギは楽しそうに跳ねながら台所を出ていった。




 団子を串に刺して、餡をつくって、はいできあがり。

「おーいできたぞー」
「わーいおだんごだー」

 皿を片手にウサギを呼べば、ぴょんぴょんと跳ねて屋上に来いと催促された。

「セッティングはばっちりさー」

 屋上にでてみれば、どこから出したのか緋毛氈が敷かれススキが風になびく立派なお月見会場。
 明かりはひとつもないけれど、こうこうと輝く満月の前では明かりなど無粋なだけ。

「なかなかなもんじゃないか」
 感心してそう言うと、ウサギの着ぐるみを着た少年は満足げに頷いた。

「苦労したんだよー。特にススキを屋上に生やすところなんかね!」

「お前…あれなんかに生けてあるんじゃないのか…?」

「コンクリートを突き破るんだから、雑草の生命力ってあなどれないよねー」

 満足げなウサギを傍目に、管理人にどうやって説明するんだとウルスは思った。



 まぁともかく。

「お月見しようぜー」

 一足早く緋毛氈に座ってぽんぽんと隣をたたくウサギに従うことにする。
 空は雲ひとつなく、まぶしいほどに輝く満月は一年に一度の晴れ舞台にはりきっているように思えた。

 2人、言葉もなく空を見上げる。

「きれいだな」
「きれいだねー」

「こんなのを見ると、まだ生きていたいって思えるな」
「そうだねー」


 長い、永い生に飽きることもある。
 それでも彼らが生きてきたのは、きっとこんな瞬間のため。





 静かで穏やかなお月見は、ニヤリと笑ったウサギ姿の少年が『龍殺し』と書かれた酒を取り出してくるまで続いた。








2006年10月8日

久しぶりにまともに満月を見上げてお月見をしました。
ひきかけだった風邪がさらにひどくなりました。
彼らだったらこんな風にお月見をするんだろうなーと相方と話してるときに浮かんだネタ。
面白おかしく生きることだけを考えてる彼らも、しみじみすることがあるんだよってことで。

浅羽翠