『雨』










「なんで?」

 そう、自分は呟いた。

 そして、それが最後の記憶だった。




 きらきらと零れ落ちる雫。




 ふわりふわりと、その間を飛び回る。

 なんだろう。

 なんだろう。

 この雫はなんだろう。





「逝ったか」

 そう、男は呟いた。

 目の前に広がる血の海に、流れ続ける雫がはねる。




 きらきらと零れ落ちた。




 目の前で死んでいる少女の好きな雨音のような。

 そんな澄んだ音を響かせる。

 もう、彼女はいないのに。



 如何してこんな事になったのだろう。

 如何してこんな終末を迎えなければならなかったのだろう。



 周りを浄化させるような、澄んだ笑みが好きだった。

 全ての不幸を霧散させてしまうような、明るい明るい声が好きだった。

 美しい、と呼べる顔ではなかったけど。

 可愛い、とは思った。

 惚れてしまった弱みに違いなかったけど。



 全部全部好きだった。



 目の前で赤に身体を染めた少女を見る。

 自然と崩れた膝は、彼女の横に。

 彼女の死に顔は綺麗だった。

 ぽたり、ぽたり、と。

 少女の頬を雨のように涙が濡らした。



 ああ。そうだ。

 彼女はよく言っていた。


『泣き虫。そんなに泣いてばっかりだと雨に溶けちゃうぞ!』


「君が好きな雨になれるなら、いいよ」


『馬鹿ね。そんなの私が困るわ。私は雨よりももっとあんたが好きなんだから』


「………ありがとう」


 たくさんのものを君に貰ったのに、自分は君のモノを奪ってばっかりだ。

 でも、だ。

 もうこれで最後。

 早く気付けばよかった。

 君からは何も奪わない。

 君から貰ったもの。

 全部。

 君に返そう。


 雨に溶けるとどんな風だろう。


 出来る事なら君の好きな雨になりたい。


「さようなら」


 全部返す。


















「なんで?」

 そう、自分は呟いた。

 もう一度。

 最後の記憶の筈のその言葉。



 きらきらと零れ落ちる欠片。



 頬を濡らす、その雫。

 目の前に広がる血の海に、流れ続ける雫がはねる。




 目の前で死んでいるのは、先程自分の命を奪った男。

 なのに、如何して自分が生きて、彼が死んでいるの?

 如何して。

 如何して。



 ぽたり。ぽたり。



 小さな雫が幾らか降って、それを合図にしたかのように大粒の雫が天から降ってきた。

 たくさん。

 たくさん。


 彼がよく言っていた。


『君が好きな雨になれるなら、いいよ』


 でも私は嫌だった。

 雨は好き。

 暖かい雨音。

 優しい雨の色。


 それよりももっと彼が好き。

 だから、顎をつんとそらして胸を張って。


「馬鹿ね。そんなの私が困るわ。私は雨よりももっとあんたが好きなんだから」


 そう言うのだ。

 それなのに。

 如何して?


 雨が降る。


 たくさんの水に私と彼の血が交じり合って溶け合う。


 不意に、ぐらりと彼の輪郭が溶けた。


 え?と思う間もなかった。

 彼の輪郭だけでない。

 彼の全て。

 彼の全てが水に溶けて。


 雨になった。



「なんで?」



 何で?何で?

 咄嗟に掴もうとした両手はぴしゃりと水をはねた。



「ねぇ、なんで?」



 答えは、ない。


 雨が流れる。

 彼と、彼の流した血と、自分の流した血と。

 全てが混ざって。

 溶け合って。



「どうしてよ」



 さようなら。

 聞こえる筈のない、言葉を聴いた気がした。























 


 2005年6月26日
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 ………どうしようもない上に意味が分からないですねuu
 突然に書いてしまった死にネタ。
 本当は彼も彼女を追って心中の筈でしたが、なぜか彼女は生き返りました。
 なんで?っていうのは私も聞きたいuu

 ダークだけど綺麗な話が書きたかったですuu

 ああ。それから「雨が降る」ってフレーズが好きです(笑)
 数少ないオリジの久々の更新がこれですみませんuu