『白い猫 朱の鳥』







 暗闇の中、白面に猫を模した面をつけた黒髪の主が、長い髪をふわりと舞わせ、音もなく飛ぶ。
 付き従うように、ぴったりと隣を走る、白面に朱色で彩る鳥の面。
 紅の髪を高く結び、2つにわかれた長い三つ編みがぴん、と伸びる。
 黒髪の主が、紅の髪の主に向き直った。
 けれどもスピードは落ちない。
 前を見ることもなく、黒髪の主は全てを把握しているのだ。

「サクラ」

 意外に高く、幼い声に、呼ばれた紅髪は頭を押さえた。

「…白い猫。その呼び方止めて。今は下忍任務じゃないのよ?」
「あら、ごめんなさい?朱の鳥」
「…全然悪いなんて思ってないじゃない…」

 くすくすと笑い声が響く。白い猫は遊び好き。朱の鳥はくそ真面目。
 暗部の中では知れ渡っていることだ。

「何の事かしら?朱の鳥は疑り深いのではない?」
「…白い猫はただの化け猫だわ」

 大仰に白い猫は驚いて見せた。面の下の相貌はキラキラと輝いている。

「あら、嬉しい。化け猫ならきっと化け狐と一緒になれるわ」
「…っっ!!ヒナタ!!!!あ、あんたまだあんな奴の事を!!!」

 思わず、叫んだ朱の鳥。白い猫はまたも笑って、朱の鳥をたしなめる。

「朱の鳥。今は下忍任務じゃないのよ?」
「それどころじゃないわよ!!!ヒナタ!いーい?…あんな奴、止めておきなさい?馬鹿で無鉄砲で迷惑しかかけないんだから!!!」
「朱の鳥。私はそれでも彼が好きよ」

 きっぱりと言い切った白い猫に、朱の鳥が絶句する。
 何回この押し問答を繰り返しただろう。
 化け狐。九尾の狐を朱の鳥は認めない。
 確かに彼は明るくて、馬鹿だけど純粋で、意外にも努力家で、優しくて、なんとなく母性をくすぐられるような気もしなくもないのだが…。

 いやだがしかし。

「ナルトなんかにヒナタを渡すもんですかーーーーーーーーー!!!!!!!(しゃーーーーーんなろーーーーーーーー)」

 本音。

「サクラずるいよ、ナルト君独り占め」

 いつとったのか、白い猫の面を外した黒髪の主が、じっと、白い瞳で朱の鳥を見つめている。
 満月を思わせる、大きくて、間白い純白の瞳。
 じっと、見つめるその顔が可愛くて可愛くて………。

「……………あう」

 誘惑に負けて、ぎゅう、と抱きしめた。
 変化前も変化後も自分の方が大きいので、すっぽりと腕の中に収める事が出来る。
 走りながらそんな話をしていたわけで。
 急に抱きつかれて、白い猫は眼を見開いて、動きを止めた。
 抱きついた朱の鳥は、抱きついた瞬間だけは今の状況を完璧に忘れていた。
 結果、バランスを崩して2人共地に倒れ伏す。

「いったぁーーーー!!!」
「さ、サクラ、痛いよ」
「あああーーー!ごめんっっ!ヒナタ!!大丈夫!?」

 慌てて朱の鳥は白い猫の全身のチャクラを探る。
 幼い時よりチャクラコントロールに優れていた朱の鳥は、白い猫の特訓の成果にて、今ではほとんどの医療忍術に精通している。

「良かった…傷はないわ!」
「サクラ、私絶対にナルト君の事諦めないんだからね!」
「もーーーー!何でよ!なんでそこにもどるのよ!」
「サクラだって、ナルト君に気をとられてサスケ君に愛想つかされても知らないから!」
「ひ、ヒナタ待って、怒らないで!お願い!」

 本気で怒り始めた白い猫を、必死で朱の鳥はなだめる。
 大好きな白い猫にへそを曲げられてはたまらない。サスケは確かに大事だが、いわば他人。
 だが、白い猫は朱の鳥の2人目の母親で、姉で、妹なのだから。
 大事な大事な家族を他の人間にとられてたまるか、と必死な朱の鳥としては、白い猫と一緒にいられなくなるのが何よりも応える。
 くそ真面目、と名高い朱の鳥のこの姿を知るのは、白い猫くらいのものだろう。

 おろおろと手を上げたり、視線を彷徨わせたり、面を外してまたつけたりと、せわしないその様子に、白い猫が笑った。
 白い猫は確かに遊び好きで有名だが、本来とても慈悲深い。
 本当のところで人を嫌いにはなれない。怒ってもすぐにその怒りは消えてしまう。
 その姿を知るのもまた、朱の鳥くらいのものだろう。

「朱の鳥、どうやら敵が来たみたい」
「えっ!…ええええ?」

 ばたばたと立ち上がった朱の鳥。
 反対に、白い猫はゆっくりと立ち上がる。

「はい、朱の鳥、深呼吸」
「うん」

 すぅーはぁー。とやけにのんびりなことをして、朱の鳥は面をかぶった。
 面の下から覗く緑の瞳に、先程までの混乱の色はなく、くそ真面目、と評される朱の鳥の瞳。

「白い猫。私が先陣を切るわ。貴方は後方援護を」
「ええ。朱の鳥。信頼しているわ」

 その言葉が、何よりも確実な援護。

「では、行きます」
「行ってらっしゃい」

 面をつけた白い猫の瞳が、優しく瞬いた。
 2005年9月29日
 何だかリク頂いてすぐにこの2人が浮かんだので、ダッシュで書きました。
 さこさまリクエスト「スレヒナ+スレサクの雑談小話」です。
 ざ、雑談…?あれ…?
 ちょっと…いやかなり…リクエストに添えたかどうか怪しいところなのですが…。
 もしよろしければ受け取ってください。

 朱の鳥、ことサクラを育てたのが、白い猫ことヒナタ。
 力はまだまだヒナタの方が上。
 いつもと暗部名の種類が違うのですが、何だか偉い楽しかったです(笑)
 55000hitリクありがとうございました。