昔々、赤のサンタ族と黒のサンタ族がいました。
赤のサンタ族は頑張り者の一族、黒のサンタ族は怠け者の一族でした。
けれど、黒サンタ族はもういません。
彼らは『来年こそは君たちを僕たちが助けるよ』という約束をあんまりにも守らなかったため
トナカイとなって約束を守ることになったのです。
はじめの頃は、クリスマスが終わると黒サンタ族へ戻っていたのですが、
いつからか、黒サンタとしての記憶も忘れ、トナカイそのものとなったのです。
…こうして、トナカイになった黒サンタ族と、赤サンタ族。
それに一族の長、金サンタ族は今年もクリスマスを迎えることになりました。
赤サンタ族は世界中から子供たちの願いのものを準備しています。
そこへ、とても風変わりなサンタがサンタの里へ、帰ってきました。
赤サンタ族も金サンタも、とても驚きました。そのサンタは黒サンタだったのです。
けれど、黒サンタは黒サンタでも、とても風変わりなサンタで、歩いて人間の世界を旅していた黒サンタです。
本当ならサンタ族は風のように速く動ける一族なのです。
その黒サンタは50年ぶりにサンタの里へ帰ってきたのです。
今やたった一人になってしまった黒サンタは驚きました。
なぜなら黒サンタ族の住んでいた場所が全部なくなっていたからです。
最後の黒サンタは言います。
「これは一体どうしたことでしょうか…。私の家が、母の家が、友の家が、すべてないではありませんか!!」
あるのはただトナカイの住処だけです。
黒サンタを迎えた赤サンタの知らせに、金のサンタがやってきました。
黒サンタは叫びました。
「おおっ。我らが主、金のサンタよ!! 黒サンタ族はどこへ行ってしまったというのでしょう!!」
金のサンタは答えました。
「黒サンタはトナカイとなったのだ」
そういってその経緯を黒サンタに話しました。
「彼らが黒サンタ族と言うのですか!? …ああっ。なんてことでしょう!!
私はもう家族と語ることも、友と騒ぐことも出来ないというのですね!!」
黒サンタは嘆きました。
とても深く悲しみ、嘆き、大声で泣きました。
その嘆きようはひどいものでした。
金のサンタは困りました。
赤のサンタも黒サンタの嘆きにどうすることもできません。
黒サンタ族は自業自得だったのかもしれませんが、
事の発端は赤サンタ族が金のサンタに相談したことなのです。
三日三晩、黒サンタは泣き続けました。
金のサンタはずっと悩んでいました。
金のサンタにも彼の悲しみを癒す方法は見つからなかったのです。
なぜなら、黒サンタ族であるトナカイは、もう黒サンタであったことを覚えていないのですから。
それでは黒サンタ族をトナカイから戻したとしても、それは元の黒サンタ族ではありません。
黒のサンタは、正真正銘ただの一人しかいなくなってしまったのです。
三日三晩泣き続けた次の日の朝、黒のサンタは金のサンタに会いにきました。
「金のサンタ、お願いがあります」
泣きはらした赤い目で、黒サンタは言いました。
「どうか私を人間にしてください」
黒サンタの言葉に、金のサンタは驚きました。
そんなことを言い出したサンタ族は、これまでに一人も居ません。
サンタ族にとって、人間とはとてもか弱く、非力な、守り、慈しむべき存在なのです。
「サンタであることを止めるというのか!」
「もう私の仲間はどこにも居ません。私はトナカイにはなろうと思いません。
赤サンタも私を受け入れてはくれないでしょう。それなら人間となって人間の世界で生きたいのです」
金のサンタは困りました。
前例がないのですから。
けれど金のサンタとしては黒のサンタの望みをかなえたい気持ちで一杯でした。
金のサンタとしても、まさか黒サンタ族が皆トナカイのままになってしまうとは思ってなかったのです。
だから、迷いましたが、頷いたのです。
そうして人間になることになった黒サンタは、元黒サンタ族であるトナカイたちに別れを告げました。
もう黒サンタとしての記憶を持っていないトナカイ達も、悲しそうに首を振りました。
最後にもう一度涙を流して、最後の黒サンタ族は人間になりました。
こうして黒サンタ族はもう世界のどこにも存在しなくなったのでした。
最後の黒サンタだった人間は、今でもどこかを旅をしているのでしょう。
黒サンタと赤サンタの話をしながら。
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