『天使を目指す学生の志望動機』









『 天使、と言うものは、要するところ天の使い走り、と言うことで。その役割は、人間の抱く荘厳なイメージからすれば、相当な開きがあることは否めない。
 まず、人間の魂を迎えに行く役割。これは、死神の役割だ。天国に逝く人間だろうと、地獄に逝く人間だろうと、等しく死神の洗礼を受ける。罪は清算させ、選別を行い、死へ誘う。天使が人間界に姿を見せないのは、これが大きな理由だ。ちなみに自爆霊の回収や浮遊霊の回収も死神の役割である。それでは、天使は何をしているのか?……答えは簡潔にして明瞭だ。一言で表せる。要するに、事務。そう……ただの事務処理係なのだ。

 死神の捜索班の集めてきた霊の情報の登録、悪霊となったもののリスト作成。他にも、魂の天国への登録に地獄への登録。死神及び天使のリスト更新等等等。とにかく事務。ひたすら地味にひたすら事務なのだ。

 そんなわけで天使よりも死神を目指す者の方が多い。人間界の言葉を借りるなら、どちらも公務員のようなものであろう。とはいえ、就職の厳しさは死神の方が断然上だ。見た目の格好よさに加え、保障も効き、ボーナスも高いとくれば当然の結果であろう。

 だが、自分は天使に憧れる。何故なら天使は、死神と同じ公務員でありながら、殉職の心配がない。だから保険が少ないのだという意見もあるが、当たり前と言えば当たり前であるし、他の職業に比べれば天地の差だ。何より自分が惹かれる点は、定刻より始まり定刻に終われる点だ。死神は、またも人間界の言葉を引用するのならば警察の様なものだ。何事かあれば呼び出され、上からの収集があればすぐさま集まらなければならない。例えそれが休暇の真っ最中で、家族との旅行中であってもだ。彼らにとってそれは絶対の事柄であり規則だ。破れば減棒という切ない出来事が待っているであろう。死神の黒く骨格のしっかりとした大きな翼は、その為にもついているのだから。そういえば、天使にふさふさとした柔らかな翼がつく理由は、いつになっても分からない。正直な話、天の主…神様の気紛れだと思っているのだが、確証はない。誰一人それに疑問をはさまず、それについての研究がなされていないことから、過去に歴史より抹消しなければならない出来事があったのではないかとも推測される。真実は如何ほどなものか、今は推論の域を出ない。

 話が逸れてしまったが、自分は天使に憧れる。前にも述べたとおり、天使は時間に縛られる。決まった時間に始まり決まった時間に終わる。この規則正しさが自分にとってもっとも好ましく、価値あるもののように思える。かつて死神であった母は、自分にとって憧れではあったが、共に過ごせる時間はわずかでしかなく、結局は早々の永久退職…所謂殉職となった。人間にしてみれば天使や死神が死ぬというのは不思議でしかないのだろうが、彼らとて死ぬのだ。魂が消し飛び、大気へ散り、2度と天へ戻ることはない。魂の欠片を残された者たちは形見とする。私は、母の形見を持っている。いつも自分の中に母を感じている。母の生き方は見事で、死に際も見事だったという。だが、自分は欠片ではなく、母自身に戻ってきて欲しかったのだ。父は、母を褒め、欠片を手に泣いたが、自分には褒めることなど出来ない。母は私との約束を破ったのだ。必ず次の休みには共に過ごすという大切な約束を。

 死神は、華やかで、魂を導く素晴らしい職業だ。だが自分は死神となって自分の為、人の為に生きるよりも、いつか出来るであろう家族の為に生きたい。母も父にも出来なかったことを自分はやりたい。天使として職に就き、どれだけ地味で光の当たらない職業であっても、与えられた仕事を全うし、堅実に生き、家族の元へ帰るのだ。

 だから、私は天使になるべく今勉強するのだ。 』








「どーよ?」

「どーよ…って…お前、これ本当に親父さんに見せたのか?」

「おう。見せた」

「…親父さん、泣いただろ?」

「泣いた。盛大に泣いた」

「…んで本心は?」

「人間の魂集めなんざ面倒臭えことやってられっか。後親父への恨み言と日ごろの疑問をこめて」

「恨むなって。親父さん…神様にも死神を生き返らせることなんざ無理なんだからよ」

「…うるせ」

「それで、親父さんの職業は継がないんだなー」

「おうよ。神様なんていわば事務処理のてっぺんだぜ?俺は書類に忙殺される日々なんて真っ平ごめんだね」

「あーあ、親不孝な息子だねぇ」

「お前に言われたくないね。閻魔のおっちゃんだってお前に職業継がせたいんだろ?」

「…どっから聞いてきたよ?」

「本人」

「…あのくそ親父…」

「理由」

「…俺は気楽な一兵隊が言いんだってのー。いい上司に恵まれた平は最高だぜ?」

「一死神ってか?後その口調も止めろだってよ」

「口調?…ああ。いいだろ別に。男の格好させて育てたのはあいつなんだからな」

「女の閻魔王なんて格好つかないからな」

「その通り。ま、継がないけどな」

「だな。お前が閻魔になったら俺まで神様にならないといけないし」

「はぁ?何で?」

「…お前は馬鹿か?」

「はぁ!?喧嘩売ってるわけ?買うよ?」

「勝てる喧嘩はしねーんだよ。俺は」

「…嫌な奴」

「嫌な奴結構。…で、お前そろそろ仕事だろ」

「…お?もうそんな時間か?」

「じゃねーの?一死神さんは仕事の時間です」

「あー…めんど。ま、あんまり親父さん泣かせるなよ」

「そっちもな。親父さん、酒弱いんだからあんまり酒に溺れさせるな」

「分かってる。じゃ、俺は行くわ」

「おう。またな」



 黒い翼を見送って呟いた。

「お前の為に生きたい…ってか?…………………くっさ」

 彼の元に天使への合格通知が届くのはまだ先のこと。













 


 2005年8月14日
 +++++++++++++++++++++++++++++++
 ……………くっさ。
 あっはっはuu
 終われなかったんで無理やり終わらせた感じ。
 公務員はいいよなーって話。違(笑)
 親父さんはよく泣きます。
 もう一人の親父さんは酒飲んで友人の息子に愚痴ります。
 そんな楽しい就職状況。
 …現実は儚く厳しいものだがな。ちくしょーめ。
 就職活動中(もしくは進学猛勉強中)の皆さんガンバローーーーオーーーー。